06 一度は引っかかるよねー。


そう……保健室なら。


「あー、その顔。

保健室だ~! って閃いたんだね?」


あっけらかんとした、そんなあまみの一言で、

私は思考の海から、現実へと引き戻された。


え、あ、うん。……うん?


あまみは、しみじみと悟ったように、安らかな困り顔を浮かべている。

なんだか「あーそれそれ、一度は引っかかるよねー」みたいな表情にすら見える。


カフェの店員さんが

「あぁ~、うちの店に来るまでに、迷子になっちゃうポイントありますよね~。

ホントごめんなさいね~」

って言ってるみたいな。


え。「保健室」って、不正解ルート……なの?


そんな私の動揺に応えるかのように、あまみは語ってくれた。

フフッ……と自嘲にも似た表情を浮かべて。少し遠い目で。


「実はね、アタシも最初は、保健室に目をつけたんだよ……。

保健室の……あの優しそうな女性の先生……。


本田ほんだ和香わか先生ね。

通称――ほんわか先生。


あの先生はね、ゆるふわ癒しオーラすごいけどね、

ほんわかという皮を被った、キレッキレの鋭い人なんだよおおおぉ~~!!!!


実は私も、最初は、ゆるーく激甘なことを考えてたんだ。


保健室に行ってね、顔見知りになって、仲良くなれたらいいな~って。

「甘味部で使いたいので、氷多めに作っといて、放課後に分けてもらえませんかね。えへへ……」

みたいな。先生相手に、とっても雑な懐柔作戦。


でもね、そんなの無理だった。


お腹痛いかも~、とか、だるいかも~、とか

そんな理由をでっちあげて保健室にいくと、

恐ろしい精度で、仮病を見抜かれるの。


それでここが重要なんだけど――絶対に、責められない!!


そんな仮病を使う「ほんとうの理由」を探りに来る。

本気で本当に、生徒のことを考えてくれてるんだよ。


んで、浅はかなアタシは、

仮病をサクッと見抜かれるから、撤退して作戦を練り直して……。

それでね――」


そこまで語って、あまみは急に自分のスカートをめくった。


……!!??


美しい脚があらわになって、

そしてそこには、痛々しいほどの打撲のようなアザがある。


思わず、絶句する……。

これはどういうことかと問おうとしたとき、


「それでね、階段からわざと飛び降りて――

こういうふうに自分でアザを作ってみたの」


は????


「九段ぐらい落ちると、いい感じに派手なアザができるんだな~って思ったよ。

この映えるアザになるまで、何回か試行錯誤したんだ。

やっぱり、何事も練習すれば上達するもんだね」


あまみ!!??? あまみ……さん!!???

やばい。あまみは、私の想像以上に「甘味のためなら何でもやってやる」という魂の持ち主だったのか。


私はどんな表情を浮かべていたのだろう。

とにかく、驚きの表情を浮かべていたに違いない。


あまみは

「おっ、スミナ、驚いてくれた~??」なんて上機嫌に微笑む。

ていうか、早くスカートを下げなさい。


「そ、そりゃあ驚くよ!

甘味のために、階段から飛び降りる女子高生、闇が深いよ!!!」


そう言って動揺しまくっている私。


それなのに、あまみは余裕そうだ。

「んふふー。スミナが驚いてくれるの、好き。」

と嬉しそう。


そして、いたずらっぽく笑いながら、

またノートに何かをさらさらと書いて、イラストも描いて、見せてくれた。


「アタシね、驚きにはいろいろあって、

『ピュアな驚き』が一番いいと思うんだ。

ピュアな驚きこそが、私の「好きな驚き」ってわけ。


ほら、まとめてみたよ、みてみて~」


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↓こーゆー驚きはダメ。


・急に子供が飛び出してきた!(事故こわい)

・なくしてた財布が見つかった!(結果オーライだけど、不安つらい)



↓こーゆー『ピュアな明るい驚き』は素敵!!!


・水たまりがハート形 (かわいい♡)

・果物が思ってたより甘い (ハッピー♪)


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いやいやいや、今のアザの話は どう考えたって、

「ピュアな明るい驚き」じゃなかったのですが!!??


私のツッコミに「そっかなー」なんて、とぼけるあまみ。

そうして、保健室の記憶を再び披露する。


「……というわけでまあ、自分セルフでアザを作ってみたんだけど。


でもね~。このアザを作って、保健室に行ったら……。

アザがどうにも不自然だったらしくて……。


ほんわか先生が一瞬にして、ガッと色んなことを考えてるのが、

わかったね!! 見えた!!!!


ほんわか先生の周囲に浮かぶ、思考のモコモコ雲――


「いじめ?」「自傷?」「虐待?」

「低血圧による足元のふらつき?」などなど、

想像しまくっているのがね!!!!


そんで、アタシにいろいろと問いかけてくるの。

雑談しつつ、深く寄り添うように。


でさー。もしも万が一、ママに連絡いったら最悪すぎるから。

あの、ほんわか先生は難攻不落の、懐柔不可の、真摯な先生だから。


だから、保健室プランは、完全に諦めたってわけ! はい撤収~」


そこまで一気に語って、あまみは、ふぅと息を吐く。


す、すごい。ほんわか先生、すごいぞ。

職務を全うされておられる。偉い。


さて。あまみが保健室を諦めたのはわかった。

しかし、だとすると――

ますます推理が袋小路になるのでは……。


そう思ったとき、あまみの声が響いた。


「あーー。この部屋じゃ、

さすがにちょっと溶けてきちゃった~。

氷を入れ替えなきゃ」


そうして、すっと席を立ち、

隣の調理台の下から、ずるずると引きずりだしたのは


――発泡スチロールの箱だった。


へ????


「いやあ、実は今朝、この箱を使って

家から氷を、たーくさん持ってきたんだ~。

まあ重かったけど、かなり近所だし。


んで、日中は、校内の

『とーーっても涼しい場所』に、置いといたわけ♪

もちろん保健室じゃないよ~」


圧倒的な事実。

そして、向き合うべき謎が確定した。


校内の、とーーってもって、どこ??


そんな場所、あるのか……?

この「電力の足りない時代の学校」において、

そんな場所。どこにあるの……。


そこまで考えたところで、私は、


集中力が、


切れた……。

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