第6話 スペル王国の門

森を抜けて数日。


ククオとニナは、埃っぽい街道を歩き続けた。


荷物は軽く、ツネヨシからもらった杖と首飾りが、唯一の宝物のように感じた。


目指すは大陸で三番目に大きな国ーースペル王国。交易の中心地で、冒険者ギルドの本部級支部があるという。「まずはここで基盤を作ろう。」ククオの提案にニナは静かに頷いた。


王都スペルは、巨大な石壁に囲まれた壮麗な街だった。門をくぐると、馬車の音、商人たちの呼び声、鍛冶屋の金槌の響きが一気に押し寄せてくる。ククオは目を輝かせた。「すごい…アニメで見た中世ファンタジーそのままだ…」ニナは緊張した様子で耳を伏せ、ククオの袖をそっと掴んだ。「…人が多い」


二人はまず、冒険者ギルドに向かった。受付の女性に登録を済ませた。ランクは当然「F」からスタート。


「初心者さんですね~。簡単な採取クエストからどうぞ!」


最初の数日は、薬草採取やゴブリン討伐といった低難易度のクエストをこなした。


ククオの水魔法は意外と実践向きだった。≪アクア・ランス≫で遠距離から敵を仕留め、≪ウォーター・シールド≫でニナを守る。一方、ニナの戦い方は剣だった。ツネヨシに拾われてから鍛えられた短剣捌きは、獣族の敏捷性を活かしてとても素早い。コブリンの群れに囲まれていても、軽やかに身をかわし、喉元を正確に切り裂く。ククオはいつも感心しながら見ていた。(ニナの剣、ほんとにすごいな…僕の魔法じゃ全然追いつけないな…)


報酬は少ないが、少しづつお金がたまり、ようやく宿屋に泊まれるようになった。お金がまだ心許ないので、ククオは受付で「一番安い部屋で..........」とお願いした。すると、宿の主人がにこりと笑って、


「若いお二人さんか。相部屋のツインルームなら少し安くするよ。」ククオは少し迷ったが、ニナが小さく頷いたので「……じゃあ、それでお願いします。」


部屋は狭めだったが、清潔で窓から街の明かりが見えた。ベットは二つ並んでいて、間に小さなテーブルがあるだけ。ククオは荷物を置いて、「えっと……ニナ、こっちのベットでいい?」


ニナは耳をピクピクさせて、「……うん。いいよ。」


荷物を解きながら、二人は少し気まずい沈黙に包まれた。これまで森の小屋では別々の空間だったのに、同じ部屋で一晩過ごすのは初めてだった。


夜になり、ククオはトイレに行きたくなって立ち上がった。部屋の隅にある小さな仕切りトイレに向かい、ドアを開けようとした瞬間、中からニナの小さな声が聞こえた。「…ククオ、待って。」


ニナが服を直しながら出てきて、耳を伏せて睨んだ。顔が真っ赤で、獣耳がぴくぴく震えている。


「……入る前に、ノックして」ククオは慌ててあと退り、「ご、ごめん!!本当にごめん!僕、ニナがまだ入ってると思ってなくて……」ニナは、短剣が握りしめかけた手を下ろし、「……バカ。もう……はずかしいよ…」ククオは頭を下げまくり、「ホントにごめん!今度から気を付ける!約束する..........だから許して...」ニナは少しの間黙ってククオを睨んでいたが、やがて耳を少し伏せて、ぽつりとつぶやいた。


「……もう、いいよ。ただ、次は絶対気を付けて。」ククオはほっとして頷いた。「うん、絶対に!」


ククオは用をすまし、ベットに戻った。ニナは自分のベットに座って少し頬を膨らませていたが、ククオがそっと、お詫びに魔法で小さな花を差し出すと、「……ありがとう」と小さく微笑んだ。


その夜、ククオはベットで天井を見上げながら思った。(ニナの怒った顔、かわいいな……って、違う!反省しろ!……でも…同じ部屋って、なんかドキドキするな...)


ニナも隣のベットで、耳を少し立ててククオの寝息を聞いていた。


「……ククオ」小さなつぶやきは、ククオには届かなかった。


スペル王国の夜は静かだった。二人の距離は部屋一つ分だけ。でも、確かに近づいていた。

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