05 Q&Aから、はじまりはじまり。


ただ、いくつか本人に確認したいことがある。

私は先ほどの言葉に甘え、遠慮なくどんどんあまみに問いかけた。


以下はその会話。

Qは私で、Aはあまみということになる。


-----------------------


Q1.

家は近い?


A1.

うん。実は学校から徒歩圏内なんだよ。

高校なのに、小学生みたいだよね。ふふっ。


Q2.

えっ!! 徒歩圏内!? だったら、何もかも話は簡単じゃないかな。

放課後に、いったん自宅に氷を取りに行ったってことだよね?

あっさり解決で、拍子抜けしたよ……。

というか、それができるなら、常温の縛りなく、どんな材料も自宅から持ってこれるよね?


A2.

だったら良かったんだけど……。

そんなわけにもいかないんだよぉ~~……。めそめそ。


実はママは、甘味部の活動に大反対してるの。

そんなママは、朝はアタシより早く出勤するぶん、夕方はアタシよりも早く家に帰ってきてる。

放課後にいったん家に帰ったら、何かを持ってもう一度学校になんて行けないよ~!


Q3.

なるほど……。放課後は無理。

でも、朝にはママの監視がないから、朝なら氷は学校に持ってこれるのか。


じゃあ、朝に持ってきた氷を、「?」を考えるのが焦点か。


釣りに使うようなクーラーボックスは持ってる? 

もしくは、真空断熱構造の保冷のでっかい水筒。

そういうのに、氷をぎっしり詰めてくれば、ちょっと暑い学校でも、氷は放課後まで無事に持つんじゃないかな。


A3.

クーラーボックスなんて持ってないよ~。水筒には普通に麦茶入れてるし~。

氷を運べそうなものといったら「生協の配達に使われている、発泡スチロールの箱」ぐらいだよ。

ああ。生協ってのは、食材を自宅まで配達してくれるやつね。ママが注文してる。


そういう「発泡スチロールの箱」ってわかるかなあ?

魚市場とかでも使われてそうな感じの。


Q4.

大丈夫。それはイメージできる……けど……。

クーラーボックスに比べると、氷が無事では済まなそうな気がするな。

保冷剤では心もとないし、ドライアイスがあるといいけど……。


A4.

えええ~!!!ドライアイスなんて、もう久しく見てないよ!

電力不足の世の中になってから、ドライアイスは取り合いになってる、ってニュースで言ってたし。

生協の配達で、冷凍食品を頼んでも保冷剤しか使えないらしくてさ。だから早めに冷凍庫に入れられる人じゃないと、注文できない感じになっちゃっててさ~。


-----------------------



……ん? 

なんか、これ……難しくないデスカ?


最初は「あっさり解決」だと思ったが、聞けば聞くほど、不思議になってくる。



そりゃちょっとは溶けてるけど、日中、暑い場所に放置されていた溶け具合ではないのだ。


日中、暑さ指数が警戒ラインを超えると、教室の冷房が作動する。

熱中症が恐ろしいからだ。

電力が足りない学内でも、「勉学」と「命」は優先される。


だが、もしも教室に冷房がかかったとしても、

そんなにガンガンに、すごーーーく景気よく冷房をかけてくれるわけでもない。

箱いっぱいにどっさり氷を入れていたとしても、それでも氷は、無事ではすまなそう……。


つまり、氷の姿を、放課後まで無事に維持できそうな、涼しげな場所が……箱を安心して置ける場所が……校内に存在しない。

ということは、「発泡スチロールの箱」は不正解ルート……か。


しかし、「発泡スチロールの箱」ルートを却下したとして、

では他に、一体どんな方法があるというのか?


わからない。推理……は行き詰ってしまった。

これを推理とよべるかどうかは、不明だけど。

まるで単なる思考の迷走だけど。


「さあさあ、ジップロックの中に“アイスになる液体”ができたよ~。

略して、アイス液~! これを凍らせるというわけ」

そんなあまみの実況中継が、耳をすり抜けていく。


「このアイス液を、氷と塩の入ったボールに入れます~。

凍らせながら、ジップロックごと、もみもみ~。

どんな食感になるか、この、もみもみで決まるらしいよ」


「それでね~、どんな食感かというと、

市販のアイスとは違ってて……」


――集中すると、周囲の声が遠くなっていく。

集中だ。集中して考えよう。


とにかく、何か方法はあるはずなのだ。

実際にここに、氷が存在するのは事実。


状況はすでに整理できている。

では次に、思考の糸口を捕まえるべく、ミステリーの定石でも思い出してみよう――。


不可能が可能になっている場合、

例えば“協力者”がいる可能性だってある。


または、殺人事件だったら、

“犯行現場”が思ってたのと違う場所、ということもある。


氷でいうと、

“凍らせた場所”が違う……ということか。


つまり、この学校内で、どうにか氷を作れる場所があるとしたら……?

まだ登場していない、協力者がいるとしたら……?


「スミナぁ~~!! ねえねえねえーーーー!」


その声に我に返る。

目の前には、拗ねるようなあまみの顔。


「そりゃ確かに、考え事をするのは自由だけど。

スミナは推理、アタシは調理、って言ったけどさ……。

でも、それでもちょっとは、アタシの“手作りアイス講座”を聞いてくれたっていいじゃん~!!」


うわあ。そりゃそうだ。ほんと、ごめん!

なんか一人の世界に入り込んでた。

集中から戻ると、一気に周囲の音や声なども鮮やかに戻ってくる。


そうして気付いた。

調理室にいても、実はうっすら聞こえてたのか、体育会系部活のかけ声。

ファイオー! ファイオー!とか、ああいうの。


その途端、「あ……」と声が漏れそうになる。


たとえ放課後でも、もちろん人命は最優先だから。

氷はあるよね。冷蔵庫も、冷凍庫も。保冷剤とかも。

熱中症対策や、怪我の手当てのために。



そう……保健室なら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る