ヴォルクスと雪の女王-4

ヴォルクスと雪の女王-4




ヴォルクスとフローラは、都市に戻ると、今度は少年の情報を集め出した。ヴォルクスは遠くから少年の姿を見ていたので、大まかな特徴と年齢が分かる。そこから、終わらない冬の始まった二年前に居なくなったであろう少年の情報を、片っ端から探していった。ヴォルクスは長年冒険者としてこの手の調査をして来たので、様々な人脈と手段があった。

二週間ほどして、ヴォルクスは一人の少年に行きついた。ルーカスと、その家族の結末に。


暖炉の前のテーブルにヴォルクスとフローラが椅子に座っている。その前に一人の男が同様に座っている。彼は、ルーカスとその家族を見つけた行商人の一人だった。

ヴォルクスは、暖炉の前の椅子で、座りながらその少年とその家族の顛末を聞いて、言葉を失った。あまりにも惨かったからだ。フローラの顔色は変わらない。彼女は一言だけ言う。

「良くある話ね」

そう、よくある話だった。竜王亡きあとは国中が混乱し、治安が乱れている。戦争で家を失った者が、行き場を失って野盗に落ちる。傭兵が、仕事の無い時に野盗に落ちる。こうして動機と武力を有した野盗が跋扈して、略奪を行う。都市に居る住民はまだマシで、都市から外れたところに住む住民たちは、無防備となっていた。自力で武装する人たちもいるが、それが出来ない人たちもいる。ルーカスの家族は、それが出来ない人たちだった。

あの惨劇を思い出して、顔色を曇らせた行商人が言う。

「その後で、領主に知らせた結果、野盗たちは討伐されました。すでに誰一人として生きてはいません」

ヴォルクスが顔を曇らせた。彼は竜王の息子なので、このように国中が不安定になっていることに、どこか責任を感じている。だからルーカスの家族の惨劇も、フローラのように割り切れない。

ヴォルクスは、顔を曇らせながら聞く。

「それで、その少年、ルーカスを馬車に乗せていたが、いつの間にか姿を消していた。積み荷にあった一振りの剣と一緒に。と、いう事か。・・・その剣はどこで手に入れたんだ?」

行商人は思い出しながら言う。

「・・・確か、どこかの戦場で回収された武器の中から、綺麗そうなものを見繕った時に、その中にあったと記憶しています。鞘は無かったので、後から剣に合わせて調達しました」

ヴォルクスがそれを聞いて、行商人に聞く。

「その剣を触ったときに、何か起きたとか、なかったか?」

行商人は首を振る。

「・・・特に何も。随分と頑丈な剣だな、とは思いましたが。それ以外は普通の剣だったと思います」

フローラは口を挟んだ。

「何か条件でも、あるのかもね」

ヴォルクスは決心した。

「私は、彼に、ルーカスに会ってくる。彼と、話をしなければならない」

フローラは、ヴォルクスを見て言う。

「私は行かないからね。あんなのと会うなんて、一度きりでもう沢山。次に何かあっても、私は助けないからね」

ヴォルクスが答える。

「それで構わない。私一人でいい。別に、戦うつもりはない」




ヴォルクスは、再び吹雪の中心に向かった。武器は宿屋に置いて来て、丸腰だ。分厚いコートを身にまとって、背中に荷物を背負って、再び少年、ルーカスと雪の女王の元に向かって行く。

向かった先で、再び嵐が止んできた。その中心には、ルーカスと、その背後で漂う雪の女王が居る。女王がヴォルクスを見つけると、再びその手をかざし始めた。ヴォルクスは、両手を上げて、大声で叫ぶ。

「まて!戦うつもりはない!ただ、その少年と話したい!何かを奪う気はない!ただ、話したいだけだ!」

女王は手をかざしたまま動かない。ヴォルクスは、冷や汗をかいている。そのまま、しばらく無言で対峙し続けた。とても長い時間に感じる、薄氷の対峙。それは、女王が手を下ろしたことで、終わりを告げた。

ヴォルクスは、それを見て、少年の元に向かう。ヴォルクスの目に、少年の姿がはっきりと映り始めた。


やせ細り、目から光を失った、少年が。


ヴォルクスが少年に向かって言う。

「私の名前はヴォルクスと言う。君の名前は、ルーカス、でいいかな?」

少年の反応は無い。ヴォルクスは荷物の中から、折り畳みの椅子を二つ取り出して、並べてた。そして言う。

「立ち話というのもなんだし、良かったら座らないか?」

ルーカスの反応はない。が、目線を椅子に向けると、そこに座った。ヴォルクスもその隣に座る。ヴォルクスが、荷物の中から、パンと水筒を取り出してルーカスの膝の上に置いた。

「良かったら食べたまえ。あまり食べていないのだろう」

ヴォルクスが、雪の女王に向かって聞く。

「この子の食べ物とか、寝床とかはどうしているんだ?」

女王が答えた。

「食べ物は、時々行き倒れの者の荷物から拾っている。寝床は、私が雪で小屋をこしらえて、そこで寝ている」

それを聞いたヴォルクスが、動かない少年を見た。よく、二年も生きられていたな・・・

ヴォルクスが椅子から立って、荷物を再び漁り始めた。中から木材と大きな布を取り出すと、ハンモックを用意した。ヴォルクスが少年と女王に言う。

「良かったら、これを使ってくれ。それほど快適ではないが、雪の上よりはマシなはずだ」

設営をし終わったヴォルクスが少年を見る。少年は、ヴォルクスの渡した食事を、無言ではあるが、食べ始めていた。ヴォルクスは、ほっと息をついた。

ヴォルクスは、椅子に戻ると、そのまま無言で座っていた。少年も食べ終わると、無言で座っていた。その日はそのまま、一日が終わった。

帰り際に、ヴォルクスは、荷物にあった食料を置いていく。そして、少年と女王に言う。

「また明日も来る。食事だけはちゃんと取ってくれ」

そう言うと、ヴォルクスは都市に戻っていった。




それから、ヴォルクスは何度も少年の元に行った。女王も、慣れて来たので、何も言わなくなった。

ヴォルクスは、無言の少年を待つ間に、時折女王にも話しかけた。

「貴方は、なぜルーカスと契約をしたんだ?」

女王が答える。

「だって、可哀そうじゃない」

ヴォルクスが聞く。

「いつでも、可哀そうな人を見たら、契約しているのか?」

女王が腕を組みながら、答える。

「別に、そういうルールでやっているわけではないわね。何となく、そういう気分になっただけ」

ヴォルクスが、それを聞いて言った。

「そうか。でも、今回は、それに感謝している」

女王は、何も言わずにヴォルクスを見つめた。


それからも、ヴォルクスは何度も少年の元に訪れた。

少年も、少しずつ、ヴォルクスに反応するようになってきた。

ある日、少年が、口を開いた。

「・・・なんで、来るの?」

ヴォルクスが驚いた後で、嬉しそうに言った。

「君に会いからかな?」

少年の反応はない。ヴォルクスは再び聞いた。

「良かったら、名前を教えてくれないかな?」

少年が、再び口を開いた。声が、遅れて出て来た。

「・・・・・・ルーカス」

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