でんきねずみはトウモロコシの夢を見るか

ゆいゆい

第1話

 昔むかし、山と森に囲まれた小さな集落に、一匹のでんきねずみが住んでおりました。体は小さく、毛はまぶしいほど黄色く、雷を呼ぶふしぎな力を持ったねずみです。

 けれど村の人びとは、その力を恐れこそすれ、ありがたいものだとは思いませんでした。「あのねずみは、何の役にも立たん」

 そう言って、いつしか村のはずれへ追いやってしまったのです。


 ある日、こわい顔のおばあさんが言いました。

「役に立たんねずみは、これで十分じゃろ」

 そう言って皿にのせたのは、もう誰も手をつけぬ野菜のかけらでした。村人も、おばあさんの考えに賛同したようでした。でんきねずみはお腹がすいてばかりいましたが、我慢して野菜をぽりぽりかじっていたようです。


 この村にはでんきねずみ以外に、ほのおとかげとみずうみがめが住んでおりました。

 ほのおとかげは雨や雪が降っていても晴れにすることができ、みずうみがめは農家にとって恵みの雨をもたらすことができます。村人は、このニ匹をまるで宝物のように扱っていました。

 ですが、でんきねずみには雷を落とすことしかできません。光を放つこともできますが、あまりにまぶしすぎて何の役にも立ちませんでした。



 でんきねずみにはまともに住む場所もありませんでした。村の隅に追いやられた犬小屋で、野菜のかけらをぽりぽり齧っていました。

 ほのおとかげやみずうみがめは村人の家のでぬくぬく暮らしています。あたりは暗くなり、か細い鳴き声でちゅーちゅー鳴きますが、その声はもちろん誰にも届きません。



「でんきねずみやい。エサを持ってきたよ。さあ、食べて元気になるんだよ」

 そう言って、抜き足、差し足で犬小屋にやってきたのは、村に住む少年、カンタでした。

 カンタはでんきねずみにとって、たったひとりの、ともだちだったのです。

 両親から、でんきねずみと遊んではいけないと言われていたため、カンタはいつも人の目をさけるようにして犬小屋へ来ました。

 そして、ほんの少しの雑穀を分けてやったり、体についた汚れを、そっとぬぐってやったりしました。

カンタの家も、けっして豊かではありません。

ですから、甘いトウモロコシは持ってこられず、それはいつも、カンタが自分の口から分けた分だけでした。

 でんきねずみは、その雑穀を大事そうに口に運び、ゆっくり、ゆっくりとかみしめました。味はほとんどしませんでしたが、そのひと粒ひと粒が、胸にしみるようでした。

 それを見て、カンタは、ほっとしたように笑ったのです。



 昼のあいだ、でんきねずみにできることは、ほとんどありませんでした。

 ただ遠くから、村人たちや、ほのおとかげ、みずうみがめが働く姿を眺めるばかりです。今日はほのおとかげのおかげでさんさんとした晴れ模様です。 

「じゃまだ、どきな」

 そんな言葉といっしょに、足で追い払われることも、めずらしくはありませんでした。

 中には、口にしてはならぬ話をする者もいたほどです。

 けれども、でんきねずみは、まじめなねずみでした。人の目をぬすんで穀物をつまむこともなく、ただ静かに、与えられた分だけで生きていたのです。





「大変だ。カンタがいなくなったぞ」

「森に栗を取りに行ったらしい」

「もう六つ時じゃ。早く探さないと暗くなってしまう」

 ある日、村中が騒然としました。カンタが森に行ったっきり帰ってこないのです。

 それに気づいた村人も森へ向かいましたが、その姿を見つけることはできませんでした。

「ちゅー、ちゅー」

 でんきねずみには人の言葉がわからないものの、なんとなく何が起きているのかを察しました。


 でんきねずみは身体に力を貯め始めました。そして、周囲に人がいないことを確認したうえでその力を解き放ったのです。


ゴロゴロ、ピカリ。


 夜空を引き裂くような雷が、何度も何度も村に落ちたのです。

 村人たちは空を見上げ、はっと息をのみました。

「あの子への道しるべになるやもしれん」

「ねずみよ、どうか、もうひとふんばり」


 村人の声の後押しを受けながらでんきねずみは雷を落とし続けました。落ちた雷の数は100を越えたでしょう。でんきねずみはへとへとになり、地面にぺたりと腰を落としました。


 それから村人達はカンタを待ち続けました。ですが、カンタが姿を見せることはありませんでした。あたりはもうすっかり真っ暗です。

「カンタはもしかしたらケガして動けねえのかもしれねえな」

「これは神かくしじゃ」

「もう探しに行くのは無理じゃ」

 神頼みしていた村人達はまた絶望し、あれこれ言い合いはじめました。カンタの両親はもう何時間も涙しながらずっと森に目を向けていました。


 でんきねずみは自分の身体に鞭を打ち、起き上がりました。そして、でんきねずみが持つもう一つの力を発揮したのです。


 ピカッッ――――


 でんきねずみはまばゆい光を発しました。そして、森に向かって駆け出したのです。

 夜に出歩くことのない村人にとって、手元にある灯りと言えばろうそくくらいです。そんな村人達はみんな目が眩みましたが、慣れてくると総出ででんきねずみの後を追いました。ほのおとかげやみずうみがめも一緒です。

「男は光を頼りにカンタを探せえ、女はでんきねずみやカンタに食わせる物を持ってこい」

 時刻はもう五つ時に迫ろうかという頃。普段なら床に入る時間であるにも関わらず、村人は誰一人休むことはありませんでした。


 でんきねずみは、鼻がとびきり利くわけではありません。けれども、人よりは少しだけ、よくわかる鼻を持っていました。

 かすかに残った、カンタのにおい。今日が晴れていたのが幸いしました。雨だったら、カンタのにおいも流されてしまっていたかもしれません。

 それをたよりに、でんきねずみは鼻をくんくん鳴らしながら、森の中を走りまわったのです。

 からだはまばゆい光を放っていましたが、夜の森は深く、枝や葉が行く手をさえぎりました。

 足を取られ、ころび、体に傷をつくっても、でんきねずみは立ち上がり、また走りました。


 どれほどの時がたったでしょう。ついに、でんきねずみは崖の下で、うずくまるカンタを見つけたのです。

 カンタは動けずにいましたが、その目には、まだ光が残っていました。

「おったぞ、ここじゃ!」

「今行くぞ、待っておれ!」

「ようやったな、でんきねずみ」

そのあとは、村の力自慢たちの出番でした。大人たちは声をかけ合いながら崖を下り、そっとカンタを抱え、慎重に引き上げました。

 やがてカンタは無事に崖の上へ戻り、村の女たちが水を飲ませ、体を温めてやりました。


 帰り道、肩車されたカンタはでんきねずみに声をかけました。

「でんきねずみ。雷の音、聞こえたぞ。来てくれて本当にありがとう」

 それに対し、でんきねずみは明るく、ちゅーと答えました。やはりでんきねずみにはカンタが何を言っているのか何となくわかっているようでした。



 それからのお話です。でんきねずみは村の守り神として崇められ、カンタの家に住まわせてもらうことになりました。

 カンタの家には、村中から届いたお見舞いの品である数々の作物がありました。その中には、でんきねずみが今まで食べたことのなかったトウモロコシも含まれていました。


「でんきねずみ。よかったら食べてくれ。君は僕の命の恩人だから。あとは、君に名前を考えてあげないとな……」

 カンタはトウモロコシを差し出すと、じっくり名前を考え始めました。

 でんきねずみはトウモロコシには口をつけず、ただ静かに、カンタの顔を見つめていました。

 その目が、やけにやさしく光っていたと、あとでカンタは思い出したそうです。



 

 

 



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