04 どっちも理だね~。
「さあ、本日の“ノン電気”な甘いものはーーー?」
そう言って、あまみが白いテーブルクロスを引きはがす。
ついに、目の前に現れた光景。
調理台の上に乗せられている、複数の物体を目視していく。
・牛乳パック1本
・砂糖の入った袋
・塩の入った袋
・大きなボール
(もちろん投げるボールではない。調理に使う器のボール)
・ジップロック
(透明の丈夫な袋で、中にモノを入れて密閉できる)
牛乳パックを目にしたときは、「冷蔵しないとダメでは!?」と一瞬ギョッとした。
しかし、そんな動揺を先回りするかように、パックにはあまみの手書きメモも添えられている。
かわいい牛の絵も描かれた、その紙には――
【これは、ロングライフ牛乳だよ!
常温でも3か月ぐらいもつんだって。
安心だね♪】
ああ、聞いたことがある。
通常の牛乳よりも高い殺菌温度、微生物が発生しにくくなる特殊な容器、無菌環境での充填密封……といった、さまざまな工夫により、
常温でも保存可能な牛乳だ。
牛乳については解決したが、
しかし、今、目の前にしている光景で、信じられないものがある……。
「大きなボール」のなかに、
とんでもないものが入っているのだ。
その物体は、ボールの中に……
無造作に、どっさりと、大量に、存在している。
なぜだろう。
なぜ、今ここに、
『大量の氷』が存在しているんだ――?
白いテーブルクロスを引きはがしたあまみは、そのクロスをふわりと隣の調理台に置く。
それからくるっと振り返っては、テンションMAXで語りだした。
「さあ、何を作るかわかった~?
今日はこれらの材料で、 なんと『アイス』を作りま~す♪
氷菓だいすきー!!
さあさあ、牛乳と砂糖を使った「シンプルな牛乳アイス」を作って食べちゃおう。
……え? アイスを冷蔵庫なしで、作れるわけがない??
いえいえ、ところがどっこい! ノンノンノン♪
なんと、この氷たちに塩を入れてあげるとだね……凝固点降下によって、すごぉーーーく温度が下がるの。
まあ、スミナなら知ってるかな。
とにかく、氷と塩を使えば、ここで放課後に、
アイス作りが可能ってわけなんだよぉーーー!
もうさー、ずぅーーーと、毎日毎日じんわり嫌ぁな感じに暑いでしょ?
そんなときに、学校で放課後に、手作りアイスが食べられたら……。
うっはー。想像しただけで、ときめきが止まらないよぉ」
そんなことを一気に語っては、私の顔を覗き込んでくる。
「どおどお? 今日作る“甘いもの”は『牛乳アイス』って答え、驚いた~?」
うん。素直に、驚いた。
……けど、その驚きは、答えに驚いたのではなく、
ゲームのルールが、フェーズが変わったことへの驚きだ。
だって、そこに、目の前に……
矛盾がゴロゴロと転がっているじゃないか。
ここは雪国じゃないし、外は氷点下じゃない。
むしろちょっと暑い。 というか、じんわり地味にイヤぁ~な感じに暑い。
とにかく……その氷は、容易に手に入る環境ではない。
氷は自然発生しない。
一体どこから出現した???
この調理室の冷蔵庫(および冷凍庫)は、もはや24時間使えない状態。
まさか、氷系の魔法が使えるわけでもあるまいし。
そういう世界観じゃないよな。
さあ、調理台の上に、あらたな謎が横たわった。
よく見かけるオーソドックスな製氷皿で作ったような、
四角い立方体の氷たち。
ちょっと学校近くのコンビニやスーパーで買ってきました、なんて形の氷ではない。
これは、いかにも冷凍庫で作りました、という佇まい。
それならば……
電力不足の学校において、
この氷ゴロゴロどっさりは……どうやって今ここに存在するのか?
しばし呆然とする私に、あまみはニコニコと
「ギブアップしたら、いつでも答えを教えるけど~♪」なんて言う。
そんなのは御免だ。
……悔しすぎて、嫌すぎる。
「自分で考えたいから、しばらく時間を頂戴」と、
淡々とあまみに伝える。
あまみは、「そう言うと思った~!」と
嬉しそうに両手を胸の前で合わせる。
まるで「いただきます」のポーズみたいに。
そうして、優しく言葉を添えてくれた。
「スミナにとって、謎は美味しいご馳走~♪
この部室に来てくれる、理由であり楽しみでもある。
自分の好きなタイミングで、ゆっくり自由に味わいたいよね。うんうん。
だけど、美味しいご馳走を食べるにも、
ナイフとフォークが要るでしょ?
味わい、楽しむためにも、必要なものはある。
だから、“推理のために必要な情報”はなんでも訊いて。
いつでも遠慮なく、どんどん質問してね~」
ほう。謎を解くために必要な情報は、まるでナイフとフォーク……か。
確かに、情報ひとつで、対象物の見え方がガラリと変わったりすることもある。
ナイフで切って、今まで見えなかった断面を見られるように。
「スミナは推理、アタシは調理。どっちも理だね~」
なんて言いながら、あまみはマイペースにご機嫌に調理を開始する。
「計量カップと計量スプーンを取り出して~、
牛乳と、砂糖を、計測しまして~。そんで、ジップロックに入れて混ぜ混ぜ~♪」
そんなふうに、自分の行動を実況中継してくれるあまみ。
「美味しくなあれ~、甘くなあれ~」なんて言いながら、手元を動かしてる。
魔法使いみたいで、かわいい……。
などと、あまみの作業を見守っている場合ではない。
あの『氷』について、考えてみる。
氷はいかにも「よくある冷蔵庫の製氷皿で作りました」という姿だった。
だったら、普通に……あまみが、自宅から氷を大量に……持ってきた……のか?
面倒だけど、まあソロで甘味部をしてるぐらいの根性だから、
そのぐらいのことは平気でやりそうだ。
ただ、いくつか本人に確認したいことがある。
私は先ほどの言葉に甘えて、遠慮なくどんどんあまみに問いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます