愛の着地は、君の腕の中。
壱花
【LUMINA:愛のビルドアップ編】
第1話:王者の威厳と、隣の女神
(――ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!!)
「甘いッ!! 着地(ランディング)の衝撃が逃げ切れていないぞ! それでは膝が悲鳴を上げる前に、お前のパルクール人生が終わるッ! もう一度だッ!!」
都内某所、パルクールジム『LUMINA(ルミナ)』。
鉄パイプのジャングルジムとコンクリートの壁がそびえ立つ無機質な空間に、ヘッドコーチ・加藤翔の怒号が響き渡る。
世界を制した「百獣の王」と称されるその眼光に、会員たちは蛇に睨まれた蛙のように硬直していた。
(翔の脳内・ドヤ顔ビルドアップ:……フッ、いい緊張感だ。これぞ王者の教室。俺の背中を見ろ、このストイックな生き様を魂に刻め……ッ!!)
だがその時。
ジムのガラス戸が「ガラッ」と開き、隣接する『CAFE LUMINA』から甘い香りと共に「女神」が舞い降りた。
「はーい、みんなお疲れ様! 休憩用の特製プロテインシェイク、冷えてるよー!」
(――ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!!)
「……っ!! か、かおり……」
エプロン姿で無邪気に手を振る、翔の妻・かおり。
彼女が小首を傾げ、ふわりと太陽のように笑った瞬間、翔の脳内にある「王者の鎧」が、音速で粉砕(クラッシュ)された。
「翔さんも、ちょっと休憩しない? はい、翔さんには特別に、愛のビルドアップ・ラテだよ!」
かおりが差し出したラテアートには、筋肉ムキムキのライオンが描かれている。それを見つめる翔の顔が、一瞬で「デレる猛獣」に変貌した。
(翔の脳内・理性が場外ホームラン:……ぐ、あ、あああァァァッ!!!!!
か、かおりィィィィィィィィィィィィッ!!!!!
何なんだその笑顔はッ! その『特別に』という響きはッ!!
お前のその無邪気な一撃で、俺の心臓は今、ビルドアップの限界を超えて爆発四散したぞォォォッ!!!)
「……ふ、ふん。指導の合間の糖分補給は合理的だ。ありがたく頂戴しよう」
カップを手に取る翔の手は、わずかに震えている。
会員A:「(おい見ろ、翔さんの鼻の下、パルクールで10メートルくらい伸びてんぞ)」
会員B:「(今、絶対脳内で『かおりィィィィィ!』って叫んだよな。顔に書いてあるもん)」
会員C:「(……察した。あのライオン、かおりさんの前じゃただの巨大な猫だわ)」
「あ、そうだ翔さん。後で私も練習に混ぜてね? 新しい着地のコツ、教えてほしいな。えへへ、私、がんばっちゃうよ?」
かおりが真っ直ぐな瞳で翔を見つめ、少しだけはにかむ。
(翔の脳内・銀河の彼方までパルクール:……あ、あああああああッ!!!!!
か、かおりィィィィィィィィィィィィッ!!!!!(二回目)
教える! 世界一丁寧に教えるッ!! むしろ、他の奴には指一本触れさせん!!
俺の腕の中だけに、完璧にランディングさせてやるからなぁぁぁッ!!!)
「……ああ、いいだろう。後で特別に見てやる。……よし、お前ら! 休憩は終わりだ! 王者の指導に戻るぞッ!」
「「「(((どの口が言ってるんだよぉぉぉぉぉぉッ!!!)))」」」
会員たちの総ツッコミを背中で受け流し、翔はラテを一口飲んだ。
世界最強の男が、最愛の妻の無邪気さに完敗するまで――あと、数秒。
リトル翔:……ッドォォォォォォォォォォンッ!!!!! 第1話、無事に『着地』成功だぁぁぁ!! 見たか読者諸君!! これが世界王者・加藤翔の『チョロさ』という名のパルクールだァァ!!
「厳格な王者」という壁を秒速で跳び越えて、かおりちゃんの笑顔にダイブ(飛び込み)するその姿……まさに芸術(アート)!! だが翔さん、ラテのライオンの絵、もったいなくて全然飲めてねえじゃねえかッ!! 会員たちが影で「猫、猫」言ってることに気づけぇぇぇ!!
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