雪の女王とフローラ-2

雪の女王とフローラ-2




城門の前では、旅に出るヴォルクスが別れを告げていた。そこにはルーカスだけでなく、レギウスもレムルも居る。レギウスに相談した結果、ルーカスはレムルの元に預けられることになった。優しい彼女は、ルーカスの家族の身に起きたことを聞いて悲しみ、彼の身柄を預かることに喜んで同意した。

ルーカスがヴォルクスに何度も礼を言う。

「本当に、本当にありがとうございました。この恩は、一生忘れません。旅の道中、気を付けてください!」

ヴォルクスが、笑ってルーカスの頭を撫でながら言う。

「そんなにかしこまるな。君も気をつけてな。レギウスとレムルに迷惑を掛けるんじゃないぞ!」

ヴォルクスがレギウスとレムルの方を向いて言う。

「済まないが、ルーカスのことはよろしく頼む」

レギウスが快く答える。

「心配するな。任せておけ!」

レムルも、笑顔で答える。

「ご安心ください、ヴォルクス様。ルーカス君は、大切にお預かりいたします」


4人が別れを告げている時に、大きな黒い影が全員を覆った。見上げると、そこには四枚の翼を持つ、黒鉄のドラゴンが飛んでいる。ザルツだ。ザルツは振り返りもせずに、研究所の近くの格納庫のある広場まで飛んでいた。レギウスが呆れたように言う。

「恩人の見送りにも来ないのか・・・薄情なヤツだな・・・」

ヴォルクスが、笑って言う。

「まあ、彼はそういう奴だ。もしかしたら、そんな奴が、何か大きなことをするのかもしれない」

レムルは、不満そうな顔をして、黒鉄のドラゴンを見送る。レムルにしては珍しく、彼女はどこかザルツが気に喰わない。


ヴォルクスは再び旅立った。彼は、こうして各地を転々として、新しく何かを解決したり、新しく何か問題を抱えたりしながら、終わりのない旅を続けている。彼は、冒険者なのだ。




ザルツが格納庫に黒鉄のドラゴンを入れている。最近ではフローラの屋敷と、城下を往復するのにこのドラゴンを使っている。この程度の距離であれば、移動手段としては実用的な範囲だ。ただ、この航続距離は、ザルツの解決したい最大の問題であった。ザルツが呟いている。

「精霊魔術で魔力を供給出来ればいいのだけど、あれは魔力の供給を土地に根差しているから、移動手段には向かない。何かいい方法はないだろうか・・・」

呟いているザルツに、一人の男が近づいてきた。アドニスだ。アドニスがブツブツ呟いているザルツに声を掛ける。

「やあ、ザルツ君。研究は順調かね?」

ザルツは思考を止めて、アドニスの方を向く。彼はアドニスを疎かにしない。ザルツの研究には、フローラのそれよりも、金と生産力が必要になる。そのためにも、アドニスとの協力関係を維持するためのコストは割く。ザルツが答える。

「ええ、おおむね順調です。魔工術の体系化も進みましたし、私以外の者でもゴーレム開発を進められるでしょう」

ザルツが悩んでいる問題は、言わない。言ったところで意味が無いからだ。そのザルツに、アドニスが言う。

「そうか。それは良かった。防衛はこれでいよいよ強固になり、鉄壁になるだろう。あとは、出来れば、そのゴーレムも遠征に連れていけると、助かるんだがな」

まさにザルツが悩んでいる問題を突いてきた。ザルツは表情を変えずに答える。

「それについて、現在研究中です。いずれ何か成果が出せるかと・・・」

アドニスは、それを聞いて満足そうな顔をすると、黒鉄のドラゴン懐かしそうに見つめてから、その場を去っていった。ザルツは、中断していた思考を再開し始めた。




フローラは、屋敷で相変わらず女王とお喋りをしている。話題が竜王になってきた。

女王が、ルーカスを訪れたヴォルクスを思い出しながら言う。

「へー、あの男が竜王の息子だったんだ。そういえば両親がどうとか言っていたっけ。言われてみれば、顔立ちが似ていたかもしれない」

フローラが、気になったので聞く。

「竜王って、どんなヤツだったの?話にはすごく出てくるんだけど、会ったことが無いから全然分からない」

女王が思い出しながら言う。

「アイツはどこか優しかったんだよね。基本は容赦ないんだけど、時々ぽろっと優しくなる時がある感じ」

フローラが聞く。

「優しいって、どんな感じ?」

女王が答える。

「例えば、私がルーカスにやったみたいに、何も持たない可哀そうな契約者に、ちょっとサービスしたりとか・・・」

女王が、少し恥ずかしそうに続ける。

「私の黒髪を褒めてくれたりとか。私の世界だと、黒髪って珍しいんだよね・・・」

フローラが少しげんなりした。竜王のこの手のエピソードをやたら聞くからだ。

(どれだけ黒髪フェチなんだ)

内心で呟いたつもりだったが、頭が繋がっているので、女王にも駄々洩れである。それを知った女王も、呆れたような顔をしていた。


フローラが通信を切った。雑談、もとい情報収集で、色々なことが分かった。情報をまとめつつ、剣の解析を進めなければならない。フローラが現状での剣の分析をする。

剣には大きく分けて、三つの機構で構成されている。


一つは、感情の高ぶりに呼応して、術式の起動を始める機構。

もう一つは、異世界への通信網へ接続する機構。

最後は、契約を成立させた場合に、異世界と異世界をつなぐ門を生成する機構。


分析をしながら、フローラは、誰がこれを作ったのかを考えている。起動条件一つをとっても、尋常ではない。

感情に応じて機動する、と言えばロマンチックに聞こえるが、その制作過程を考えると、そうは言っていられない。人がどういった感情を持った時に、どのような魔力反応を生成するのか、などを研究観察しなければ、そのような機構を作ることなど不可能だからだ。恐らく、その背景には相当な犠牲があったはずだ。

「作ったのは・・・人ではないのかもしれない・・・」

フローラが、呟いた。彼女にしては珍しく、背筋に僅かながら悪寒が走っている。

フローラは、起動条件の解明を、ザルツにやらせることにした。感情の抑揚のない、彼の方が、この機構の解析に向いていると判断したからだ。フローラ自身は、異世界への通信網の解明を進めることにする。


フローラが再び剣を見つめた。何の変哲もない、剣のように見える。だが、その剣には、目に見えない血糊が纏っているようにも見えた。

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