第4話 ニナと修行

それから数日が過ぎた。


ククオはニナとともにツネヨシに魔法を習うことになった。


ツネヨシの小屋の裏手、小さな空き地がククオとニナの訓練場になっていた。


朝の木漏れ日の中、ツネヨシが見守る前で二人は基本の繰り返し。


ククオの≪ウォーター・ボール≫は相変わらずピュッと飛んで地面に落ちるだけ。ニナは軽く指を振るだけで、水球を空中に浮かべて形を自在に変え、木の幹に正確に当てる。ツネヨシは言う。「ニナは小さいころから修行している。お前は異世界人だ。最初はこれでいい。」


ククオは苦笑いしながら肩を落とした。「...わかってるけどさ。ニナさんがあんな簡単にやってるのを見ると、俺ってほんとに…」


訓練後、ククオは一人で空き地の端に座り込んでいた。膝を抱え、水たまりをぼんやり見つめる。


(やっぱり僕、偽物なのかな...)


背後からそっと足音。ニナだった。彼女は少し離れた場所に立ってククオを見下ろしていた。


「...ククオ」ククオはびっくりして顔を上げた。「ニナさん?」ニナは少し迷うように唇をかんでからぽつりと言った。「私も最初は全然できなかった。小さいころなんて、魔法どころか詠唱を覚えるだけで精一杯だった。でも…毎日、少しずつ練習したらできるようになった。」ククオは黙って聞いていた。


ニナはもう一歩近づいて、ククオの隣にしゃがんだ。「...一緒に練習してもいいよ?ツネヨシ様には内緒で。」ククオの目が少しだけ明るくなった。「ホントにいいんですか?」ニナは小さく頷く。


「うん。ククオの魔法.....嫌いじゃないし。」ククオはぽかんとして、すぐ顔を赤くした。


「嫌いじゃないって…それ、ほめてくれてるんですか?」ニナも耳をピクリと動かして視線を逸らす。


「……別に。ただ事実。」それから二人は毎日夕暮れ近くまでこっそり練習を続けた。


ニナはククオの構えを横から見て、「もっと柔らかく」「タイミングを合わせて」と、短く指示を出す。


ククオが失敗するたびに、ニナは小さく首を振って「もう一回」


最初は「ニナさん」と呼んでいたククオだったが、何度も繰り返すうちに自然と呼び方が変わっていった。「ニナ、手首ってこう?」ニナは少し驚いた顔をしたけど、すぐに頷く。


「……うん。それでいい、ククオ。」呼び捨てになった瞬間、二人は同時に少し固まった。


ククオが慌てて言い訳をする。「あ、えっと、なんか自然に出ちゃって…いやだった?」


ニナは耳をピクピクさせて、頬を薄く赤らめた。「...別に。いいよ。」ククオは照れ臭そうに耳をかいた。「じゃあ……ニナ、これからもよろしくお願いします。」


ニナは小さく微笑んで「…うん。ククオも」最後にククオの水が今までよりも少し遠くまで飛んだ。


ぴゅっ……と弧を描いて落ちる。ニナが小さく手をたたいた。「少し、伸びた」


ククオは照れ笑いしながら、「ニナのおかげです。ありがとう!」


夕日が二人の影を伸ばす。肩はまだ触れあわない距離。でも、呼び方はもう「ククオ」と「ニナ」。


小さな一歩だけど確かな変化がそこにあった。森の風がやさしく、二人の髪を揺らした。


まだ始まったばかりの、、少しだけの特別な絆が、生まれ始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る