ちっぽけな世界の「革命家になりたい女の子」が、奉公してくれる「不思議な女の子」に恋されてしまう革命譚

謎のイグニス

第1話 革命家になろう


 ここは『陽の上がらない街サンセット・シティ』。国内有数の工業地帯で、中央にそびえ立つセメント工場の煙突が、この街の象徴らしい。

 工場で溢れるこの街は、大気汚染が深刻で、最寄りの電柱を見る事すら困難を極める。

 工場の労働者も、賃金が低いうえ、土地不足、劣悪な労働環境の三重苦で、健康状態は悪く、まとも住居を建てることもできない。だから、政府の目をかいくぐり、地下に居住ゾーンを確保している。

 政府の管理下にある工場以外のほぼ全ての建造物は違法建築物で、道も個人が勝手に引いた物がほとんどだ。わたしはその違法建築物を横領して、そこに住んでいる。


 わたしは『リア』。父親は、セメント工場の従業員でそこそこに良い位だったらしいが、事故によって死んだ。母親は、腐った空気によって病気を患い、そのまま亡くなった。

 年齢なんて物は覚えていないが、まだ二十歳は迎えていない事だけは確かだ。


 この世界は腐った。政府は金の為に、この街をここまでの工業地帯に仕立て上げたが、結果は環境問題の連続、平均寿命は32.6歳。

 早死なんてレベルではない。普通ならば、何らかの対策に走るべきだが、この街の情報は全て、郊外への伝達を遮断されており、政府はこの醜い現状を知らないのだろう。


「500mlの水を十本ください。」


「はい、20プルア」


「はいよ」


「まいどあり」


 こんな街では今日も闇市が盛況であり、今、わたしもその闇市で買い物をしている。水道が通っていないので、生活用水も買わなくてはいけない。しかし、低い賃金で買える水の量なんてたかが知れているので、基本的には限界節水生活だ。

 わたしは工場で働いているわけではない。じゃあ何をしているのかというと、『武器職人』だ。

 自慢ぽいが、わたしは器用だ。そして、この街では鉱石が格安で手に入る。そして、わたしの母親は武器職人としてそれなりに名を馳せていたらしい。

 つまり、特に深い理由があるわけではない。自分にできそうな職業を考えて、最初に思い浮かんだのが武器職人だっただけだ。


「この食パンを一斤」


「これかい?じゃあ14プリアだよ。」


「はい、…」


「まいどあり。」


 いつも通りの買い物を続ける。わたしに家族はいないが、はいる。

 食料品も買い揃え、自宅兼店の建物に帰る。さきほどは横領したと言ったが、その家は元々父親の部下の実家らしく、若い男一人が住み着いていたが、追い出した。



「ただいま」


 トタン板で作った簡素なドアを開ける。すると玄関には同居人のアルビノの女性…「リリィ」がいた。

 彼女はある日、突然ここに住み着き、わたしに奉公をしてくれている不思議な人物だ。


「おかえりなさい、リア様。」


 人形のようで、髪も若干金色っぽく、肌は真っ白で二十三の年齢の割に幼く見える。家に住み着いた時に追い出してもよかったのだが、ここらでは見る事ができないような美しい容姿だった上、わたしに対して危害を加えることも無さそうなので住ませている。


「えっと…リア様、晩御飯の用意はできておりますが…どうしますか?」


 そういえば、そんな時間か。太陽が見えないこの街では、昼や夜といった概念がないので、普通は適当な時間に、腹が空いたら食事を摂るのだが、リリィはやけに時間を気にする。


「じゃあ、食べようかな…」


「かしこまりました…」


 リリィは小走りで、食事の用意へ向かった。

 しかし考えれば考えるほど、彼女の存在は摩訶不思議だ。

 この街の住民は普通、空気中を漂うすすのせいで、体はずっと汚れているし、シャワーもまともに浴びられないので、臭いもキツイ。わたしも含めてだ。

 けれど、彼女はずっと綺麗で、なんかいい匂いがする。


 *


 リリィの手料理は美味しい。わたしは料理が下手…というよりは、調理の方法を理解していないので、まともな料理を作ることができない。

 だからわたしは彼女に感謝している。しかし、わたしが彼女に感謝を述べても、彼女は『大したことはしていません…』と言ってきて、流されてしまう。

 食事中は基本的には、リリィがわたしに会話の矢を向けてくれる。けれど、リリィはあまり自分について話すことがないので、基本的にはわたしが一方的に喋ることになる。


「リア様、武器の売れ行きはどうですか?」


「まあ、変わらず…かな」


「そうですか…あ、けど大丈夫ですよ!最悪、リア様の武器工房の業績がこのまま低迷し続けても、わたしがしっかり養いますので…て、すみません!まるで、リア様の商売がこのまま廃れてしまうような言い方…雇用主のリア様に対して失礼極まりない…!」


「ちょ、落ち着いてリリィ…まあ、実際わたしは上手くいってないし…」


 そもそも、武器を売るということ自体が、時代にも土地にもミスマッチだ。街の外は戦争反対を掲げているらしいし。この街の住民は、希望などとっくのとうに失っていて、もはや政府に犯行する意思もなく、仲間割れをする元気でさえない。


「はあ…どうにかならないかな…」


 そう溜息をつく。


「こんな世の中が変われば、転職先も見つかったりするのかな…」


 工場で働くのは論外だ。賃金は絶望的に低いので、白濁が気になる水と、パサパサの安いパンだけの貧しい生活を強いられることとなるのだろう。

 この街は賃金は低いのに、物価は外の世界と大差ない為、ほんとうに生活が苦しい。

 ちなみに街から出ることは不可能だ。サンセット・シティは、政府管理の巨大結界に囲まれていて、それによって内部から外部へ出ることは、政府関係者でない限り不可能となる。


「…じゃあリア様。リア様がこの世界を変えればいいのでは!?」


「は、はい?…」


 意味がわからなかった。世界を変える?わたしがナポレオンになれと…?


「えっと…それって…」


「そうですよ!リア様が『』になればいいんですよ!」


「いや、けど急にそう言われたって、革命なんてわたしなんかが、起こせるわけ…」


 わたしは、ただちょっと器用なだけの平凡な女の子、リアだ。そんな人間が革命なんて大層なことをできる訳がない。


「大丈夫です!わたしに任せてください!」


「え?…そういえばリリィってなんでサンセット・シティなんかに居るの?」


 面倒そうなので、話を逸らそうとした。けれどこの質問はただずっと気になっていた事だ。


「それは…って、話を逸らそうとしましたよね!?バレバレですよ!」


 バレてしまった上、質問の答えがわからなかった。しょうがないから話に付き合うことにしよう。


「まあ、そうだね。とにかく、わたしなんかが革命をするなんて、無謀すぎるってことだよ。」


「ふふ…大丈夫です。策はありますよ!」


 全ての料理を食べ終えても、会話は続く。ここまで長く喋るのは初めてかもしれない。一応これでも会ってから一年ほど経つのだが。


「そもそもですよ!リア様。この街がここまで乱雑に管理されているということはですよ…政府は今、余裕がないという経済状況の現れです!」


「な、なるほど…」


 マシンガントークを繰り出すリリィに、わたしはとにかく相槌を打つ。


「それに、この街を財政の源にしているので、この街にある工場を全て停止するば、この国は財政破綻で国家艱難こっかかんなん待ったなしです!そうすれば、国家革新の動きが広まるでしょう。」


 理論上だけの机上の空論を羅列される。


「…けど、それって現実的に考えてムリじゃないかな…」


「そうですかねぇ…」


「そうだと思いますよぉ」


 わたしはそう言って皿をまとめて、椅子から立った。そして、武器の鋳造室へ向かった。



 武器の部品を鋳造し、組み合わせる…代り映えのない作業を続けても尚、この武器は売れることはないので、無論お金もカツカツだ。

 だから、リリィに奉公料を払うこともできていないのに、本人は「別にお金なんていらないんです。」と言うので、申し訳なく思いながら、せめて日用品だけは欠落しないよう頑張っている。


「え?…」


 窓辺に紙が落ちていた。それを拾うと衝撃的な事実が記されていた。


『サンセット・シティ爆破計画』


 爆破…?正気だろうか。内容を読むとあまりにも理不尽だった。簡単に言うと、『廃棄ガスにより、降り注ぐ酸性雨が郊外にも、影響を与えており、それが首都にまで降り注いでいて、社会問題になっている。だから、原因元のサンセット・シティを爆撃し、工場を全て壊そう』…という内容だ。

 政府が管理を疎かにしたことが元凶だ。それにも関わらず、この事態を力技で…多くの犠牲を払って解決しようとしている。

 このサンセット・シティには1000万人ほどの人々が住んでいる。この計画を遂行したら、どれほどの人が死ぬのだろうか。


「革命、か…」


 リリィとの会話を思い出した。リリィの発言はあながち間違ってはいないのかもしれない。誰かが変えなきゃいけないんだ、この世界を。

 あとは、わたしにそれを実現できる行動力があれば良かったのだが…あいにく、わたしにはそれが無かった。ただ、紙に書いてある内容を読み進める。


「予定は一年後…6月6日…」


 読めば読むほど、世界を変えなければいけないという想いが強くなる。

 この内容が本当ならば、この世界を変えてみたい。こんな浅はかな願いで変えられるような世界ではないと思うけど…そんな妄言を考えているところだった。


「ふふ…少しはその気に…なってくれましたか?」


 後ろへ振り向くと、そこにはリリィの姿があった。


「え?リリィ?…ってもしかしてこの紙って…」


「はい、わたしの所有物です!」


「ど、どうして…?」


 そう訊いたら、彼女は少し困ったような顔をする。その後、姿勢を正した。


「そうですね…リア様には嫌われたくないので言えません…だって―」


 すると、彼女は高らかにそう言った。



『リア様のことが、なので…はい、勿論ラブの意味ですよ!』



「…は、はい?」

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