雪の女王とフローラ-1

雪の女王とフローラ-1




フローラが自分の屋敷で、机に置かれた朽ちぬ剣を見つめる。その場にはザルツも居た。フローラが模造品を作るときに巻き込んだので、中途半端に関与させるよりは、完全に共犯にしてしまおうと考えたのだ。

ザルツが剣を見つめながら言う。

「見た目は頑丈ではあるけれど、普通の剣。だが、何かをきっかけにして、剣に刻まれた術式が起動する。そのきっかけは何か?」

フローラも呟くように言う。

「ヴォルクスから聞いた話によると、起動した事例は二つ。帝国を滅ぼした女と、終わらない雪を願った少年」

ザルツが共通点に気が付く。

「絶望や怒りと言った、感情の高ぶりに反応する?」

ザルツが剣を見つめた。感情に反応する魔術道具など、聞いたことが無い。

フローラがそれを聞いて、思いつき、剣を手に取りながら言う。

「感情が高ぶるなら、なんでもいいのかしら?ザルツ、アンタが試してみる?」

ザルツは首を振った。ザルツほど、感情の高ぶりに縁のない者も居ない。フローラもそれを分かっていて、少し嫌がらせのように言っている。フローラが言う。

「だったら私が試してみる。アンタは、何かあったら、外から止めて頂戴」

そう言うとフローラは剣を手に、過去の記憶の中から、感情が高ぶった瞬間を思い浮かべる。思い浮かべたのは、レムルに母と言われた時、ミオリアとの濃厚な爛れた時間、それがヴォルクスにバレた時に彼がするであろう顔を思い浮かべた瞬間。その時に、剣が反応した。


剣がフローラの頭に、直に語り掛けてきた。いや、そうではない。剣は触媒に過ぎない。異世界にいる者たちが、彼女の頭に直接回線を繋ぎ、彼女の頭の中に窓を作って、そこから語り掛けている。

繋がった先に居る者は、誰もが災害のような力を持ち、詐欺師のように相手を値踏みする、圧倒的な強者たち。

その中に、見た記憶のある顔が居る。フローラはその窓を選び、それに対峙する。そこから少し笑うような声が聞こえて来た。

「・・・誰かと思えば、あの時に、あの男と一緒居た女。記憶を見たけど、アンタって、凄く性格が悪いわね」

そこに居たのは、雪の女王。


フローラが女王に話しかける。

「別に願い事とかはないんだけど、少し話せる?」

女王が、笑いを隠さずに言う。

「そんなこと言うヤツ、初めて見た。どれだけ唯我独尊なの」

それを聞いて少しニヤリとしながら、フローラが聞く。

「これは、何なの?誰が作ったの?」

女王が、笑い終えながら答える。

「これは異世界との通信魔法。ある一定以上の力を持つ者は、なぜか突然この通信網に組み込まれる。なんでかは、知らない。私がここに来る、はるか昔からあったものだから。だから、誰が作ったのかも、知らない」

女王が、思い出したように追加して言う。

「そうそう、竜王。アイツも昔はここに居た。まあ、ほとんど顔は出さなかったけど。ここに居る連中は、みんな性格が悪いし」

フローラが、笑いながら聞く。

「だったら、貴方も性格が悪いの?」

女王も、笑いながら答える。

「アンタほどじゃないわ」

二人は、どこか似ていた。意気投合した二人は、お喋りを始めた。


ザルツが、一人でブツブツと楽しそうに呟いているフローラを見つめた。どうやら成功したようだ。ただ、呟いている内容から察するに、物凄く、ただの雑談に聞こえる。

(長くなりそうなだな・・・)

女の雑談の終わりなど、いつになるか分からない。そんな時間があるなら、別の研究に時間を使いたい。見たところ、フローラに問題は無さそうだ。終わった後で、詳細を聞けばいいだろう。


ザルツは、フローラの楽しそうな呟きを背にして、静かにその場から立ち去った。

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