ヴォルクスと雪の女王-1
ヴォルクスと雪の女王-1
「終わらない冬」
この大きな悲劇の始まりは、それよりは小さな悲劇から始まった。時計の針を、二年ほど巻き戻そう。
・・・・
「寒ーい!」
そう叫びながら、幼い人間の少年、ルーカスが、まだ雪の残る家の外に薪を取りに来ている。もうすぐ冬が明けて春が来る、そんな時期だった。とは言え、木と石で出来た家で出来た家の中でも、まだまだ寒い。暖炉に薪をくべる必要があるのだが、家の中に備蓄してあった薪も尽きてきた。外にある薪を誰が取りに行くのかを、兄弟姉妹で決めた結果、ルーカスに白羽の矢が立ってしまったのだ。
ルーカスは家に隣接した納屋の中に潜って、薪を漁った。納屋の薪も尽きてきており、細かい物を集めないと、まとまった量になりそうもない。ルーカスは不貞腐れた顔をしながら、床を攫っていた。
そんな時だった。
集団の足音が聞こえてきた。金属がカチャカチャと擦れ合う音がする。武装した集団が歩いて来る音だ。ルーカスは、納屋から抜けて、こっそりと音がする方を覗いた。集団は野盗の群れだった。
今は国中が内乱状態であり、こういった野盗が各地に出没している。彼らは冬眠から目覚めた熊が、獲物を探すように辺りを物色をしている。彼らは、ルーカスの家に目を付けたようだった。
ルーカスは再び納屋に潜り込んだ。見つかったら、命が無いのは明白であったからだ。何とかして、家に居る家族に伝えなければならない。家に隣接した納屋からは、家の中の様子が隙間から分かる。彼が声を出して家族を呼ぼうとした瞬間だった。野盗たちが、ドアを蹴り空けて、家に入ってきた。ルーカスは口を塞いだ。遅かったのだ。
それから、その家で行われたことを筆舌するには、余りにも凄惨な光景であった。ゆえに、結論だけを書こう。家の中には、薪が足りなかった。家族は、薪になった。
ルーカスは、その光景を、全て、納屋の隙間から見てしまった。彼は何も出来なかった。目を閉じても、声が聞こえてくる。耳を塞いでも、鼻から、血と悪臭が襲ってくる。気が狂いそうだった。そしてルーカスの心は、家族と共に死んだ。
野盗たちは、取るものを取って、その場を立ち去った。取れるものに、大したものなどなかったのに・・・
・・・・
野盗が去って、しばらくしてから、行商人の一団の馬車の近くを通りかかった。異様な臭いのする、ルーカスの家に気が付いた一団の者が、集団を止め、家を確認しに行った。そして見つけた、凄惨な現場と、そこで死んだ目をして、呆然として立ち尽くす少年を。
行商人の一団は、余りにも凄惨な光景に心を痛め、少年の家族の墓を作ってやることにした。また人を割いて、近くの都市に居る領主に、この事件を伝えることにした。
少年は、商品の積まれた馬車の中で、壁にもたれかかり、体を小さく丸めて座っていた。行商人たちは、そっとしてやることにした。彼らにしても、どのように声を掛けたらいいのか、分からなかったからだ。
馬車の中には、様々な商品が積まれている。そのうちの一つが、ルーカスの目の前に倒れてきた。それは、長い剣だった。ルーカスは、しばらくその剣を見つめてから、それに触れた。
その瞬間に、剣がルーカスの頭に、直に語り掛けてきた。いや、そうではない。剣は触媒に過ぎない。異世界にいる者たちが、彼の頭に直接回線を繋ぎ、彼の頭の中に窓を作って、そこから語り掛けている。
その剣は、古の一代限りの異端の魔法使いが作った、朽ちることのない、異世界への鍵。繋がった先に居る者は、誰もが災害のような力を持ち、詐欺師のように相手を値踏みする、圧倒的な強者たち。
異世界の彼らは、次々にルーカスに語り掛けると、次々に交信を遮断した。彼が、何も持たない者だと分かったからだ。貧乏人に時間を割く詐欺師など、居ない。
ただ、一人だけがルーカスに、語り続けた。それは雪の女王。別に彼から、何かを奪おうとしているわけではない。ただ単純に、彼に同情したのだ。
雪の女王が、語る。
「何かして欲しいこととか、ある?」
ルーカスは、表情を変えずに呟く。
「・・・家族を、返して欲しい」
雪の女王は、残念そうに言う。
「それは・・・無理ね・・・。他には、無い?」
ルーカスは、表情を変えずに呟く。
「だったら、ずっと冬にして欲しい。春なんて来なければ、アイツらが来ることなんて無かった。だから・・・ずっと・・・冬にして欲しい・・・」
雪の女王は、分かったと言って。異世界を越えて来た。契約が、成立したのだ。
突如として、吹雪がやって来た。行商人たちは、突然の吹雪に驚いて、作業の手を止めた。
ルーカスは、その剣を抱えて、吹雪の中に姿を消した。
吹雪は、止まなかった。春が来ても、夏が来ても、吹雪は吹き続けた。終わらない冬が、その地域を襲い続けた。
止まない吹雪が始まって以来、吹雪の中に人影があった、という報告が見られるようになる。その人影は、長い剣を抱え、空中を漂う何かを引き連れて歩く、一人の少年のようだったと、言われている。
それから、二年が経った・・・
吹雪は止まない。凍てついた、少年の心のように・・・
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