第13話:過保護王者の空振りと、女神の華麗なる着地

(――ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!!)


「皆さん、パルクールの基本は脱力です。こうして、体全体で衝撃を逃がして……」


ジム『LUMINA』で開催された、雑誌発売記念の特別体験会。そこには、翔のデレ顔と、かおりの美貌を一目見ようと集まった新規会員たちで溢れかえっていた。


かおりは、翔と並んで講師として立っている。彼女は翔のスパルタ(という名の愛の指導)を乗り越えてきた、プロ級の実力者だ。


(翔の脳内・過保護エンジン全開:……ぐ、あ、あああァァァッ!!!!!

か、かおりィィィィィィィィィィィィッ!!!!!

お前のムーブは世界一美しいッ!! だが、今日は人が多いッ! もし誰かと接触して、その真珠のような肌に傷がついたらどうするッ!! 俺が、俺が常に半径1メートル以内で『肉の壁』となって並走してやるからなッ!!)


かおりが、見本として高い壁からの「着地(ランディング)」を披露しようとしたその時。


「危ないッ、かおりィィ!!」と、翔が不必要なほどの勢いで、マットの端にスライディングで滑り込む。


だが、かおりは翔の心配を余所に、鳥のような軽やかさで宙を舞った。

一切の無駄がない回転から、指先まで神経の通った静かな着地。翔の助けなど、1ミリも必要としていなかった。


「……さすが翔さんの奥さん、カッコいい!」

「動きがしなやかすぎて、見惚れちゃう……」


どよめく新規会員たち。そんな彼女たちの視線の先には、着地したかおりの姿と――。


そして、その横で「……完璧だ、かおり」と呟きながら、魂が抜けたような、それでいて愛おしさが爆発して蕩けきった顔をしている翔の姿があった。


その「王者の威厳」の欠片もない、だらしなく緩みきったデレ顔。


新規会員一同:「「「「「……ホントに、雑誌で見たまんまだァァァァッ!!!」」」」」


(翔の脳内・幸せの完敗:……な、なにを……。俺は今、世界王者として、ハイレベルな技術を完遂した門下生を、厳格な眼差しで評価して……評価……。

……あああ、可愛いッ!! かおりィィィ!! 今の着地、1億点だァァァッ!!!)


もはや隠す気もない。


雑誌に載っていた「飼い主を見つめる大型犬」そのものの表情に、会員たちのスマホのシャッター音が鳴り響く。


佐々木さん:「……威厳を守るための過保護が、デレを晒す結果になるとは」

田中さん:「はっはっは。想定内の着地ですな」


(リトル翔の実況:ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!! 見たかッ! 自分の過保護が虚しく空を切る一方で、かおりちゃんの華麗なムーブにIQがゼロまでビルドダウンする世界王者の姿をォォォッ!! 雑誌の写真は『氷山の一角』に過ぎなかったッ!! 本物の加藤翔は、この100倍はチョロいんだぜェェェッ!!!))

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