第3話 素直じゃない

 とある日の放課後、俺は図書委員の作業があって、図書室に来ていた。自由に図書室の本を読めることが図書委員の特権で、自分の好きな小説の新刊があったので、作業を終えたあとそれを読むことにした。

 俺は放課後に、この静かな図書室で本を読むことが気に入っている。

 そんな中、珍しく永遠が図書室にやって来た。

 カウンター越しに俺に話しかけてくる。


「理央って本好きだよね」


「うん、知らない世界を教えてもらえる気がするというか」


「そうなんだ」


「てか、部活は?」


「テスト前だから休みになった」


「ああ、そっか。テスト嫌すぎる……」


「なあ理央、今から俺の家来ない?」


「勉強は?」


「だから理央と勉強したいから」


「それなら、じゃあ行こうかな」


 そう言って、俺と永遠は図書室を出た。永遠の家は学校から近いらしく、話しているうちに20分程度で永遠の家の前に着いてしまった。


「永遠の家って初めて来たかも。近いんだな」


「そうだよ。近いから今の高校に決めたのもあるし」


「そうなんだ」


 俺は永遠に促されて、家の中に入っていく。


「お邪魔します」


「今日家に誰もいないし、気にしないでいいから」


「え、そうなの?」


「両親共働きだし、昼間は1人のことが多いし」


「そっか……」


 俺は内心安心したようなそうでないような複雑な気持ちのまま、部屋に案内される。綺麗に整頓されていて、壁にはバスケ選手のユニフォームや、グッズが飾られていた。

 ここで永遠がいつも過ごしているのかと思うと、なんだか緊張して落ち着かなくなってしまう。

 永遠は飲み物を用意してくれて、2人で向かい合って勉強をすることにした。


「理央って何の教科が得意?」


「何だろ、強いて言えば文系かな」


「じゃあ、わからないところあったら聞いてもいい?」


「ああ、うん。永遠は得意な教科とかある?」


「俺はまあ数学ぐらいかな」


 そう言って、お互いの得意な教科を教え合うことにした。


「理央、これ教えて欲しい」


「いいよ」


 俺は自然と永遠との距離が近くなる。髪が触れそうな距離に永遠の顔が視界に入って、整った顔立ちに目が眩みそうになる。いや、何考えてるんだよ……。


「理央の髪ってふわふわしてるんだな」


「何、急に……」


「髪はねてるから」


「え、どこ?」


 俺は自分の髪を触って、急いで髪を直そうとする。


「ごめん、嘘」


 俺の腕を軽く掴んで、頬にそっとキスをされる。


「今、何した……?」


 全然俺は頭が追いつかない。ただ永遠とぶつかったのかと思った。そう思おうとしたかったのかもしれない。


「そこに理央がいたから」


「は……?」


 俺は思考が停止した。全くもって状況がわからない。こんなクラスの人気者の永遠が、そんなことするはずがないだろ……。ただの間違い……?俺はそう思おうとした。


「今日2人で勉強したかったのは本当だけど、理央のことを家に呼んだのは、勉強が本当の理由じゃないよ」


「待って、全然意味わかんないから」


 俺はこの状況に戸惑って、永遠のことが頭を埋め尽くして体が動かない。


「なあ理央、俺が理央のこと好きなのわかってないよね?」


「友達として、だろ?俺も友達として永遠のこと好きだって」


「それ、本当に言ってる?」


 全てを見透かしているような永遠の目に、吸い込まれそうな気持ちになった。


「……本当だけど」


「はぐらかすなって」


 沈黙が流れる。いつもなら何も話さなくても何も思わないのに、この時だけは違った。


「……」


「ごめん、困らせたわ。いや、そういうことじゃなくて……」


 永遠は困った顔をしながら、何かを考えているようだった。


「……俺、理央に感謝してるんだよ」


「そう、なの?」


「覚えてないかもしれないけど、入学した時に、バスケ部入ろうと思ったのが、理央のおかげなんだよ」


「どういうこと?」


「俺、中学の時、他のバスケのクラブチームに所属してたけど、全然下手で役に立ててなかった、それで今のバスケ部に入るの悩んでたんだよ」


「……そうなんだ」


「でも、高校入学してすぐの時に、放課後体育館でバスケの練習してたら、たまたま声かけられたんだよね、理央に」


「うん、なんとなくそれは覚えてるかも」


「何話したか覚えてる?」


「いや、会話までは覚えてないかも」


「俺がシュート練習をしてるのを見て、理央は綺麗だって言ってくれたんだよ。それと、バスケ続けてねって」


「今思い出したかも」


「理央にとっては、些細な言葉だったかもしれないけど、俺は、あの時バスケを続けるかどうかを悩んでて、でも理央の言葉がバスケを続ける十分すぎる言葉だったんだよね」


「そっか、それなら本当によかった。この前の試合もすごい良い試合だったし、かっこよかったよ」


「それは、理央のおかげなんだって」


「……そっか、それはなんか嬉しいわ」


 俺は、恥ずかしくなって少し俯いて永遠から視線を逸らしてしまう。

 それを永遠は見逃さなかった。


「なあ理央、一回しか言わないし今から大事なこと言うから聞いてくれるか?」


「……ああ、うん。何?」


 逸らした視線をかろうじて永遠の方に戻した。いつもより優しく穏やかな視線に胸が締め付けられる。


「理央、これからも俺のそばにいて欲しい」


「……だから友達として、だろ?」


「友達じゃなくて、恋人として」


 俺は永遠の真剣な目に射抜かれたように、体が動かない。


「理央は今何考えてる?理央の気持ちが聞きたい」


「そんな急に言われても……」


「そう、だよな。急がないし、気持ちに整理がついたら聞かせて?それまで待つし、理央のこと大事にしたいから」


「でも、嫌いじゃない。さっきのキスも嫌じゃなかったから」


「何それ、期待していいの?」


「……だからもう一回試してみてもいい?」


「わかった」


 永遠は俺の両頬を包むようにして、息が触れる距離に近づき、唇が触れた瞬間、永遠の気持ちが自分の中に流れ込んでくるようだった。鼓動が早くなる。


「嫌じゃなかった?」


「嫌じゃなかったから、もう一回」


 永遠は俺に従うようにもう一度唇が触れた。さっきよりも熱を帯びた視線を向けて、永遠の目の中には俺だけを映している。


「なあ理央、俺のこともしかして好きなの?」


「好きじゃないよ」


「素直じゃないな?」


 永遠は俺の両頬を軽く引っ張ったり、戻したりしてからかいながら、子どもみたいに笑っている。


「好きじゃなくて、嫌いでもなかったらなんだよ笑」


「言ってない言葉あるじゃん」


「何?全然わからん」


「大好き」


「はあ?待ってそれ反則だわ。俺の方が好きだから覚悟しとけよ」


「俺のことなめんな、望むところだから」


 2人して笑い合った後、視線が交わり、抱きしめあって深いキスをする。

 季節が過ぎ去っても、この恋の続きを描いていく______




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君が春に滲む 藍沢ルイ @mimistar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ