07 いくらなんでも、長くないか?


集中力が、切れた……。


「ちょっとだけ、一休みさせて?

この調理室の片隅で、ぼーっとしてみたいんだ……」


あまみにそうお願いした私は、

宣言通りに、部屋の隅っこでぼーーーっと意識を飛ばしている。


少し水を飲もう……。

水筒は飲み干しちゃったから、水を飲むんだ……。

暑さで、まなぬるい水道水だけど。


水道水を飲んで、一息ついて思う。


推理してる時間が……長いぞ。

いくらなんでも、長くないか?


しかも、一度捨てたと思った選択肢に、また戻ってきた。


却下してた「発泡スチロールの箱」ルートこそが正しく、

そして「置き場所」こそが重要な謎だったのか。


こんなに迷走して、スマートではない。ちっとも。

こんなナゾにも手こずるような私は、本当は優秀でもなんでもなくって、

大事な使命も……果たせないのかもしれない。


ネガティブの芽が、にょきにょきと生えて、脳を支配しそうになる。

だめだ。何もかも、マイナスに反転しそうだ。


例えば、次の謎……


校内の、って、どこ??


校内の涼しい場所なんて、

私がまったく知らない場所の可能性だってあるだろう。


だって私は――この高校に転校してきた身の上だ。


真相にたどり着いたとき、

学校内の誰もが知っていて「ああ、あそこ!」と思えるような場所でも、

自分だけは知らない可能性だってある。


なんかそういうこと、人生に度々あるじゃないか。

芸能人の結婚報道に世間が盛り上がってるなか、

自分はそもそも、その人たちのこと知らない……とか。


今回の謎【校内のとっても涼しい場所は、どーこだ??】も、

自分ひとりだけ知らなくて、ポカーンとしてしまうのかもしれない。


ここの学生なら、皆知ってることだけど、

この学園の敷地内には、防空壕と鍾乳洞と地下室と実験機関がありますよね!!?

知ってて当然ですよね~! みたいな。そんな無茶な大前提。


転校生ゆえに、入学式も体験していないわけで……。

第2章からミステリー小説を読んでるような、前提を知らない落とし穴があるかもしれない。

伏線は、入学式のあの出来事だったのだ! 的な。

そういうのだったら、どうしよう…。


例えば、ここの校長が明らかに異常者で殺人鬼で、

その犠牲者の遺体をしまう大型冷凍室を、学内に秘密に用意しているとか!

その校長の異常性は、入学式のスピーチで示唆されてたとか!


そんな私の不安&暴走を見透かしているかのように、


「だいじょーぶだよ、スミナ」


そんな声が、背後から、ふわっと届いた。

振り返る前に、さらに追加の言葉が届く。


「あのね、答えはね、スミナも絶対に知ってる場所。

なんなら今日も、通ったよ。この調理室に来るときに」


その一言で、思考が大きく揺らぐ。

ぐらり、と。


……嘘。そんな。

だって、そんなの……パソコン部……しかないじゃないか。


いや、パソコン部は、確かに「それっぽい」けど。だけど、違うはずだ。

機材がある部屋は、そりゃ涼しい方がいい。

精密機械、重要なデータを守りたいなら、暑さは大敵。破損や故障の原因となるからだ。

特にこの季節が狂っている世の中では、温度による被害は懸念事項だ。


しかし、あそこにある機材は、古くてゴミ同然と聞く。

守るべき機材でもない。


それに、あの……忌々しい『電力完全停止★ありがとうステッカー』が貼られてた。

つまり、冷房なんて使えるわけがないのに。

なのに、そんな大前提まで……ひっくり返すのか???


それにそれにっ、【パソコン部は活動停止――凍結部】で、凍結ってそりゃ冷えてそうだけど、

それはあくまで言葉の表現であり、単に「停止・禁止」という意味のはずで。


「んふふー。

それじゃあ一緒に、行こうか! あの部屋へ」


ついに振り返ると、そこには――


さも当然のように、鍵を手にしているあまみの姿があった。


「大丈夫、あの部屋の鍵はスペアキーがあるの。職員室からこっそり拝借して。

……まあアタシ、甘味のためなら、そのぐらいはしちゃうよね~」


その表情は、どこか誇らしげで。


ああ。この亜麻色のお団子ヘアの女子高生は、

いったい何度、私を驚かせれば気が済むのか。




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