第3話 提案コーギー

 

「寿命……?」

 言葉の意味を頭の中で確認するための時間を空ける。

「私の寿命って、あと数秒だよね?」


「だから良いんだワンッ!」

 おまわり悪魔犬は、手を叩くように前足をぷにっと合わせた。


「残りたった数秒で終わる寿命をオイラにくれるだけで、嫌なヤツに復讐して道連れにできるんだワン! お安い話だワン!」


 なるほどな、と思った。

「でもたった数秒の寿命なんかで、悪魔さんにメリットはあるの?」


「ビッグアントだワン! 大アリだワン!」

 おまわり悪魔犬の説明に熱がこもる。


「たった数秒の寿命でも、件数としては一件だわん。オイラの実績になるわん。悪魔の世界にも厳しいノルマがあるんだわん。それにもし、貴様がこのまま落下した後も生きる運命だったとしたら、回収できる寿命は何年分にもなるわん。うまくいけばボロ儲けだわわわわーん」


 なるほど、クロちゃんだ。腹黒ちゃんだ。

「確かにそうね、飛び降りを失敗する可能性までは考えてなかったわ」


「だわん? だからむしろ、運悪く生き永らえるリスクごとオイラが寿命として買い取ってあげるという提案だわん。復讐もできて、ちゃんと死ねて、しかも地面に叩きつけられないから痛くもなくて、良いことづくめだわん。さ、オイラと契約するわんっ」


 なかなか良くできた条件だ。自暴自棄だったなら了承しそうな話だと思う。手法は確認できたし、そろそろいいか。


「お断りよ」


「なんでだワン!? ワンダーわん」

 短い前足でバンザイをして驚く悪魔犬を尻目に、私は逆さまの姿勢から空中でゆっくりと反転し、犬のおまわりさんと正対する。


「なんで……動けるんだワンっ!?」


「それはね、私が人間じゃないからよ」


 質問に答えるのと同時に、背中の黒い翼を解放する。灰色の世界に、闇を吸収したように広がる漆黒の羽。

 目の前の光景に動揺しているおまわり悪魔犬に伝えた。


「最近ね、どうにも営業成績が良すぎる悪魔がいるって報告があってね、現場を押さえたくて囮捜査をしていたの。あなた、知ってるわよね? 死を目前にした人間と寿命を取引するのは禁止のはずよ」


「まさか貴様、いやあなたは……デカ悪魔わん?」


「正解。だけどその肩書きは好きじゃないの」


 警察と書いてデカと読む、悪魔を取り締まる悪魔──通称デカ悪魔。誰だよこんなダサい名前つけたの。

 私は強い、けれど見た目は小柄でかわいい悪魔なのだ。デカ女と呼ばれているみたいで嫌だ。


 急に殺気を出した私に、おまわり悪魔犬は一瞬にして青ざめたように見えた。

 悪魔版の警察に目をつけられた後にどうなるのか、聞いたことくらいはあるのだろう。

 口を開けたので弁明でも始めるのかと思いきや──


「う〜、わんわんっ」


「えっ、何?」

 

 

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