13 ほぼ同時だった。


それがこの――凍結部だ。


「アイスがついに……凍った~!!!!!」


私の思考の着地と、

あまみのはじけるように嬉しそうな声は、

ほぼ同時だった。


「ほら、アイスできたよっ。

白くってキラッキラしてるぅ~~!!!」


確かに、ジップロックの中の「アイス液」は、

無事にほどよく凍ったようだ。


つまり、ついに……晴れて「アイス」となったのだ。

あまみは、そこに……雪のような白い固まりに

長い銀のスプーンを大胆に突っ込み、そっと、すくった。


スプーンのくぼみ部分に乗った――

氷の細かい粒がキラキラ反射する、白い固まり。


別にアイスなんて、何度だって食べたことあるのに。

すごくシンプルな牛乳と砂糖だけのアイスなのに。

なんだか高貴で。甘美で。魅惑的で。

それはとてもとても尊いものに見えて。


――この放課後に、こんな日々があったこと。

これ以上に大事な瞬間って、これ以上に覚えておきたい記憶って、

人生に何度あるのかな?


銀色スプーンに乗せられて、

私の目の前に差し出された、白くて輝くアイス。

「さ、食べて」と、あまみが微笑む。


その味の感想は、バカみたいに単純で。



「美味し…っ」



うっとりするような声が漏れた。



◇◇◇



さーてさて。


「アイスはやっぱり、暑いとこで食べたほうが良いのでは?」

という当然の気付きによって、私たちは調理室に戻ってきた。


そうして甘味部に、私たちの声が響く。かしましく。


「うっあーーーー。 アイスおいしいいいーーーー!!!」と、私。

「つめたーーーい!!!! 最っ高~~♪」と、あまみも続く。


パソコン部で食べたときと、テンションが違うぜ。

温度のせいもあるけど、何より……やっぱりあの部屋は、部外者の私たちが大騒ぎしてはいけない場所だったから。

想いが閉じ込められた、静謐な部室……だったから。


それに、ここではちーゃんと

素敵なグラスに、アイスを盛り付けしたしね。


それにしても、だ。

……アイスって本当にすごい!


だっていつも嫌ぁな気持ちになるこの暑さが、今この瞬間には――

「アイスを美味しく食べるためのスパイス」みたいになっている。


うっとりとアイスの冷たさと甘さに浸っていると、

隣に座っているあまみから質問が飛んできた。


「ねーねー、スミナ。『ピュアな驚き』について、

アタシが語ったこと覚えてる?」


私はスラスラと即答する。

「もちろん覚えてるよ。

水たまりがハートの形とか。果物が思ってたよりも甘いとか。

そういうのが、あまみが好きな驚きで、『ピュアな明るい驚き』なんだよね」


その回答を聞いたあまみが、ぱっと顔を明るくする。


「そうそうっ! そのアタシの『ピュアな驚き』リストに、

【放課後に、友達と学校で食べる手作りアイスって、こんなにも美味しいんだ!】

を追加しとくよ。……ちょっと長文だけど」


あまみのそんな台詞が、ふわっと深く刺さった。

「友達」と言われて嬉しいのもあるけど、


もしかして――


「驚き」って、なんだかものすごく大事なものなのでは?

と気付いたからだ。


驚きは、他の感情に比べてとても原始的。

心と体の動揺であり、本能のようなもの。


事故に遭いそうになって驚いた! など、そもそもネガティブなことも多い。

生きているだけで、受動的に、良くも悪くも驚くことがたくさんある。

自然災害にも驚くし、技術の発展にも、驚く。驚かないわけがない。


そんななか、「好きな驚き」について考えるのは、

「自分が、何に揺り動かされたいか?」という、人生の選択や価値観や希望そのものなんじゃないだろうか。


では、自分の場合は何か? と考える。

そう。私が好きなのは――


心が跳ねるような、驚き。


未知で、予想外で、それでいて理と情のある、

心を跳ねさせてくれて、でも沁みる着地のある


……そんな驚き。


「ほへえーー。なるほどねえ」


あまみの感心したような興味深そうな声に、

はっと我に返る。


「も、もしかして、私、

思ったことを口に出してた!!???」


あまみは、にっこにこと、ご機嫌に微笑む。

「うんっ! っていうか、嬉しいよ。色々喋ってくれて」


うわあ。なんだか私らしからぬ感覚的なことを

語ってしまった。恥ずかしい。

美味しいアイスで、口が滑った、のかな。


はーーー。手のひらでパタパタと自分をあおぐ。

まるで酔ったみたい。ラム酒入りのアイスじゃないのに。


でも、でも、

――と、心が揺れる。


それならいっそ、

全てを言ってしまいたい。


ここまでずっとずっと一人で抱え込んできた。

いっそのこと、誰かに口を滑らせてしまいたい。


そう。


私はこの高校が――転校先として、

「何百何十何校目の高校」だったのか。


この時代の誰かに、言ってしまいたくなる。


私が、何百何十何枚の制服を着たことがあるか、を。


どれだけの試行錯誤と、

回り道を続けてきているのか。


未成年だから、酔った勢いで告白することはできない。

だから、美味しい手作りアイスの甘さにまかせて

告白してしまおう。


「ねえ、 アイスのお礼……みたいなものだけど。

たまには私が、あまみを驚かせたいかも」


そんな言葉から始める。


不思議そうに、こちらに注目するあまみ。

そう、いつもは、あまみが私を驚かすものね。


「こほん。すごいことを告白してもいい?


私って、この高校に中途半端な時期に転校してきたよね?

それで、不自然なことも何かと多かったと思うんだけど……」


あまみは私の話を遮って、驚きの声をあげる。


「え! 不自然なんて、そんなことないよ?

まあ最初は、ちょっと口下手っぽかったけど、

それはそれで、別にアタシがぐいぐい話しかけちゃったし。


スミナはスミナのまま、

そのままで自然体で、バッチリOKだよ~♪ うんうん」


や、優しい子だ。いえ、あの……。

いいこと言ってくれてるけど、

そういうフォローが欲しいんじゃなくてね、

あのね、あのですね、


意を決して。


ついに私は――告白した。

「この時代」でできた、はじめての友達に向かって。



「あのそのぉ~……

じ、実は、私……、未来から来たんだよね~~」



あまみは私の言葉に、きょとんとして。


それから、アイスのスプーンをそっと置いて。

息をすうっと吸い込んでから、言った。


「ぶ~~~! 残念っ!

嘘は、アタシの定義では 『ピュアな驚き』に入りませんっ♪」


えっ、いや、あの!!??? 嘘じゃなくって!

私本当に、未来から来たんだよね。

この時代だとあんま活躍できてないけど、

結構、未来の本部のほうでは、有能エリート枠っていうか!?

いや、この時代では有能っぽくないけど……。つら。


しかし落ち込んでる場合じゃあない!

私は、しどろもどろになって説明する。


「あ、あのね、あのですね!

ちょっと暗い話になりますがッ! お聞きください!


この時代、すでに電力が不足しているけど、

もっと先の未来では、もーっと「いろんなもの」が足りなくなってて。それで……!」


本部にあとで怒られたらどうしよう。知ったことか。

私はこの友達に、愛想つかされたくないんだもの!


私の言葉に

「色んなものが足りなくなる?

あーらら。それは困ったにゃー」とあまみは言う。


にゃーじゃないよ! なんだよ、その相槌は。かわいいよ!


「ははーん。 なーんかさ、案外、発想が凡庸なんだよね。スミナ。

あんなに本読んでるのに」

容赦なく、やれやれ表情を浮かべるあまみ。


うぐっ…!!! ぼ、ぼんよう…!!?


「どんなSF作品にハマったのかにゃー。

そんなことより、もっとアイス食べる?

これでも食べて、頭冷やしなよー」


そう言って、あまみは「はい、あーん?」とばかりに

スプーンを差し出してくる。


うわあああああん! ひどい言われ方した気がする!!

頭冷やしなよ、って、私が正気ではないとでも!!??


でも、た、食べたい…。



そんなわけで。

これが、電力が足りない時代の、私たちの放課後。

本部には、ちょっと……いや、かなーり報告しづらいけど。

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