第2話 リリィ
『リア様のことが好き、なので…はい、勿論ラブの意味ですよ!』
「…は、はい?」
言っている意味がわからなかった。好き?わたしのことが?
突然の告白に頭が情報を処理しきれず、混乱してしまう。
「す、好きって…」
「はい!そうです!だから、言いません!」
一応言うが、わたしは貧相な身体つきだが、これでも女性だ。それで彼女は、わたしよりもだいぶ女性らしい身体つきで、もちろん女性だ。
同性愛…まあ、今はそういうのもアリな時代か…
「とにかく…リア様!わたしに協力してください!」
「きょ、協力?…」
「はい!リア様には革命家として活動してもらいます!」
「は!?しょ、正気!?」
やはり、正気とは思えない。話が飛び過ぎている。要件が次から次へと流れてくる…もう嫌になりそうだ。
リリィは不思議な人物だとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。
「はい!いたって正気です!…そして、わたしの言った通りに行動してもらいます。具体的には―」
そう言って、計画表のようなものをわたしへ見せ付けてきた。
…あまり認めたくはないが、それはあまりにも完璧だった。今までの
不思議と成功する予感が頭をよぎった。
「…ねえ、リリィって何者?」
「秘密です!」
秘密なんて言われると余計に気になるが、おそらくこれ以上問い詰めても、答えを吐くことはないのだろう。もうそのことについては、諦めることにした。
「そっか…けどリリィがこんなことを言い出すなんてね…」
「え?リア様ってわたしのこと、どう思ってたんですか?」
リリィのこと…本当にアルビノでわたしに奉公してくれて、謙虚な性格ということくらいしか…
あれ、よく考えたら、一年も同棲しているのに、これくらいしかイメージが浮かばないのって、結構ひどくないか…まあリリィはこの程度のことでは怒らないだろうが。
「え?ま、まあ謙虚で、…」
アルビノというのはあまり言わないほうがいいだろう。この世界ではアルビノは差別対象だから…
「…ふふ、リア様って、やっぱり不思議な人ですね!」
彼女だけには言われたくなかった。少なくとも彼女よりは、普通な人間だと思う。
「それはリリィの事じゃ…。て、てかさ!リリィこそ、なんでわたしの事が好きなの?ごめんね。わたしってあんまり『イロコイザタ』っていうものがわからなくて…どういう要素でわたしのことが『好き』になるのかもわからないんだ。」
「えっと…そうですね。まあ、それはひとそれぞれだと思いますけど…わたしは、リア様の、勝手に住み着いたわたしのような人間を受け入れてくれる寛容さと、お仕事に対する誠実さ…」
「ちょ、ちょっと待って!ちょっと、落ち着こう?」
急にベタ褒めしてくるものだから、恥ずかしくなってきて、そう発言を止めてしまった。落ち着いていないのは、おそらくわたしの方だ。
「え?…リア様、顔が赤いですよ?」
リリィが小悪魔のように微笑みながらそう言う。可愛い。
「え!…」
「まあ、それはともかく。一つ言わせてください。」
「えっとぉ、なに?」
なぜか心の底から謎の決心がついていた。もう何を訊かれても動じないという心だ。
「わたしはリア様に感謝しているんです。…ほら、わたしってアルビノじゃないですか…だから、幼い頃からずっと差別を受けてきて…」
そっか、それはさぞかし辛かっただろうな。
わたしの周りにはアルビノの人は居なかったので実際に目にした事はないが、物品の売買を制限されたり、外出の制限を受けたり…かなり酷い差別を受けているのは知っている。
なんかわたしまでも、しみじみとしてきた。
「けどリア様は、わたしを普通の人のように接してくれたんです。…初めて一人の人間として見てもらえて、うれしかったんです…」
「そ、そう…」
自分でもわかるほどに、顔が熱くなる。他人に真正面から好意を伝えられるとこんな気持ちになるんだ…
―今まで、
「あれ、リア様?……ふふ、リア様のこんな表情初めて見ました。…可愛い。」
その瞬間だった。わたしはあまりの衝撃に腰を抜かしそうになった。
唇を奪われた。…初めての
突然、リリィがわたしに身を寄せ、アルビノのせいか一際目立っている紅い唇が、わたしの唇と接触したのだ。…
すごく柔らかかった。わたしの唇は汚れた大気のせいでカピカピだから、それだけでも驚いてしまった。
しかも、間近で見た彼女の顔は、とても綺麗に見えた。鏡で見る自分の顔とは違う…本当の美人だった。
「ドキッとしてます?リア様?」
彼女の息遣いが若干荒くなっている。わたしの鼓動は一音一音が銃声のように響いている。
「リア様って、もしかして…まあ、これは言わないでおきましょう。」
「―とにかく、わたしに協力にしてくださいますよね?」、そうわたしの耳元で囁いた。
リリィはかなり罪な女性なのかもしれない。だって、こんな色仕掛けをされて…しかもこんな美人にされて断れる人がいるのだろうか。少なくとも、わたしは断ることができない。だから、
「ひゃ、ひゃい…」
そう返事をしてしまった。―
*
わたしはこれからリリィの計画表通りに行動をすることとなった。そして、朝日が昇りはじめるこの早朝、わたしは一つ目の行動を起こす。
目の前には巨大な塔が…それに造りも、工場並みに頑丈そうだ。
『革命に必要なものは「人手」です。なので、始めは、多くの人々に支持されている人物…サンライズ組の組長を味方につけましょう。』
サンライズ組とは、このサンセット・シティを縄張りにしているヤクザだ。
その組長を味方にすれば、大量の人手を得ることができる…たしかに、そうすれば工場の停止も、現実的になるかもしれない。ただ…
「ねえ、リリィ。やっぱりさぁ、…団長を仲間にするなんて可能なのぉ?」
「利害関係さえ一致すれば、可能だと思います…だって、ここの組長は優秀な人物です!少なくとも、わたしはそう思っています。」
やはり、リリィの考えはわからない。けれで、彼女がそう言うと、まるで事実のように聞こえてしまうのだ。ちなみに、今、彼女はアルビノがバレぬよう顔を隠している。
「それに、彼とは少し交流があるのです。…信じてもらえないかもしれませんが。」
彼とは、組長のことだろう。サンライズ組の組長はたしかに頭がよく切れることで有名で、政府の人間とも親交の関係にあると噂だ。
ならば、余計に革命への協力を認めてくれないのではと考えてしまうが。
というか!なんで交流があるの!?
もしかして、リリィはヤクザだった…?
「うん…余計にリリィの謎が深まった…」
「…まあ、いつかわかる日が来ますよ。多分。」
一応、リリィの言う通り、一通りの武器を持ってきた。ただ、あまりに大きいものは重くて運べないので、拳銃や小刀くらいのものだ。あとスタンガンもある。
「では、行きましょう!」
「え!?ちょ…正面から入るの!?」
「はい、もちろん!」
そう笑顔で言われても…もしかして、本当に正面から入る気か?
「大丈夫ですよ!だって、こんな早朝ですし…」
たしかにまだ午前五時だが、だからと言って、誰もいないとは限らない。そうごちゃごちゃと考えているうちに、気が付いたら、リリィは異様に巨大な扉を開いていた。
ああ、終わった。わたしの人生は一人の女性の気まぐれで終了してしまうんだ…
まあ、これ以上、生きていても、良い事は何一つないかもしれないが…せっかくならもうちょっと長く生きたかったな。…
扉の奥はだだっ広い空間が広がっていて、幸い誰も人はいない…いや、端に清掃員らしき人物はいる。上部の人に雇われている普通の清掃員であることを信じよう…
「あ!『フェンさん』!」
リリィは清掃員らしき人物へそう叫んだ。
「ん?…リリィ様ではありませんか!」
さらにリリィは突然、その長身で茶色の長髪の清掃員らしき女性へ向かって飛び込んだ。フェン、と言っていたが…リリィ様?
「あの、リリィ?その人は…」
「えっとね!フェンさんはフェンさんですよ!」
だから、そのフェンさんがわからないのだが。
「リリィ様、それじゃあ、彼女に伝わらないでしょう。…俺は『フェンリル』です。世間では『
俺っ子!?…それはともかく、F-NISってどこかで聞いたことあるような…うーん。
は!もしかして…いやぁ、まさか。
「えっと…もしかしなくても、組長さん?」
「はい、そうです。俺がサンライズ組の組長です。」
まじか…たしかに、清掃員のような恰好をしていたが、それでも隠しきれていない「リーダー的オーラ」を放っている。敬意を込めて、さん付けをしよう。
「そういえば、貴方は…」
「フェンさん!この人はね…わたしのフィアンセですよ!」
「え!?」
フェンリルさんは目を丸くして、驚いていた。もちろん嘘である。…え?嘘だよね?少なくとも、わたしはそんな約束をした記憶はない。
「違いますよ!もう、リリィ。変な嘘つかないで!」
誤解されたくないので、必死にそう訴える。
「わたしは『リア』です。好きに呼んでください。リリィとは一年ほどの付き合いです。」
「そう!付き合ってるんですよ!」
「だから、違うよ!」
「そうか…リリィ様が見込んでいる方…きっと貴方は良い人なんだろうね。」
良い人?良い人なのだろうか…わたしは。てか、誤解されてないよね?少し怖くなってきた。
「まあ、とにかく、要件は客室で訊きますよ。」
そう言われたので、わたし達は客室へ向かった…
ちっぽけな世界の「革命家になりたい女の子」が、奉公してくれる「不思議な女の子」に恋されてしまう革命譚 謎のイグニス @Nazo_No_Igunis
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