第15話:懺悔の筋肉と、爽やかなる女神
(――ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!!)
「入会金無料」――その魔の言葉は、文字通りジム『LUMINA』をパンクさせた。
受付には新規入会者の列ができ、カフェスペースはかつてない混雑。かおりは休む間もなく、笑顔でラテを淹れ、入会手続きを捌き続けている。
その光景を、スタッフルームの隅で頭を抱えて見つめる男がいた。
(翔の脳内・地獄の自責パルクール:……ぐ、あ、あああァァァッ!!!!!
俺の、俺のバカァァァァァァァッ!!!!!
かおりの拍手に舞い上がって、とんでもない過負荷(オーバーロード)を強いてしまったッ!! かおりのあの細い指先が、ペンとコーヒーサーバーの往復で疲れ切っている……ッ!! 代わってやりたいッ! だが俺が受付に座れば、威圧感で入会者がパルクールで逃げ出してしまうッ!!)
「おおおぉぉぉッ!! 許してくれかおりィィィッ!! この鈍間な筋肉めッ! かおりを助けられないなら、お前らなんてただの重りだッ!!」
翔はスタッフルームで、超高速の指立て伏せを開始した。
「すまないッ!」「かおりィィッ!」と叫ぶたびに、床が悲鳴を上げ、筋肉がはち切れんばかりにビルドアップされていく。
そこへ、冷たい飲み物を持ったかおりがやってきた。
「翔さん、お疲れ様。はい、これ飲んで?」
「……ッ!! す、すまない、かおりィィィ!! 俺の浅はかな暴走のせいで、お前にこんな重労働を……ッ! 今すぐ無料キャンペーンを取り消して、全員から倍の入会金を取ってくるッ!!」
泣きながら縋り付こうとする翔を、かおりは爽やかな笑顔で制した。
彼女は、額に光る汗を自身の腕でスッと拭い、眩しいほどの微笑みを浮かべる。
「ううん、大丈夫だよ。賑やかで楽しいじゃん! 翔さんの凄さをみんなが知ってくれるのが、私は一番嬉しいんだよ?」
(――ッドォォォォォォォォォォォンッ!!!!!)
(翔の脳内・多幸感のビッグバン:……か、かおりィィィィィィッ!! なんという徳の高さッ!! 天使かッ!? 仏かッ!? 忙しさを『楽しい』と言い切るその心のビルドアップ、俺の広背筋でも敵わないッ!! 好きだッ! 宇宙で一番好きだァァァッ!!!)
翔は再び、歓喜の涙を流しながら、今度は「感謝のスクワット」を開始した。
佐々木さん:「……見てよ田中さん。あの人、反省してるのか喜んでるのか判別不能だよ」
田中さん:「はっはっは。かおりさんの汗一拭きで、罪悪感がすべて愛のエネルギーに変換されましたな。エコな男です」
(リトル翔の実況:ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!! 見たかッ! 自分の過ちを筋肉への虐待(トレーニング)で清算しようとする王者の狂気をォォォッ!! だが、かおりちゃんの『楽しいじゃん』の一言で、地獄は一瞬にしてエデンへと着地したぜェェェッ!!! 翔さん、アンタの筋肉、もうかおりちゃんのためだけに動く精密機械になっちまってるぞォォォッ!!!))
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます