夜会は波乱 1
夕べにはコンラートさんもわざわざ来て、平謝りしていった。いいのに、べつに。コンラートさんが悪いわけじゃないし。
いつもキリリとしたコンラートさんが、所在なさげに眉尻を下げ、肩をすぼめるさまはとてもじゃないけど、居たたまれなかった。
好きな人に、こんな顔させるんじゃねえよ、とか思うよね。
「気にしてませんから。準備万端で出発しましょうね」
なーんて、こっちが励ましちゃったりしてね。
あと2日、王さままでできちゃったんだから、大人しくしてくれたらいいんだけど。
まあ、これ以上やるっていうんなら、やり返しますよ。倍返しだ!
なんて意気込んでいたのに、いざ当日。目の前のトルソーが着ているドレスを見て、あんぐりと口を開けている。
なんだこれ。
宰相閣下が「こちらで用意します」と言ったのがこれか?
けばけばしい濃い赤のテカッとした生地。ホルターネックで背中ガラ空き。脇に大きくスリットが入って、太ももまで丸見え。アオザイみたい。でもあれ、パンツはいてるもんね。
よくいえばジャズシンガーのステージ衣装。悪く言えばできの悪いキャバ嬢。
「わたしがこれを着るの?」
「ええ、もちろん。お似合いですよ」
「……ほんとだな」
「……ええ、もちろん」
うそだな。ぜったいうそだな。
誰の差し金だ。まさかあの小娘か。こいつらを買収したのか。王さまにまでくぎを刺されたはずなのに、まだやるか。
しかも、背の低いわたしには似合わないデザインなわけよ。こういうのは背が高くてすらっとした人じゃないと似合わないでしょうよ。
くっそ。
いいよ。
やってやらぁ。
返り討ちにしてやんよ。
髪は数か所ピンでとめられ、しゃらしゃらした飾りをつけられる。
「こんなに短いとちゃんと結えませんねぇ。聖女さまのお国では、みなさまこんなに短いのですか? それに、変わったお色で」
うるせえな。嫌味たらたら言いやがって。
「そりゃあ最先端のモードですから」
「もーど」
「はい。流行の最先端ってことですよ。わたしが」
「そ、そうですか。変わってますのね」
ありふれたショートカットにアッシュブラウンのカラー。通勤車両に10人はいるだろう、ザ=アベレージビジネスウーマン。
ふん!
やたら化粧に時間がかかると思ったら、鏡に映ったのはどこのドラァグクイーンかと思った。
「へえ。これがこの世界の最先端モードですか。ずいぶん変わってますのね」
ほほほ。
ほほほ。
「では、ハイヒールを持ってきてください」
エラが用意したのは、ちょこんとお花がついたローヒール。
ちがうだろ。
「ハイヒールですか?」
「ええ、ハイヒール。一番高いやつを」
詰めが甘い。やるならきっちりやりやがれ。
「これが一番合いますわ」
逆らうか。
「持ってこいや」
エラはしぶしぶ3足ばかりの靴を持ってきた。その中で一番派手な、黒地にスパンコールのぎらぎらしたやつを履いてやった。八センチくらいのハイヒール。
歩くのはたいへんだけどね。
やると言ったらとことんやるよ、わたしは!
それから聖女の扇。宰相閣下もクジャクがお気に召したのか、緑と白と5本ずつ用意された。
「汚れたり壊れたりしたら、マリア嬢に直してもらってください」
なるほど、魔法って便利。
だから緑の扇を持つ。赤と緑と黒とスパンコール。いっそ毒々しい。
エラたちがニヤニヤしている。笑っているのも今のうちだからな。
そうして夜会会場へと乗り込んだ。途中すれ違う人々が、ぎょっとする。でしょうね。
でも開き直ったわたしは負けないよ。
めいっぱいあごを上げて、かつかつとヒール鳴らして歩いていく。
お披露目の主役は、最後に入場。
ホールのドアの前で待機。中は思いっきりざわざわしているね。
宰相閣下の「聖女、アリー=マディーノさまをご紹介します」の声がひときわ高く響いた。ざわめきが引く。それを合図に、観音開きの扉があいた。
まるで新郎新婦の入場だな。立っているのはドラァグクイーンもどきのわたしひとりだが。
ホールの中は、とてもきらびやかでまぶしかった。
わたしは「ふうっ」と一息吐くと、扇をぎゅっと握りしめた。
さあ、一発かましますか!
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