凍土の魔術師はこたつで丸くなる。~異世界召喚された俺、極寒の地でみかんを剥く~

@orangeore2025


 第一章:吹雪と半纏と召喚陣


 吹き荒れる吹雪の音が、石造りの広間に不気味に響き渡っていた。魔法陣の淡い輝きが消えると同時に、俺、空野ハルキは、自分の置かれた状況を三秒で把握した。

「……いや、寒すぎだろ」

 足元はフローリングではなく、霜の降りた冷たい石畳。目の前にいるのは、豪華なローブを着た老人と、震えながら杖を構える兵士たち。そして俺の装備は、近所のコンビニへ行くためのスウェットと、母ちゃんから借りた派手な花柄の半纏だけだった。

 老人が、がたがたと歯を鳴らしながら一歩前に出る。

「お、おお……救世主様……。どうか、この永遠の冬に閉ざされた国『ルヴェネージュ』を……」

「話は後だ。とりあえず火を焚け。あと、みかんはあるか?」

 老人の名は宰相ギュンターというらしいが、そんなことはどうでもいい。俺は今、人生で初めて「鼻毛が凍る」という物理現象を体験している。


 第二章:聖剣よりもこたつを望む


 城の客間に案内された俺を待っていたのは、豪華なベッドではなく、ただの石の台だった。この世界の住人は寒さに耐性があるのか、それとも単に文化が遅れているのか。

 俺は異世界召喚の特典として与えられた『創造魔法』を、迷わず発動させた。

「聖剣? 伝説の鎧? そんなもんいらねえ。俺が欲しいのは……これだ!」

 光の中から現れたのは、木製の天板に布団がセットされた、日本の魂――こたつである。

「な、なんですかな、その四角い魔導具は……」

 背後で王女リリフェットが驚愕の声を上げる。彼女は銀髪の美少女だが、鼻の頭が赤くなっていて、実にかわいそうだった。

「いいから入れ。飛ぶぞ」

 リリフェットが恐る恐るこたつに足を滑り込ませた瞬間、彼女の表情が蕩けた。

「……ふあぁ。お父様、私、もう戦いたくありません……」

 こうして、救世主と王女は、世界を救う前にこたつの魔力に敗北した。


 第三章:氷の魔王軍、宅配便に屈す


 城の門前に、魔王軍の幹部と名乗る男が現れた。名はザイガス。氷の鎧を纏い、触れるものすべてを凍てつかせるという恐ろしい騎士だ。

「出てこい、異世界の勇者! 我が冷気で、その魂ごと凍りつかせてくれるわ!」

 俺は城のバルコニーから、こたつに潜ったまま身を乗り出した。

「おい、ザイガスとか言ったか? お前、それだけ冷気出せるなら、夏場は重宝されるだろうな。だが今は冬だ。空気を読め」

「黙れ! くらえ、極寒死界――」

「あー、ちょっと待て。はい、これ。お近づきのしるしだ」

 俺は創造魔法で作った『超強力カイロ・マグマ級』を、全力で彼の鎧の隙間に投げ込んだ。

 数秒後、ザイガスの鎧から猛烈な湯気が立ち上る。

「熱っ!? え、何これ、熱い! 脱げない! 鎧が熱膨張して脱げな……ぎゃああああ!」

 最強の氷騎士は、股間に貼られたカイロの熱に耐えかね、転げ回りながら山へと帰っていった。


 第四章:みかんの皮と戦略的引きこもり


 冬の異世界生活において、みかんは通貨に等しい。俺はこたつの上に山積みにされたみかんを剥きながら、次なる作戦を練っていた。

「ハルキ様、あの……そのオレンジ色の果実の皮、捨てないでくださいませ」

 リリフェットが、すっかりこたつに馴染んだ手つきで俺の袖を引く。

「皮? 何に使うんだよ」

「お風呂に入れるのです。そうすれば、体がさらにポカポカになると……」

「お前、もう完全にこっち側の人間だな」

 平和だった。外では魔王軍が「冬の陣」と称して大攻勢をかけているらしいが、この部屋の温度は二十八度に保たれている。

 たまに窓の外を通り過ぎる兵士たちが、羨ましそうにこちらを見ているが、知ったことではない。

 俺は、こたつのコードを延長するための『無限魔力コンセント』を創造し、更なるぬくもりを追求することに決めた。


 第五章:春を呼ぶ、究極の二度寝


 ついに魔王が直々にやってきた。漆黒の毛皮に身を包んだ巨漢、魔王ゼノン。彼は城の壁を破壊し、俺たちの前に立ち塞がった。

「勇者よ、貴様のせいで我が軍の士気はガタガタだ! 皆、戦いよりもこたつを求めて脱走していく……責任を取れ!」

「責任? なら、お前も入れよ」

 俺は隣のスペースをポンポンと叩いた。

「……。ふん、そんな小細工が我に通用すると――」

 五分後。そこには、こたつの天板に顎を乗せ、「これ、出られないやつだな」と呟く魔王の姿があった。

 冬が悪いんじゃない。こたつが良すぎるのが悪いのだ。

 魔王はそのまま、俺と一緒に深い眠りに落ちた。争いのない、ただ暖かいだけの午後。

 外では雪が止み、心なしか日差しが柔らかくなっていた。

 異世界を救うのは剣でも魔法でもなく、ただ一枚の布団と、電気代のいらないヒーターだった。

「春が来たら起こしてくれ……」

 俺たちは、伝説の二度寝へと突入した。

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