雪の女王とフローラ-3

雪の女王とフローラ-3




フローラは、雪の女王以外の者にも通信を試みた。大空の覇者、密林の老賢、炎帝、雷獣王、帳の支配者、魔人、千手騎士、大海原の蛇など、災害のごとき力を持つ、様々な強者がそこには居た。しかし、結果は芳しくない。皆、契約に関係ないお喋りになど、付き合うつもりなどないからだ。最近では、通信を試みようとすると、話す間もなく通信を遮断されることが多くなった。

フローラは、何とか話せる相手を探そうと、強者との通信を試みる。そして見つけた。


悪魔


「私を選んだか。一体何を望むのだ?」


悪魔が、まるで定型文を暗唱するように、フローラに尋ねる。フローラは、背筋に汗をかきながら、答える。

「別に願い事とかはないんだけど、少しだけ、話せないかな?」

悪魔が答える。

「それが、お前の願いか?」

フローラは、何も答えない。何かを答えたら、その瞬間から、薄氷を歩かなければいけない、何かが始まると直感した。フローラは、ぞっとした。そして、一方的に通信を遮断した。剣を落として、通信網から自分を完全に切り離した。

(アレは、不味い・・・)


「アレと喋ったの?やめとけ、って言ったのに・・・」

雪の女王が、呆れたようにフローラに言った。結局、お喋りに付き合ってくれるのは、彼女だけだった。フローラは、悪魔との会話を思い出しながら言う。

「何というか、言うべき言葉を間違えたら、全部持っていかれそうな感覚になった」

女王が言う。

「アレは全部契約の話に持っていくからね。話さないのが正解。話すなら、話すであろう内容を、予め全部パターンを組んで想定しておかないと無理」

フローラは納得した。ルーカスと女王との関係は、例外中の例外なのだ。その感覚で他の強者との接触を試みるのは危ない。女王が警告する。

「ここに居る連中は、全員詐欺師だと思っておいた方がいい。出し抜こうとして失敗した奴らは、今までも沢山いた。私だって、連中を信用していないし、連中だって私を信用していない」

フローラは「分かった」と言って、通信を切断していった。それを見て、女王は思う。

(たぶん・・・やらかすんだろうな、アイツ・・・)




・・・・




フローラとザルツが剣の解析を始めてから、1年ほどが過ぎた。

ザルツの起動条件の解明は意外にも順調に進んだ。当初、ザルツはこの解析には乗り気ではなかった。感情によって起動する機構、なんてものには、使い道がなさそうだったからだ。ただ、解析を進めていくうちに、興味深いことが分かってきた。

この機構もまた、二つの機構で構成されていた。

一つが、持った者の感情によって揺れ動く魔力を検知する機構。もう一つが、検知した後で、魔力を術式に送り込む機構。

前者は検知した魔力のパターンを、既にあるパターンと一致しているかどうかを見る、という仕掛けであることが分かった。あとはそのパターンを、一つずつ解析する根気の作業なので、一旦後回しにしている。

後者が重要だった。この時の魔力は、それを利用する者から直接取っているわけではないようだった。必要な魔力が膨大であるため、それでは使える者が限られてしまう。ザルツは気が付いた。この剣は、魔力を溜め込んでいるということに。


「膨大な魔力を溜め込んで。任意のタイミングで出力する」


これはまさに、ザルツが抱えていた、ゴーレムの駆動時間問題を解決しうる、画期的な機構であった。ザルツは確信する。これによって、彼の魔工術が完成する、と。




・・・・




ザルツが、前述の機構を黒鉄のドラゴンに組み込んでいる。もしもこれが成功すれば、このドラゴンも一気に実用に耐えうる性能となる。更に言えば、もっと巨大なドラゴンを作ることも可能になるかもしれない。この感情の起伏に乏しい男にしては珍しく、予想している結果に興奮していた。

組み込みが終わり、用意していた精霊魔術師に、魔力を充填させる。その間、ザルツは、自分の作った黒鉄のドラゴンを見つめていた。かつて自分の都市を襲った、漆黒の飛竜に模した、そのドラゴンを。

充填の終わったドラゴンにザルツが乗り込み、起動させる。ドラゴンが羽ばたきをはじめ、格納庫から飛び出した。

ザルツが黒鉄のドラゴンを駆り、蒼天を舞う。今までと違い、自分の魔力を使う必要が無い。何にも縛られずに、何もない空中を自在に駆ける、この快感、この解放感。あのザルツが、笑った。普段は動かぬ、その表情筋が稼働した。そして思いだす。かつて自分の都市を襲った漆黒の飛竜を。残酷に、圧倒的な力で理不尽を押し付けて、なお美しく見えた、あのドラゴンを。


あんなドラゴンを作れるかもしれない。いや、あれ以上のドラゴンを作れるかもしれない。


ザルツの心に、何かの火が点った。それはまだ小さい。だが確実に何かが彼の中で鼓動を始めた。

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