フローラと悪魔-2

フローラと悪魔-2




「ザルツ様。フローラが最近、城下の研究所に来ていないようですが、屋敷で何かあったのでしょうか?」

レムルが、研究室に向かうザルツにフローラについて尋ねた。魔力変化のパターンには、いつもはある嫌悪よりも、心配の総量が凌駕している。ザルツがそれを確認しながら、答える。

「屋敷に閉じこもって、何かをしているようです。私も、暫くは屋敷に来るなと、言われています」

剣の研究については、フローラとザルツしか知らない秘密だ。レムルにも伝えていない。レムルが疑問を口にする。

「現状の精霊魔術の完成度を見るに、屋敷で集中しなければ出来ない研究があるように思えないのですが・・・」

レムルはかつてフローラと一緒に過ごし、長らく助手をしていた。ザルツは、変な誤魔化しは通じないと理解する。

「何か新しい研究テーマでも見つけたのかもしれません」

ザルツが言った内容自体は本当である。レムルが、ザルツを怪しみながら、追及する。

「ザルツ様は、本当に、ご存じないのでしょうか?フローラが、何をしているのかを・・・」

レムルの魔力変化のパターンの、疑惑の総量が増えている。ザルツが答える。

「来るな、と言われてから、一度も屋敷には行っていません。それからフローラが何をしているのかは、知りません」

これも本当である。恐らく門の研究に関わる内容のはずだが、屋敷にこもって何をしているのかは、ザルツも知らない。

レムルは、ザルツの表情を見極めようと、その顔を見つめ続けている。レムルの魔力変化のパターンが、心配と疑惑から、危機感に、急速に変わりつつある。

ザルツの表情は変わらない。ただ、このままではレムルがフローラに会うために、屋敷に押しかけかねない。そうなると、剣の研究がバレてしまう。彼女の魔力変化のパターンを見るに、それをやりかねないと、ザルツは判断した。ザルツが言う。

「分かりました。近いうちに、屋敷に様子を見に行ってきます」




フローラが緊張した目で、術の準備をしている。失敗は許されない。このために、今まで準備してきたのだから・・・

フローラが剣をかざして、その術式を起動する。フローラの頭が異世界の通信網に繋がった。その通信網に居るのは、誰もが災害のような力を持ち、詐欺師のように相手を値踏みする、圧倒的な強者たち。その中の窓の一つに、雪の女王の顔がチラついた。女王の顔には、残念そうな表情が浮かんでいた。

フローラの目的は決まっている。


悪魔


フローラは、悪魔と対峙する。悪魔はフローラに語りかける。

「私を選んだか。一体何を望むのだ?」

フローラは、緊張している。機会は一度っきり。フローラが氷河の上の、薄氷の氷を渡り始める。

彼女は、雪山の登山に挑む登山家が準備するように、契約において何を言うべきかは、予め用意してあった。


フローラは、用意していた契約文を語り始めた。まるで呪文の詠唱のごとき、膨大な契約文。一人で築き上げた、この膨大な契約文は、フローラの優秀さを表している。

膨大な契約の内容をまとめると、こういう事であった。


「召喚門の、術式を、教えろ」


フローラは、一度しか出来ない契約で、術式を完成させるのは無理だと判断した。それで、不本意ではあるが、契約で目的そのものを達成できるようにすることにした。たとえ契約が成立しなくても、術式に関しての何かしらの手がかりが手に入るかもしれないし、成立したら、それで術式が完成する。


悪魔は、召喚門の術式を与えることが可能だった。なので対価の話をし始める。フローラは、対価は支払えると考えていた。彼女は、ミオリアの魂を喰って、不死となっている。多少の魂の割譲は許容出来ると。

しかし、悪魔が要求した対価は、魂では無かった。それは、フローラにとって想定外のものであった。

彼女は悩んだ、長い時間、その赤髪を掻きむしりながら、無言で悩んだ・・・


そして、彼女は、その対価を支払うことを決めた。決めてしまった。


遠くからそれを見ていた雪の女王が、一人で呟く。

「馬鹿な女・・・」




ザルツがフローラの屋敷に、黒鉄のドラゴンを駆ってやって来た。部屋に向かうと、途中でフローラと出くわした。フローラが言う。

「来るなと言ったはずだ。なんで来た?」

ザルツが説明をする。

「レムル様に、あなたの動向を聞かれたからです。このままでは、この屋敷にくる気配がしたので、替わりに私が確認をする、と言う約束をしました。ですが、問題なさそうですので、もう帰ります」

それを聞いたフローラが、不思議そうに尋ねる。

「・・・レムル?誰のことだ?」

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