10 どれだけ異常なことか。
ここは、謎の終着点。
パソコン部、こと「第1端末室」の部屋のなか。
ここには異常な冷気が漂っていた。
瞬時に、複数の可能性が頭をよぎる。
何かオカルト的な原因による、冷気であるとか。
地形や方角による影響、はたまた配管トラブルなど。
しかし、結果から言うと、そんなこともなく。
ただただシンプルに、冷房設備による冷気だった。
非常に低い温度設定がなされているのだろう。
でも、そのことが、
今この時代には――どれだけ異常なことか。
「うっは~。やっぱりこの部屋は涼しーーーい!」
あまみは、大きく伸びをして、手慣れた様子でくつろぎはじめる。
まあ、その気持ちもわからなくもない。
ここ……ちょっと、快適な温度だよね……。
認めるの、悔しいけど……。
「ここには、一体何があるの――?」と思って、
シリアスに思いっきり身構えてみたものの。
強い冷房を除けば、一見、変わったものは何もなかった。
むしろ、少しほっとして癒される
ちょっとレトロで平凡な光景があるだけだった。
パソコン部の部室、そのものの光景。
PC端末が並んでいたであろうデスクと椅子たち。
古い機種のパソコン。部室として使っていたであろう痕跡。
誰かが持ち込んだであろう漫画。ちょっとくつろげるスペースに置かれたクッション。
使い込まれたプログラム関係の専門書があるのは、この部室ならでは。
ただ、どこも不思議とホコリなどはない。
まるで、定期的に手入れされているかのような。
さて。
それでは何故、この部屋をわざわざ冷やしてるのか?
レトロで平凡な、パソコン部の部室を。
野良猫を喜ばせるためではないだろう。
もはや、答えは最初から絞られてくる。
その、いかにも古い機種のPCのなかに
「絶対に失いたくないデータ」があるからだ。
暑さで、熱で、物理的に記録メディアの劣化や破損をさせたくないのだろう。
近年の急速な気候変動に、不安を感じるのはわかる。
でも、たとえ「この時代」でも、外部保存するなり、
クラウドにあげるなり、いくらでもバックアップ方法がある……。
“この場所にこだわる理由”がわからない。
なぜ、別の場所に保管しない?
PCは熱に弱い。内部の記録媒体を
熱によって劣化や破損させたくない。
だからって、部屋まるごと、冷却?
あまりに効率が悪い。ばかげている。
ここは大規模データセンターじゃないんだぞ。
データの中身を確認したいが、躊躇してしまう。
準備もなくPCを起動させて、もし何らかのトラップが作動したら……と思うからだ。
ここは一旦、本部に連絡を取るべきか。
迷う私のことはお構いなしに、あまみは
「いやあ、ここならアイスもさらに完成が早くなるかも~♪」
などと楽しそうだ。そっとしておこう。
何か、何か手がかりはないだろうか。
PCの中身を確認する前に、本部に報告する前に、
今ここで、できる限りの情報を得たい。
焦るように見渡した先に、一冊のノートが目に留まった。
それは手書きの連絡日誌で。
このパソコン部の部内で回していたもののようだ。
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【LINEでも送りました! 要確認!】
【スマホ買い換えたぞ~】
【学園祭のときの動画、どうするか会議<開催決定♪>】
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くだけた口調。落書きもあって。
そのすべてが、いかにも仲の良い高校生らしい。
筆跡から察するに、男子部員も女子部員もいたようだ。
たわいもなく、同時に、イキイキとした言葉たち。
だが――その日誌は、あるところでふいに、唐突に、奇妙に途切れる。
そして……筆跡が変わった。
いや、日誌から漂う雰囲気のすべてが、変わった。
淡々と、震えるような筆跡で、
「参列」「お線香」といった言葉が目に付くようになる。
どうやら、部員が、在学中に亡くなったようだ。
そんな……。
顔も知らない少女のはずなのに、
体感が下がるような、さみしさを感じる。
室温のせいではない。
やがて私は、その日誌の日付……年月日に目を奪われた。
それは――今から7年ほど前の西暦――で。
そして、それこそが、
この部屋の謎を解く、大きな手がかりとなった。
ああ、これは、この冷やされた部屋は、
保管というよりも、むしろ……「保留」なのかもしれない。
そして「自制・抑制」なのだ。
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