第6話

「ティアラ・カーライルが、今日は来ていないだと?」


翌朝、学園にティアラが姿を見せないという報告が届くや否や、クラスメイトたちの間に動揺が走った。


噂が一人歩きする中で、当事者であるティアラが突如いなくなる――それは火に油を注ぐような事態だ。


「何でも、家の方にもいないらしく……。お母上に手紙が届いたっきり、どこに行ったか分からないんだって」


そう話している生徒の声が廊下から聞こえてくる。

マリアはその言葉を耳にして、思わず胸を押さえた。


「ティアラ様、どうして……」


思い当たるのは、あの噂のせいしかない。

“マリアを貶めようとしている”という事実無根の悪評。

ティアラ本人は何もしていないのに、なぜか周囲は面白がるようにそのデマを広めていた。


「マリア、立っていられるか?」


心配そうに声をかけてきたのは王子エドワードだった。

昨日の学園長室での話し合いの後も、何か腑に落ちない表情をしていたが、まさかティアラが突然姿を消すとは思っていなかったらしい。


「殿下、ティアラ様……どこに行ってしまったのでしょうか。私、ティアラ様が本当に嫌な人だとは思えないんです」


マリアの言葉に、王子は深くうなずいた。


「俺もそう思う。悪役令嬢だの、マリアを陥れようとしているだの、信じられない噂ばかりだ」


教官アルフレッドがそこに合流し、厳しい顔つきで報告をする。


「学園長からも正式に捜索許可が出ました。衛兵隊とも連携し、ティアラ様の行方を探します。とはいえ、公爵家からあまり大事にするなという要請があり、表立った動きは難しい状況です」


王子は苦々しく唇を噛む。


「公爵家としては、余計な騒ぎを避けたいということか。だが、このまま放っておくわけにはいかない」


一方で、廊下の隅では取り巻きの貴族令嬢たちが何やらひそひそと話している。


「……まさか、本当にいなくなるなんて。どうするのよ、これじゃ私たちの計画が……」 


「落ち着いて。あの方がいなくなったら、噂も自然に鎮まるでしょ」


そんな囁きが耳に届き、マリアはぞっとした。


もしかして、ティアラが受けた疑惑には、この取り巻きたちの陰謀があったのか――?


「わたくしは、ティアラ様が本当にマリアを陥れるような方だとは思いません」


そう言ってくれる生徒の声もあるものの、多くはただ面白おかしく騒いでいるだけだ。


「マリア」


王子が小さく呼びかける。

その瞳には微かな決意の光が宿っていた。


「ティアラを探し出して、本当のことを聞きたい。俺は彼女のことを何も知らなかったのかもしれない。お前も手伝ってくれないか?」


マリアは少しだけ驚いた様子を見せたが、すぐに深くうなずく。


「はい。私にできることがあれば、何でもいたします」


こうして、学園は妙な緊張感に包まれたまま、ティアラ捜索に向けて動き出す。


取り巻きたちの思惑、学園長の静観、そして王子とマリアの焦燥――


いなくなったティアラが、これほどまでに大きな存在だと気づくのは、彼女が消えて初めてのことだった。

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