ヴォルクスと雪の女王-2
ヴォルクスと雪の女王-2
毛皮を内側にして縫い合わせた、重防寒の分厚いコートを身にまとったヴォルクスが、吹雪の舞う雪原の中を歩いている。近くの都市で情報を収集した結果、最後にこの辺りで吹雪の中を歩く少年を見た、という事が分かったのだ。迷わないように磁石で常に報告を確認し、地図と事前に仕入れた情報を元に慎重に歩を進めていく。
吹雪は常に同じ場所で吹いているわけではない。何かを中心にして、そこから円状に吹雪が荒れ狂っている。ただ、その動きに規則性は無いらしい。恐らく、少年がその中心に居るのだろう。
ヴォルクスは吹雪が強くなっていくのを感じている。
(凄い吹雪だ。今が夏とは、とても思えない・・・)
吹雪から目を守るために、目を細めながら、ヴォルクスは吹雪の強くなっていく先を見つめる。その先に、小さな影がちらつくのが見えた。ヴォルクスは、そちらの方に急ぎ、足を進める。
近づくにつれて、その影の正体がくっきりと見え始めた。
一人の小柄な少年。その少年が持つ、さやに納まった、長い剣。そして、その少年の上を漂う、何か。長い黒髪を持つ、大きな女のように見える。
少年に近づくに従って、台風の目に入ったように吹雪が止んできた。ヴォルクスが、少年から離れた場所に立った。
ヴォルクスは、少年を見つめる。少年が、ヴォルクスを見つめる。その少年の目には、光が無い。その上に漂う女も、ヴォルクスを見つめる。
ヴォルクスが口を開いて、大声で話す。
「済まないが、その剣を渡して貰えないだろうか?私は、その剣を探していたんだ!」
少年は、何も答えない。漂う女が、替わりに口を開いた。
「アンタは何者?この子から、これ以上何を奪うというのか?」
ヴォルクスは、漂う女から、凄まじい重圧を感じた。
(この女こそ、一体何者だ?)
ヴォルクスが、答える。
「私の名前はヴォルクス!かつて、帝国を滅ぼした原因を探している。100年に渡る調査の結果、何者かがその剣を使って、何かをした、というところまでは分かった。だから、知りたいのだ。それが何なのかを。そして、私の手で葬り去りたいのだ。私の両親と故郷を奪った原因を」
漂う女は、興味なさそうに言う。
「だから、この子から奪っても良いと?仕方が無いとでも?」
ヴォルクスは、焦った。目の前に、長年追い求めた物があるのかもしれないのだ。ヴォルクスが少しイライラしながら、漂う女に聞く。
「貴方は何者だ?その少年と、どういった関係があるのだ?」
漂う女が答える。
「私は、雪の女王。この少年と契約せし者。この子は終わらない冬を望んだ。よって、私はその契約を遂行している」
ヴォルクスは、記憶を探る。帝国を滅ぼした原因ではないかと思われた、亡くなった女の屋敷にあった、隠された地下室。そこに張り巡らされた、呪詛のような膨大な契約文。そしてその部屋の中心にあった、何かが刺さっていたと思われる、穴。そして、目の前の女が言った「契約」という言葉。ヴォルクスの中で、全てが繋がった。
亡くなったあの女が、何かと契約をして、それが父と、母と、故郷を滅ぼしたのだ・・・
ヴォルクスが目の前の女を睨んで、叫ぶ!
「お前が、やったのか!お前が、全てを奪ったのか!」
雪の女王は答えない。目の前の男が、何を言っているのか、さっぱり分からないからだ。ヴォルクスは、その沈黙を肯定と見た。
ヴォルクスはブチ切れた。
ヴォルクスがドラゴンへと変貌する。
ヴォルクス
竜王の息子。天翔ける海竜。その体躯は、黒竜の覇者と呼ばれたベイルをすら上回る
自身の魔術で作り出した水隗を泳ぐことで、彼は自在に空を駆け抜ける。ヴォルクスは雪の女王に向かって行った。女王が、何も反応しない少年の前に、漂い出てくる。少年の前に出た女王が、無言で手をヴォルクスにかざした。
ヴォルクスは女王に到達する前に、変身を解いた。泳いでいた水隗が凍り始めたのだ。
地面に落ちたヴォルクスは、水の膜で何重にも空気を遮断しながら、悪態をついた。
(周りは吹雪。相手は冷気を操る。地の利も、相性も悪い)
周りの吹雪が弱くなり始めた。ヴォルクスが好機と見て取った、その時だった。女王は、ヴォルクスにかざしていた手を握りしめた。ヴォルクスの周囲の気温が、一気に下がっていく。その冷気は、ブチ切れていたヴォルクスの頭を冷やしていった。彼は、根本的な勘違いに気が付いたのだ。
地の利?相性?そうじゃない。この吹雪は、目の前の女王が作り出したものだ。この女王は、災害そのものだ。かつて君臨した、竜王と同じレベルの者だ。そもそも、戦えるような相手ではない・・・
ヴォルクスの水の膜が一瞬で凍結していく。空気の遮断も何も、関係ない。
(死ぬ・・・)
ヴォルクスが後悔する間もなく、その終わりを予感した。その時だった。
巨大な火球が、ヴォルクスに向かって直撃し、凍結を防いだ。空に大きな赤い飛竜が飛んでいる。フローラだ。フローラは、女王に向かって再び火球を投げる。ヴォルクスが、その火球に向けて、自身も水球を放った。ぶつかった火球によって水球は瞬時に蒸発し、周り一体を、凍結した蒸気による白い闇が包んだ。それが女王の視界を妨げる。
視界が晴れた女王の目の前には、誰も居なかった。彼らは、逃げて行った。
女王は、後ろの少年の安否を確認すると、再び少年の元に戻っていった。戻りながら、無表情で女王は呟く。
「彼らは、一体、なんだったのだろうか?」
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