第10話:理性のパルクール・デスマッチと、女神の触れる魔法

(――ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!!)


「はい、加藤さん、かおりさん、もっともっと密着してください! 顔と顔がくっつくくらいでお願いします!」


撮影スタジオに、カメラマンの指示が響き渡る。


今日は、翔とかおりの夫婦ペアモデル撮影本番だ。雑誌のコンセプトは「日常に溶け込むアスリート夫婦の絆」。


最初の撮影は、寄り添って微笑む二人のショット。


かおりは自然な笑顔で、翔の腕にそっと体を寄せている。


だが、問題は翔だ。


(翔の脳内・地獄絵図:……ぐ、あ、あああァァァッ!!!!!

か、かおりィィィィィィィィィィィィッ!!!!!

や、やめろカメラマンッ!! これ以上近づくなど言語道断ッ!! 今の距離ですら、かおりの甘い匂いと、吸い込まれそうな瞳に、俺の理性の残りがパルクールで絶壁を駆け上がろうとしているんだぞッ!!

だがッ!! 近づいて欲しいッ!! もっとだッ!! ゼロ距離で、この肉体に、かおりの全てを刻み込みたいィィィッ!!

あ、あああァァァッ!! 理性がーッ!! 理性がドロップキックで吹っ飛ぶ寸前だァァァッ!! 誰か、誰か俺の理性の首根っこ掴んで引き戻してくれェェェッ!!!)


翔は、喜びと苦悶の狭間で顔を歪ませていた。


顔は赤くなり、全身の筋肉が小刻みに震えている。


その様子を見たかおりが、心配そうに翔の顔を覗き込んだ。


「翔さん、大丈夫? なんか苦しそうだよ?」


かおりが、そっと翔の頬に手をやった瞬間。


(――ドォォォォォォォォォォォンッ!!!!!)


翔の全身を走る電流。

かおりの柔らかい手のひらが触れた途端、彼の脳内で繰り広げられていた「理性と本能のパルクール・デスマッチ」は、一瞬にして終了した。


苦悶で歪んでいた翔の顔は、蕩けるような、この世の全てを肯定するような、これ以上ないほど幸福なデレ顔に変わった。


目はトロリと半開きになり、口元は完全に緩みきっている。


カメラマン:「……ッッッ!!!!!! それだァァァァァッ!!!!!!」


シャッター音が、激しくスタジオに響き渡る。


翔は、かおりの手が触れる頬をさらに押し付け、まるで母猫に甘える子猫のように、完全に骨抜きになっていた。


(翔の脳内・大平原:……はあ……はあ……。かおり……。もう、何も言うな……。このままずっと、俺の頬を触っていてくれ……。お前の手のひら一つで、俺の人生は無限のデレで満たされるんだァァァッ……)


世界最強のパルクール王者は、妻の頬に触れる手一つで、理性を手放した至福の大型犬へと変貌したのだった。


(リトル翔の実況:ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!! 見たかッ! 理性の限界値でパルクール・デスマッチを繰り広げていた世界王者を、かおりちゃんの指先が『はい、終了〜!』と一瞬でノックアウトするこの神業をォォォッ!! 理性がぶっ飛んだ後のデレ顔、まさに国宝級だぜェェェッ!!! 翔さん、もう一生その頬、かおりちゃんに触られ続けちまえェェェッ!!!))

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