第2話:女神のしなやかな舞いと、王者の過保護すぎる補助
(――ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!!)
「……よし、今日の合同練習はここまでだ。各自、クールダウンを忘れるな。筋肉の悲鳴を無視する奴に、次の壁は超えられん」
翔がタオルで汗を拭いながら、鋭い声で練習を締めくくる。
地獄のメニューを終えた会員たちが「お疲れ様でした……!」と地面に崩れ落ちる中、ジムの端で静かにストレッチを終えた『女神』が、軽やかな足取りで翔のもとへ歩み寄った。
「翔さん! 私も、昨日教えてもらった『プレシジョン』、ちょっとやってみていい?」
かおりが、カフェのエプロンを脱ぎ捨てたトレーニングウェア姿で微笑む。
タイトなウェアが描き出すしなやかな身体のライン。少し上気した頬。
(翔の脳内・心拍数上昇:……っ!! ま、待て! そのウェアは反則だッ! 動きやすさを追求した結果なのは分かるが、ラインが綺麗に出すぎていて目に毒だッ! 会員ども、見るな! 今すぐ目を閉じて後転(バックロール)で壁の向こうへ消えろォォォ!!!)
「……ふむ。いいだろう。だが、怪我をされては困る。俺が完璧にスポット(補助)に入るからな」
翔は氷のような無表情を装いながらも、その足取りはすでに獲物を狙うライオンのごとき速さでかおりの隣を確保していた。
かおりが高さ一メートルほどの障害物の前に立つ。深呼吸一つ。
「いくよ! せーのっ!」
かおりが軽やかに跳んだ。
翔の指導通り、無駄のない踏み切り。宙に舞う彼女のさらさらな髪が、ジムの照明を反射してキラキラと輝く。まるで、鉄とコンクリートの殺風景な空間に、一羽の蝶が舞い降りたかのようだった。
会員A:「(……うわ、綺麗だな。かおりさん、やっぱりセンス抜群だわ)」
会員B:「(見てみろよ、翔さんの手。かおりさんが着地する前から、もう空中で抱きとめる準備満タンだぞ。過保護の次元を超えてる)」
パッ、と吸い付くような音を立てて、かおりがターゲットの縁に完璧なバランスで着地する。
「……できた! 翔さん、今のどうだった?」
バランスを保つため、かおりが無邪気に翔の肩に手を置いた。
そして、至近距離から屈託のない笑顔で彼を見上げる。
(翔の脳内・理性が音速で粉砕:……ぐ、あ、あああァァァッ!!!!!
か、かおりィィィィィィィィィィィィッ!!!!!
お前、その顔は、その瞳は反則だッ!! 俺を信じきっているその輝きッ!!
王者の心臓(エンジン)がオーバーヒートで爆発四散するだろうがッ!! 今すぐこの場で抱きしめて、そのまま自宅までノンストップ・パルクールで連れ去りたい衝動を、俺がどれだけの精神力で抑え込んでいるか分かっているのかァァァッ!!!)
「……あ、ああ。着地自体は悪くない。だが、まだ重心がコンマ数ミリ後ろに寄っていたな。……もう一度だ。次は俺が腰を支えて、正しい感覚を身体に叩き込んでやる」
「えへへ、ありがとう! 翔さん、本当に教えるの上手だね」
会員C:「(……おいおい、今さら腰を支える必要あるか? 完璧に着地してたぞ)」
会員A:「(黙ってろ……あれは『指導』っていう名の『役得パルクール』なんだ。俺たちが口を挟んだら、明日から俺たちの練習メニューが三倍になるぞ)」
翔は、かおりの腰にそっと(だが絶対に離さないという意志を込めて)手を添えながら、心の中で狂喜の咆哮を上げていた。
(翔の脳内・限界突破:……クッ、かおり! お前がそんなに素直に喜ぶから、俺の魂が君を離したくないと叫んでいるッ!!
愛の着地点は、やはり君の腕の中……いや、今はこの俺の腕の中だぁぁぁッ!!!)
リトル翔:……ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!! 第2話、空中分解することなく無事ランディング完了ォォォ!! 見たかッ! 翔さんのあの『指導を装ったデレ』を!!
腰を支えるフリして、自分の鼻の下が伸びてるのを必死に隠す王者の姿……もはやパルクールというより新種のダンスだぜぇぇ!! かおりちゃんの『がんばっちゃうよ?』攻撃に、翔さんのHP(ヒットポイント)はもうマイナス100万だッ!! 会員たちが帰りたがってることに早く気づけェェ!!
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