第3話 魔王の置き土産と、12時間の猶予 前半

ふと、俺は空を見上げた。

青い空。白い雲。平和そのものだ。

だが、俺の心には、ある懸念がこびりついて離れなかった。


「あいつら……どうなったんだろうな」


魔王戦を共に戦った、異世界の仲間たちのことだ。

俺が転移する直前、みんな満身創痍で倒れていた。

誰かが回復魔法やポーションで助けてくれていればいいが、状況は絶望的だった。


なぜなら、俺たちは王国の命令で、たった5人のパーティーで敵陣最奥まで切り込ませられ、孤立無援で魔王と戦わされていたからだ。

俺の回復魔法があれば、全員すぐに治せただろうに。

思い出すのは、個性的で頼もしい仲間たちの顔だ。


パラディンのガルド。

身長2メートルを超える巨漢。無口だが、その巨大な盾でいつも俺たちを守ってくれた。少しだけ使える治癒魔法で、俺の手が回らない時にサポートしてくれた、縁の下の力持ち。


賢者のアルメダ。

見た目は青髪の幼女、頭脳は明晰。戦況を一瞬で分析し、広範囲殲滅魔法を放つ天才。いつもブツブツと計算をしていて近寄りがたかったが、実は甘いものに目がなかった。


剣聖のグラム爺さん。

俺の剣の師匠。飄々とした好々爺だが、剣を持てば「剣鬼」と呼ばれるほどの強さだった。ただ、隙あらば女性の尻を追いかける悪癖があり、「女の尻は世界の真理じゃ」が口癖だった。


そして、聖女のルーンフィア 。

金髪碧眼の正統派美少女。国一番の回復の使い手と言われていたが、女神様から直々に「規格外の回復魔法」を授かった俺には及ばなかった。

『あなたの回復は品がないのよ! 私の方が繊細なんだから!』

いつもそう言って突っかかってきたが、俺が怪我をした時は、誰よりも早く駆け寄ってきてくれた。本当は優しい子だった。


みんな、強かった。

だが、俺は腐った王族によって「隷属の首輪」を嵌められ、王家に逆らえない操り人形にされ、他の仲間連中も、貴族への復権や、一族のしがらみ、教会からの命令など、様々な理由で雁字がらめにされ、魔王を倒すまで死ぬ気で戦えと、使い潰されそうになっていたのが俺たち勇者PTの実態だ。


俺からすれば、あの王族どもこそが真の悪魔だ。


対して、俺たちが命を賭して倒した魔王ヴォルティナ。

褐色の肌に、流れるような黄金の髪。そこから生える無骨な一対の角。

暴力的なまでにグラマラスな肢体と、服の上からでもわかる豊満な胸。

その美しさと強さは、敵ながら神々しいほどだった。


彼女は、人間たちに迫害される魔族を守るために、自ら剣を取り、最前線で戦う人?だった。

安全な城でふんぞり返っている豚のような醜い人族の王よりも、彼女の方が遥かに気高く、立派な指導者だった。


だが……。

俺は「隷属の首輪」からの命令に逆らえず、この尊敬すべき魔王と殺し合わされた。

心では「殺したくない」と叫んでいても、拒否をすることが出来ずに、鍛え上げられた自分自身の技で、彼女を追い詰め……

そして最後には、俺が聖剣を振り上げ……彼女の、あの民を想って鼓動していた温かい胸に、深々と突き立ててしまった。


『見事だ……勇者よ……』


最期に彼女が浮かべた、悲しくも美しい微笑みが、今も脳裏に焼き付いて離れない。


「……クソッ」


やりきれない思いが込み上げ、俺はギュッと拳を握りしめた。

その時だった。


ボウッ……。


握りしめた拳が、淡い黄金色の光に包まれた。

通りすがりの人には見えないほどの、微かな光。


「え……?」


見間違えるはずがない。これは、俺が異世界に転移してから10年間使い続けた『回復魔法』の光だ。

ただ10年前の肉体と時間に戻っただけじゃないのか?


もしかして、異世界の力を、この世界に持って帰ってこれたのか?

俺は周囲をキョロキョロと確認し、誰も見ていないことを確認してから、小声で唱えた。


「……ステータス」


瞬間。

空中に半透明の青いウィンドウが展開された。

やっぱりだ。これが出るってことは、システムが生きてる!


【仲出 健二】

レベル:1(強制リセット)

職業:元・勇者

【スキル一覧】

・剣術(王級):【封印】

・弓術(王級) :【封印】

・格闘術(王級):【封印】

・身体強化(王級):【封印】

・縮地(王級):【封印】

・気配遮断(王級):【封印】

・威圧(王級):【封印】

・鑑定眼(王級):【封印】

・全言語理解:【封印】

・状態異常無効(王級):【封印】

・元素魔法(全属性・王級):【封印】

・時空魔法(王級):【封印】

・錬金術(王級):【封印】

・アイテムボックス(王級):【封印】

・回復魔法(神級・変異):【使用可能】


「……はぁ? ほとんど使えねえじゃねえか!」


ズラリと並んだチートスキルの数々。これらが使えれば、現代社会でも無双できたはずだ。


『鑑定眼』で骨董品や絵画の真贋を見極めたり、

『全言語理解』で世界中を旅したり、

『アイテムボックス』で物流革命を起こしたり

……夢は広がっていたのに、全部「封印」の文字が並んでいる。

唯一使えるのは、謎の変異を遂げた回復魔法だけ。


だが、それよりも……。

ステータスの一番下に、赤く点滅するとんでもない記述があった。


【状態異常:呪い(抑制中)】

『魔王の最終呪詛・王都崩壊(カタストロフィ)』


「呪い!?」


俺は震える指で詳細をタップした。

そこには、俺という人間と、この日本の運命を左右する絶望的なルールが記されていた。


『魔王の最終呪詛・王都崩壊(カタストロフィ)』

説明:魔王ヴォルティナが死の間際、自らの魂と魔力を代償に放った最強の呪い。

本来の目的は、自身の死と同時に、呪いを受けた勇者を王都に転移させ爆発。

憎き「人族の王都」を消滅させ、魔族の脅威となる人間の中枢を道連れにすることであった。


【現在の状況:座標エラー】

対象者(仲出健二)が呪いの発動と同時に「世界転移」を行ったため、呪いのエネルギー核が対象者の体内に残留したまま、別次元(地球・日本)へ持ち越された。


【回避要因:回復魔法(変異)】

説明:女神より授かりし規格外の回復魔法が、宿主の死(爆発)を拒絶。

体内で暴走しようとする呪いの魔力核を、勇者の持つステータスの大部分と全スキルを材料として使い、「殻」となって包み込み、なんとか体内の特定部位に抑え込んでいる状態にある。


破壊のエネルギーを抑え込むには、人体で最も「生命創造のエネルギー」が強い場所である股間(ちん◯)へと、その魔力核は完全に収束・結合していた


限界を超えた場合、当該部位を「信管」として呪いが発動。日本全土(半径2000km)を消滅させる。


「……日本が、俺のせいで吹き飛ぶのか……?」

思わず、自分の股間を見下ろした。

爆発の起点、日本消滅爆弾の「信管」は、俺の◯んこ。


待て、待て待て! 嘘だろ!? 俺、まだ一回も使ってないんだぞ!

本来の目的で一度も役に立ってないのに、日本を滅ぼす爆弾としてデビューするのかよ!? 最悪の初体験じゃねえか!!


あの魔王、最後にとんでもない置き土産を残して逝きやがったのか。


彼女なりの、同胞を守るための最後の一撃。本来なら、あの腐った王様がいる国が吹き飛ぶはずだった。


それが、俺の元の世界に転移するというイレギュラーのせいで、俺の故郷である日本が消し飛ぶことになっちまったのか。


【爆発までのカウントダウン】

残り時間:11時間48分15秒

14秒……13秒……12秒……


数字が、無慈悲に刻まれている。

0時。日付が変わるその瞬間が、日本の最期だ。


「冗談じゃねえ……!」


俺は何とかならないのかと、必死にウィンドウをスクロールし、スキル欄の【回復魔法(変異)】に付いていた、注釈をタップした。


【変異効果:呪い抑圧のため、回復効果低下中。代わりに呪いの特殊排出機能獲得】

タップすると、さらに詳細が表示された。


この呪いは「命を紡ぐプロセス」を通す事で、擬似的に排出(パージ)できる。パージに成功した場合、カウントダウンは停止し、0時になるまでは活動休止状態になる。

女性の膣内と子宮は、生命を受け入れる唯一の「聖域」である。


• 生中出し(効率100%)

宿主の魔力と混ざった呪いは、熱く湿った粘膜に直接注ぎ込まれた瞬間、受精のプロセスを辿るように吸収され、無害な「恩恵(回復魔力)」へと変換される。女性の蜜、締め上げる肉壁、脈打つ子宮口――そのすべてが呪いを擬似的に移行させる鍵となる。


• フェラ・アナル等(効率5〜10%)

粘膜吸収はあるが「命を育む場所」ではないため、エネルギーが逆流し、呪いは殆ど排出されない。


• 自家発電・オナニー(効率0%)

呪いは「他者への継承」を前提としている。一人で出した精は生命を繋がないため、エネルギーは体内を循環するだけでパージされない。


• 男性への移行(不可)

男性には「受け入れる器(子宮)」が存在しないため、魔力が共鳴せず、移行は行われない。


さらに読み進めると、追記事項がズラリ。

・現在の精液には繁殖能力はない。

・コンドーム使用時は効率0%(直接接触が必要)

・一度呪い排出の器として使われると、同一人物は72時間「魔力飽和状態」となり再利用不可

・排出不足の場合、カウントダウンは止まらない

・無事、呪いのパージに成功しても、あくまで擬似的なパージに過ぎない。

次の日の0時になると、また呪いは活動を開始し、カウントが始まる。

・現在呪いの無効化を鋭意継続中。

約20年後に、呪いを完全無効化出来る予定。



俺は、文字通り、絶望した。


「……マジかよ」


俺は27歳(精神年齢37歳)の童貞だ。金は多少あっても、コネも女っ気もゼロ。

なのに、あと12時間以内に、見知らぬ女性と生で致さないと、俺のちん◯を起爆剤にして日本が滅ぶ。

しかも、これが毎日。20年間も!


同一人物は72時間使えないから、最低でも4人のパートナーが必要になる計算だ。


「死ねるかよ……こんなところで」


さっき、誓ったばかりじゃないか。

両親に会いたい。親友と飯を食いたい。キャンプがしたい。バイクに乗りたい。

やっと地獄から帰ってきたんだ。

魔王の覚悟は立派だったかもしれんが、俺の人生まで道連れにされてたまるか。

日本を救うため? いや、俺が生き残るためだ。


「最後に特大の迷惑かけやがって……! あの巨乳美女が!」


俺が今いる場所は西新宿。

スマホを取り出し、震える手で「歌舞伎町」と入力する。

東洋一の歓楽街。眠らない街。

そこなら、日本の危機を、いや俺の◯んこを救ってくれる場所があるはずだ。


俺は検索窓に、さらにキーワードを打ち込んだ。


『歌舞伎町 ソープ 生本番可能 高評価』


検索結果から、一際口コミ評価が高い高級店『ル・シエル』のサイトを開いた。

在籍女の子一覧が表示される。


「元モデル」「現役女子大生」「ハーフ美女」……。

どれもハイレベルだ。さすが歌舞伎町の高級店、全員がSランク級の美女ばかり。

だが、俺の目はある一人のサムネイルで釘付けになった。


源氏名:ひめか

クラス:ロイヤルVIP(No.1)

年齢:20歳


写真は、顔がはっきりとは分からない。

片方の手のひらをカメラに向けて、顔の半分以上を隠すようなポーズを取っているからだ。

恥ずかしがっているようにも、何かを拒絶しているようにも見えるミステリアスな一枚。

他の女の子たちが笑顔でアピールしている中で、彼女だけが異質なオーラを放っている。

だが、その隙間から覗く大きな瞳の輝き。

栗色の手入れの行き届いたセミロングヘア。

そして何より、タイトなドレスでは隠しきれない、Fカップの豊満な胸とくびれた腰、スラリと伸びた脚。


口コミ欄は、

「まさにお姫様」

「写真以上の破壊力」

「テクニックも完璧」

と、絶賛の嵐だ。


魔王ヴォルティナを見た時と同じような、本能的な衝撃が走った。

プロフィールの欄を見る。


『一生懸命尽くします』


シンプルすぎる一言。だが、そこに媚びない誠実さと、隠しきれない極上の素材感を感じた。


「……この子だ」


直感だ。異世界で何度も俺の命を救ってきた、あの直感が告げている。

俺の初めてを捧げる相手は、そして日本を救うパートナーは、この子しかいない。


「決めた!」


俺はスマホを握りしめ、カウントダウンが進む画面を一度だけ睨みつけると、歌舞伎町の方角へと力強く歩き出した。

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