『小鳥遊(たかなし)すず』という友人と、バカみたいな山の上にある母校への道のり

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https://kakuyomu.jp/users/IzumiSanada/news/822139842887190654

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「おはすず~」

 朝の爽やかな空気。いつもの通学路の先に親友の姿を認めた私は、に朝の挨拶を仕掛けた。私の気配に振り返っていた彼女は、手を前に突き出して首を振る。

「や、やめてよ、さくらちゃん。……おはよう」

「んふふ、おはよう」

 校舎が家の近所にあった中学時代と違って、いまは校区の関係で山の上にある高校へと通学している。仲の良かった友達と離れたのはちょっぴり寂しかったけど――幸いにも、目の前にいる親友・小鳥遊たかなしすずちゃんを始めとした友人ができ、なんとかやれている。

 こうしてふたりで、登山のように通学路を歩いていく毎日。刺激に溢れているわけではないけど、けっこう、充実しているんではないだろうか。

 帰るとき、たまにふたりで女子トークしていく公園を抜けて、細い山道へ。すれ違ったサラリーマンを避けつつ、横に歩く目隠れ美少女のことを、すずちゃん、と呼ぶ。

「今日の情報Iいちってなんか提出物あったっけ?」

「えと、レイヤー表現の宿題。チラシを作ってくるやつかな」

「……あとで適当にでっちあげようかな」

「ん。がんばれー」

 すずちゃんは一年の最初に隣の席に座った時からの仲。黒髪ボブのザ・美少女だけど、本人があまり積極的に前へ出ないから目立ってないタイプ。めちゃ可愛い。

 実家が神社の私は、美しい黒髪にコンプレックスがある。私は主張強めの天然茶髪で、小さい頃から周囲には羨ましがられた。母方は黒髪の家系なので、どちらかと言えば父の遺伝だろうと思う。

 だから、私にない色々を持っている彼女が羨ましくて話しかけたのが、最初の一歩。

「そう言えばさ、すずちゃん」

「うん?」

 こうした私の呼びかけにも、最初はびくびくと応えていたすずちゃん。

 仲良くなっていくと、彼女は彼女で、私の馴れ馴れしい――彼女からすれば、積極的なコミュりよくを羨ましがっていると知った。私は自認がオタク気質なので、内側に籠もって孤立しないよう、周囲との関わりを意図的に増やすよう努力していたのだ。

 そんなところを互いに認め合って、結果的にクラスへ溶け込むオタク女子として成長しふたりで上手くやれてきた、名コンビとなったのが、私たちというわけだ。

 そんな彼女が、実は裏で配信者――Vライバーをやっていたと打ち明けられた時、私は死ぬかと思った。登録者ひと桁の頃から推していた、清楚系Vライバー『詩誰しだれすずか』。それが彼女だったのだから。

 私も、実は配信者には憧れがあった。でも、特別歌が上手いわけでも、特定のゲームをやり込んだこともなければ、清楚な声でもない私に、そんな勇気はなかった。

 でもすずちゃんは、勇気を出したんだ。私は、その一歩が心底羨ましかったし、同時に尊敬の念を抱いた。だから、彼女ともっと仲良くなるのに時間は掛からなかった。

 そんなすずちゃんの様子が、朝からどうもおかしいと感じていた私。昨日聴いた配信も妙な感じだったことも気になっていたので、さっそく斬り込むことにした。

「昨日の配信見てたんだけど、なにかあった?」

「あ……」

 ASMR配信なので、普段から配信画面はあまり見ておらず、どちらかと言うと聴いているのだが――それはさておき、すずちゃんから漏れた短い声が、私に教えていた。

 ――

 すずちゃんの親友(自認)であり、詩誰しだれすずかの古参リスナー(自称)でもある私には彼女がそうして一瞬のが分かった。

「言えないなら良いよ」

「う、そういうわけじゃ」

「でも、言えるようになったら教えて欲しいな」

「――ん」

 友だちだからって、踏み込んでいい部分とそうでない部分がある。

 すずちゃんは親友であり。どちらの立場でも、他人である私に言えないことなんていくらでもある。

 でも、もし――もし力になれることなら、いくらでも手を貸したい。それだけは彼女に伝えておきたかった。独りよがりかも知れないけど。

 私の言葉に、すずちゃんは『ん』とか『う』とかちょっとえっちな反応をして――

「ありがと、さくらちゃん」

 吐息混じりに、ちょっと嬉しそうにそう言った(えっちだな)。

 山道から、少し広めの道路に出る。長い長い坂だ。有名なライトノベルの聖地としても知られていて、たまに学生をとっくに卒業した人たちが懐かしそうな顔で歩いている。

 この坂を上りきれば、私たちの高校だ。

 木々を抜けて、吹き付けた風に思わず手をかざした時だった。

「あのね、さくらちゃん」

 すずちゃんが、ちょっぴり真面目な声で私を呼んだ。

「ぇなに?」

 呼ばれると思っていなかった私は、風でしかめていた顔を戻そうとしていて、変な声を出す。それが面白かったのか、くすりと笑うすずちゃん。

 しかし――

「今日の放課後、私の家に来ない?」

 続いた言葉は、私のキャパシティを越えていた。

「ほ!?」

 すみません、オホ声が出てしまいました。

「お、オタクのオホ声、やめてね?」

「ご、ごめん。だって、すずちゃんが、お、おうちに呼んでくれるなんて」

 だって、彼女の家に呼ばれるということは、家に行くということです。

 それはつまり、私の推し配信者『詩誰しだれすずか』の配信部屋に近寄るということだ。

「推しとそういう距離間のお付き合いに行くのは解釈違いかなって……」

「変な妄想やめてね?」

 仲良くなってからも、自宅がちょっと遠いのもあってお互いの家に行ったことはない。せいぜい庭みたいな名前のショッピングモールで一緒に遊ぶぐらいだ。

 そんな私が、すずちゃんの家に? いったい何の用で?

 そう問う私に、すずちゃんが言った言葉――

「ん――大事な話が、あるの」

 ――それは、私のキャパシティを破壊した。

「ほァ!?」

 すみません、オホ声が出てしまいました。

「オホ声やめてね?」

 挙動不審の私を見て、くすくすと笑うすずちゃん。だけど、その目線は真剣だった。

 私は咳払いをして、すずちゃんに首を傾げてみせる。

「学校じゃダメな話なんだね」

 そう確かめた私の言葉に、黙ってうなずくすずちゃん。

「――来てくれたら話すから。約束ね」

 そう言って笑う彼女の言葉で、今日一日、私が挙動不審になるのが確定したのだった。

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