第5話 巣立ちの贈り物
それから数か月が過ぎた。
ククオの≪ウォーター・ボール≫は、もはやただの水鉄砲ではなかった。
指先から放たれる水は、鋭く細長く伸び、木の幹を貫くほどの威力だった。
さらに、ニナから学んだ「水の流れを操る」応用技ー≪アクア・ランス≫や≪ウォーター・シールド≫まで
形にできるようになっていた。
実戦経験も積んだ。
森の奥に出没する魔狼の群れをニナと共に撃退し、近くの村を襲う小型の魔物を退治したり。
村人たちからは「森の若い魔導士さん」と呼ばれ、ククオは少しづつ、この世界で「生きていける」自信をつかみ始めていた。
そんなある日、ククオの誕生日が訪れた。異世界に来てから初めての誕生日。
小屋のテーブルに、ニナが焼いた素朴なケーキが置かれていた。ツネヨシは珍しく穏やかな表情で、
「今日は特別だ。ククオ、お前の誕生日を祝おう。」ニナが少し照れながら小さな包みを差し出した。
「……ニナから」中には、細い銀の鎖に水色の小さな石が揺れる首飾り。石はガラスのように透明で、光を当てるとキラキラと輝いた。「綺麗…ありがとう!ニナ」ニナは耳をピクピクさせ、頬を赤らめた。
「...ククオの魔法に似てると思って。水の精霊が宿ってるって、ツネヨシ様が言ってた。」
ククオは首にかけて、石が胸で揺れるのを感じた。暖かくて、ニナのやさしさがそのまま形になったみたいだった。
次にツネヨシが、古びた木箱を差し出した。
「俺からもだ。」中身は小さな杖。長さは30センチほど、木製で、先端に淡い青みがかった小さな水晶が埋め込まれている。触れると、魔力が静かに脈を打った。
「俺が若いころに使っていたものだ。水属性の魔力を増幅するのに特化している。お前の魔法はまだ伸びる。これを使えばもっと強くなるはずだ。」
ククオは杖を握り、試しに振ってみた。ぴゅっ……と放たれた水は、今までより明らかに鋭く、遠くまで弧を描いた。「すごい…ツネヨシさん、ありがとうございます!」ヨシツネは静かに二人を見つめ、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「ククオ、ニナ。お前たちはもうこの森に留まる必要はない。」二人は顔を見合わせた。
「魔王の復活はもうすぐ、いや、もう復活して力をつけているかもしれん。予言の魔導士はお前が言うエルサニタかもしれないし、もしくは、お前自身かもしれない。どちらにせよ、この世界は変わろうとしている。だが、魔王を倒すためには、もっと強くなければならない。今のままでは、足元にも及ばん。
お前たちはまだ若い。この森で腐るにはもったいない。二人で旅に出ろ。強くなって、己の道を見つけろ。そして、運命がそう定めるなら……魔王を倒す力をもつものになれ。」ククオは息をのんだ。
「……魔王を、倒す?」胸の中で何かが熱くなった。最初はただの追放された偽物だった自分が……
ニナも静かに頷いた。「……私も、ククオと一緒なら強くなれる気がする。」
ククオは立ち上がり、首飾りと杖を交互に見つめた。「わかった。僕、行きます。この世界をちゃんと見て、もっと強くなって……魔王を倒せるくらいになる。」ニナは少し迷うように耳を伏せたが、すぐに顔を上げて、「……うん。ククオと一緒なら、どこへでも。」
ツネヨシは満足げに頷き、「それでいい。準備は明日にでもしろ。旅の始まりはいつも突然だ。」
その夜、二人は小屋の外で星を見上げていた。ククオがぽつりと言った。
「なんか…急に決まっちゃったな。でも怖いっていうより、わくわくするかも。魔王を倒すなんて、俺にできるかな..........」ニナは隣で小さく笑った。「……ククオなら、できるよ。私も、ずっと一緒にいるから。」
星空の下、二人の影は寄り添うように並んでいた。
首飾りが、杖が、これからの長い旅と、大きな目標に向かうための、最初の贈り物として静かに輝いていた。
翌朝、二人は荷物を背負い、森の出口へ向かった。ツネヨシは小屋の前で見送り、ただ一言、
「生きて帰ってこい。」とだけ言った。ククオとニナは、手をつなぐこともなく、でも肩を並べて歩き出した。目標は、復活する魔王を倒すための、強さ。
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