第6話 ソニアとの出会い

「助かったわ!ありがとう!」

本陣のあった丘の頂上に着いた時、女の声が聞こえてきた。


地面にへたり込んだ人間の女をンダギ、ンダガ、ブロウが囲んでいる。

まだ若い。

俺より少し年下だろう。

二十歳といったとこか。

ンダガが手を貸し、彼女を立たせた。

手に枷がつけられている。


「盗賊達に襲われて、囚われていたそうだ。」

腕を組んで立っているフレッドの肩に手をかけると、顎で前を指してきた。

「奴ら彼女を売るかどうかする為に出てきたのか。」

「かもな。」

「俺の炎の玉に巻き込まれなくて良かったな。」

俺は彼女の存在を知らなかったから、手加減なしで炎の玉を放っていた。

彼女は運がいい。

彼女を殺してしまっていたらやりきれなかっただろう。


ンダガが死体を漁って鍵を見つけてきた。

手枷から解放されると女は、ほっとした様子で体を伸ばした。

不自由だったろう。

しかし、まわりの死体を気づいて怯えた表情を見せた。

無理もない。

焼け焦げた死体、矢で貫かれた死体、ずたずたに切り刻まれた死体だ。

俺も昔はよく吐いた。


「おいダンカン。これを見てくれ。」

エミィが魔法使いのフードを剥いだ。

美しく整った細面の顔。

肌の色は不自然なほど白い。

ダークエルフだ。

ダークエルフの魔法使いであれば、あの程度の魔法も軽々と起こせる。

なるほど、納得がいく。

しかし、こんなところで出会える相手ではない。


「なんでこんな奴がいるんだ?」

「こいつもただの盗賊には見えんな。」

フレッドが人間の戦士の死体をつま先でつついた。

軽武装だが、身に着けている皮鎧はかなりの高級品だ。

剣も良い品だ。

柄頭に見たことのない造作だが、ずいぶん凝った飾りが施されている。


フレッド、エミィと一通り盗賊達の死体を探ってから女のもとに行った。

ンダギ達と話していた彼女が振り返り、初めて目が合った。


銀髪に淡いグレーの瞳。

どこか上品で整った顔立ちだ。

可愛い。

かなり可愛い顔立ちだった。

転生前の世界だったら、女優かアイドルにでもなれそうだ。


しかし、その時、美形よりも、もっと印象に残ったのは瞳だ。

何と言うか、意志の強さを感じさせる瞳だった。

目力がある、と言うのだろうか?


あと、どこか不自然な気がした。

なんでだろう?


「盗賊に囚われていたそうだな?」

「そうよ。ンダギさん達にはもう話したけど。私、旅をしていたの。そしたらこの盗賊に襲われて。」

「旅は一人でか?仲間はいないのか?」

この世界の街道はこんな若い女が一人で旅をできるほど安全ではない。

「護衛がいたの。でも殺されてしまったわ。」


彼女の話はこうだ。

彼女は王都に住む親戚を訪ねて旅をしていたらしい。

旅に同行していたのは彼女の世話役と数人の使用人達(どこかの貴族の娘か?)、それに護衛が四人いたらしい。

馬車の車輪が壊れてしまい、町にたどり着けず、街道で夜を明かしているところを襲われそうだ。

護衛は全滅、世話役は彼女を庇って殺され、使用人は彼女を放って逃げ出した。

残った彼女は囚われ、盗賊たちのアジトに監禁されていたが、今日、外に連れ出されたらしい。

行先は聞かされていないと言う。


「災難だったな。今夜は近くの村に泊まるが、明日は町に帰るから、一緒に来ると良い。衛兵の詰め所に連れて行くよ。そこで領主の保護を願い出ると良い。」

貴族の家族なら領主も放っておきはしない。

「待って。」

「?」

「お願い。王都まで連れて行って。あなた達を雇うわ。王都まで護衛をしてほしいの。」

「こんな目にあっても旅を続けるのか?」

「ええ、私、どうしても王都に行きたいの。」

「一先ず、家に戻った方が良いだろう?」

「いいえ。私、どうしても王都に行きたいの。」

始めに受けた印象。

これだ。

俺を見つめ返す強い意志を宿した瞳。

一体、どれほどのことがあると言うんだろう?

「私を王都へ、伯父のノルデル伯のもとへ連れて行ってほしいの。お願い!」

彼女は俺にしがみついて懇願する。

というよりは俺のローブを掴んで揺さぶってくる。

真剣だ。

「私を無事送ってくれたら、きっとノルデル伯から莫大な報酬が支払われるわ。私がお願いする。約束するわ!」

俺はフレッドの方を振り返った。

フレッドは軽く肩をすくめた。

否定ではない。

エミィは頷いている。

『莫大な報酬』とやらが、どれほどのものかはわかないがおいしい仕事と思っていそうだ。

「俺たちは良いと思うぜ。」

「兄貴の言う通りだ。王都まで旅の護衛なら軽い仕事だ。」

ンダギ、ンダガ兄弟は乗り気だ。

優しいからなこの兄弟は。

「稼げるなら断る理由はあるまい?」

ブロウも賛成する。


「わかった。その依頼、受けるよ。王都までの護衛だな。ノルデル伯とやらの屋敷まで無事に送るよ。」

彼女の表情が和らぐ。

軽くため息。

多少、無理をしていたようだ。

「ありがとう。感謝するわ。本当に。」

「俺はダンカン。ダンカン=マカリスター、こちらはフレッドにエミィ。ンダギ、ンダガ、ブロウとは自己紹介が終わってるな?」

「ええ。私はソニア。ソニア=サンクレール。ソニアと呼んで。」

「わかった。よろしくな。ソニア。」


これがソニアとの出会いだった。

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転生者なんて負け組だ 荒野旅人 @TABITO14

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