第5話:王者の密着取材と、制御不能の大型犬

(――ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!!)


「パルクールとは、単なる移動術ではない。己の恐怖と向き合い、環境を再構築する……いわば、肉体による哲学だ」


ジム『LUMINA』。今日は大手メディアによる、世界王者・加藤翔の密着取材日だ。カメラの前で、翔は鋭い眼光を放ち、理知的に自らの信念を語っている。


(翔の脳内・プロ意識:……フッ、完璧だ。これぞ世界を制した男のポートレート。全読者に、このストイックなカリスマ性を刻み込んでやる……ッ!!)


だが、その「王者の仮面」に亀裂が入る。カフェカウンターで、取材陣のためにコーヒーを淹れているかおりと、不意に目が合ったのだ。


「(……あ、翔さん、がんばって!)」


かおりが声を出さずに口パクで伝え、小さくガッツポーズをして微笑む。


(翔の脳内・理性が音速で崩壊:……ぐ、あ、あああァァァッ!!!!!

か、かおりィィィィィィィィィィィィッ!!!!!

見たかッ!? 今の応援ッ!! 天使かッ! 今すぐインタビューを中断して、その笑顔をこの胸板にプレスしたい衝動を、俺がどれだけの精神力で封印しているか分かっているのかァァァッ!!!)


「はい、一旦休憩(カット)です!」

ディレクターの声が響いた、コンマ一秒後。

ドォォォォォォッ!! と、凄まじい風を巻き起こして、翔がかおりのもとへ「すっ飛んで」いった。


「かおりィィィ! 今の見ていたか!? お前の応援のおかげで、今の俺は世界一のパフォーマンスができる気がするッ!!」


大型犬が尻尾をちぎれんばかりに振る勢いで、かおりに詰め寄る翔。

唖然として固まる取材陣に、ジム常連の佐々木さんと、最古参の田中さんが、悟りきった顔で囁く。

「……あの、加藤さんって、あんなキャラでしたっけ……?」

「……ああ、いつものことですよ、記者さん。驚くのは最初だけです」と佐々木さん。

「あれは『かおりさん、俺の哲学カッコいいだろ?』っていう求愛行動の延長ですから。はっはっは、今日もいい『尻尾の振り』ですなぁ」と田中さん。

他の会員一同:「「「(((いつものことです)))」」」


(リトル翔の実況:ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!! 見たかッ! これが世界王者・加藤翔の『オンとオフ』の激しすぎる高低差だぁぁ!! カメラの前で哲学を語っていた男が、休憩(カット)の瞬間にかおりちゃん目指して音速でパルクールするその姿……まさに愛の暴走特急ッ!! 尻尾だ! 俺には見えるぞ、翔さんの尻尾がちぎれんばかりに振られているのがァァァッ!!!))

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る