第11話 鋼鉄の領地
パート1:特別委任の拡大
真空管と燃料ポンプの「再生」という離れ業を成し遂げた俺の元に、HSSPF(親衛隊及び警察高級指導者)から新たな辞令が届いた。
それは、俺の工場を当地区の**『軍需資源再生局(Wiederverwertung-Amt)』**へと格上げし、近隣の五つの村、さらには他の治安警察大隊の車両管理権までをも俺の指揮下に置くという、破格の内容だった。
「シュミット少尉。貴様の『錬金術』には、ルブリンの本部も大層お喜びだ。……これからは、この地区の全ての鉄屑(ガラクタ)と、それに携わる『人間という資源』を貴様が管理しろ」
SDの中佐は、満足げに俺の肩を叩いた。
これにより、俺は一介の少尉でありながら、形式上の上官である中隊長や曹長たちの「移動手段」や「物資供給」の生殺与奪の権を握ったことになる。俺が「整備不良」の一筆を書けば、どんな傲慢な将校のトラックもただの鉄屑に変わるのだ。
パート2:選別官の「帝国」
俺はすぐさま権限を行使し、近隣の収容所や連行者リストから「技術者」の素養がある者を片っ端から引き抜いた。
かつての大学教授、時計職人、靴屋、そして名もなき工員。俺の帳簿に彼らの名前が書き込まれた瞬間、彼らの腕には「UK(不可欠な要員)」の腕章が巻かれ、死の列から救い出される。
「少尉殿、これ以上は工場の定員オーバーです。食料も寝床も足りません!」
悲鳴を上げるマイヤーに、俺は冷徹な「少尉」としての顔で命じた。
「寝床が足りないなら、近隣の廃屋を『局員宿舎』として徴用しろ。食料は、修理を依頼してくる他部隊から『整備手数料』として現物で徴収する。……文句を言う奴には、こう言え。『HSSPFの優先業務を妨害する気か?』とな」
俺の「帝国」は拡大を続け、工場の周辺には「シュミットの保護下」にある奇妙なコミュニティが形成され始めた。
彼らは死の恐怖と引き換えに、俺の与えた「過酷なまでの労働」という名の生命線を必死に手繰り寄せていた。
パート3:跪く「かつての敵」
夕暮れ時、工場の入り口に一台の使い古された車両が停まった。
降りてきたのは、かつて俺を「ピクニックに来たのか」と嘲笑った、あの第1中隊のホフマン曹長だった。
「……シュミット少尉。折り入ってお願いが」
あれほど傲慢だった男が、帽子を脱ぎ、俺の前で猫のように背を丸めていた。
「我が中隊の装甲車が三台、エンジンの不調で動かない。……このままでは次の掃討作戦に支障が出る。……どうか、貴殿の優秀な『資源』たちに、優先的に見てもらえないだろうか」
俺はデスクに足を乗せたまま、冷めたコーヒーを啜った。
「……曹長、俺の工場は現在、SSの特別優先案件で手一杯だ。……ただ、もし貴殿の中隊に配備されている『予備の発電機』を二基、整備局への寄付として回してくれるなら……その三台、明日の朝までに動くようにしてやってもいい」
それは、明白な職権乱用であり、あからさまな略奪だった。
だが、ホフマン曹長は、悔しさに唇を噛みながらも「……了解しました。すぐに手配させます」と、俺に深く頭を下げた。
彼が去った後、俺は窓の外を眺めた。
何百人もの「UK」を巻いた人々が、夜を徹して工場の灯りの下で働いている。
俺は、この地獄のシステムそのものに成り代わりつつあった。
正義のためではない、慈悲のためでもない。ただ、「誰からも壊されない圧倒的な牙城」を作るために、俺は怪物の顔で微笑んだ。
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