エピローグ 「……かもしれない。」
「お~。またまた読書中?
話しかけちゃってもいーい?」
野良猫も私も居座りたくなる、校舎裏。
段差に座って本を読む私に、
ひょいっと前かがみになって、あまみが話しかけてきた。
「うん。もちろん大丈夫だよ。
ちなみに、今読んでるのはミステリーなんだ。
この時代の小説は大好き! 極まってる。
というか、この時代は娯楽が多いよね、本当に」
本から視線をあげつつ、そんな返事をすると、
「へえー。『この時代』かぁ。ほほぉ~。うふふふ」
あまみは何とも言えない、にこやかすぎる笑みを浮かべた。
ううう……。
「半信半疑」って言葉が、顔に貼りついてるよね?
いや、半々じゃなくて「1信9疑」ってとこかな。
私は本当のこと――未来からやってきた――を言ったのに、
そういう設定を抱えた、どうしようもなく痛い奴と思われている。
は、恥ずかしい…。
けど、まあ、もういい。この方が素直に話せるし。ほんとのことだし。
「この前読んでたのも、ミステリーじゃなかったっけ?
やっぱりミステリー小説が、一番好きなんだ?」
そんなあまみの問いかけに、
不自然に、とても動揺してしまう。
未来とか使命とか関係なく、単なる、イチ本好きとして。
「あ、う、うん。でも全っっ然、詳しくないし!
もうほんっっと読書量も少ないし、お恥ずかしい!!!
好きは好きなんだけどねっ、でも、
私なんぞがミステリーについては語れないというかっ、
推理というものが何なのか、今だに模索中というか……ッ」
照れを通り越して、あわあわと、思わず挙動不審になってしまう。
そんな私の様子は気にしないかのように、
あまみはサラリと次なる話題を繰り出す。
「んふふー。じゃあね、そんなスミナに、
この学校にまつわる『謎』を教えてあげよっか。
まあ謎っていうと、少し大げさかもだけど」
う、うん。
思わず前のめりになる。
あまみは、腕をあげて少し遠くの講堂の方を指し示した。
「ほら、あの講堂の出入口の上の方にさ、
【花畑を描いた大きな絵】が 飾られてるの知ってる?」
「ああ、うん。あった気がする」と返事しつつも、
そのイメージは、頭のなかで少しぼんやりしている。
確か……お花がたくさんで、幻想的な絵だったかな。
思い浮かべようとするが、どうにも曖昧だ。
まあ、日常に溶け込んだ展示物ってそういうもんだよね。
あまみは、秘密を打ち明けるように、そっと小声で
「あのお花畑の絵さぁ~、
よぉーーーく見ると……
ぜんぶ、食虫植物なんだって」
!!!??
思わず、「えっ!??」なんて、
大きな声をあげてしまった。
ほんとに? なんで!!??
ひょっとして、この高校――
日常に、謎が溶け込んでます!!??
「よーし、じゃあこれから、講堂の絵を見に行ってみよっか?」
あまみからのお誘いに、私はうんうんと力強く頷く。
ぜひ、しっかり観察したい。
絵の作者は、その絵にどんなメッセージ性を込めたんだろう。
「じゃあ、近道で行くからついてきて。あ、そこ水たまり気をつけてね。
この渡り廊下を行くと、便利なんだよね~♪」
いろいろと教えてくれる、あまみ。
講堂へと向かう、あまみの背を見ながら。
光に透ける、亜麻色のお団子髪に見惚れながら。私はふっと思う。
すぐに後を追いかけるけど、少しだけ、
気持ちを整理したい気分。
――あのね、あまみ。
この時代には「電力」が「足りない」のだけど……。
この先の未来ではね、ほんとうに
あらゆる「いろんなもの」が足りなくなっていくんだ。
そして一番足りなくなってるのはね、
やっぱり「人材」なんじゃないかと思うよ。
『志が高くて、気持ちが強くて、諦めてなくて、なおかつ正気の人』が、本当に……少ない。
ごめんね。
もう、未来を「未来だけで救う」ことはできなくて。
だから過去にできるだけ戻って、
この時代から適切な人材を探してる。画期的な方法も、模索してる。
私の試行錯誤――
1000の手札も、10000の模索も、100000の網羅も、
すべては無駄で、徒労に終わるかもしれない。
それでも、何かが見つかるかもしれないし、
現に見つかっている……かもしれない。
例えばあの、パソコン部の部長。
保留し続ける弱さがあるとはいえ、それほどの強い思いと実行力があるのなら、
環境問題を救う重要なキーパーソンになる……かもしれない。
保健室のほんわか先生だって。
モラルと支援に携わるキーパーソンになってくれる……かもしれない。
深いやさしさを、そのまま未来へと届けられたら、どれだけ心強いだろう。
そして、あまみは、脚にわざわざアザを作るほどの
得体のしれない甘味への情熱と執着をもってして、
食糧難を救うキーパーソンになる……かもしれない。
そうなるか根拠はないけど、そうならない理由もない。
ああ、これって、いわゆる「セカイ系」的な発想?
笑われるかな?
でもね、間違いなく――
「大きな世界」は、「小さな世界」が集まったものだ。
「大きな出来事」は、「小さな出来事」から転がっていく。
そこまで考えて、私の方こそ、少し苦笑してしまう。
決意と開き直りって、まるで隣接してるみたいだ。
そう、すべては「小さなこと」から始まる。
だとしたら……この時代の楽しさを享受する後ろめたさとともに、
私はもっと、驚きを楽しみたい。
小さな世界の、小さな出来事を丁寧に存分に味わっていきたい。
あまみの好きな「ピュアな驚き」も、
私の好きな「予想外の驚き」も、
1つひとつ拾って……全身で浴びていきたい。
「うわわっ、なんでぼーっと突っ立ってるのスミナ~!
早くおいでよー!」
渡り廊下の向こうで、あまみが手を振る。
私を呼んでくれる人のもとへ、歩き出さなきゃ。
「ごめん、今いく! すぐ行くから!」
私はいま、ここで。
ちょっと暑くて、ちょっと暗い、この時代で――
希望の欠片と向き合っている。
<fin>
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