フローラとレムル-6

フローラとレムル-6




レムルは何も考えずに走っていた。

森を抜け、街道に出て、それでも走った。走り続けて、流石に息が切れて、その場にしゃがんでしまった。

レムルは後悔した。フローラに馬鹿と言ってしまったことを。走り続けたのは、怒っていたからだけではない。フローラは彼女の恩人であり、師であり、そして・・・母であった。

自分が発した言葉に対して、とても後ろめたくなってしまったのだ。

「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」

レムルはしゃがみながら、呟き続けていた。


レギウスは、そんなしゃがみ込んでいた居たレムルに、ようやく追いついた。呟き続けているレムルの前に、レギウスもしゃがんで、覗き込んで言った。

「大丈夫?」

レムルは涙目で、レギウスを見つめて、呟くように言った。

「・・・私・・・フローラに謝らなきゃ。馬鹿・・・なんて言っちゃって・・・」

レギウスは、内心で驚いた。正直なところ、あの状況なら、それぐらい言いたくもなるはずだ。それなのに、レムルは、その一言を言っただけで、これほど後悔している。

(本当に、似てない母娘だな・・・)

と、思いつつ、レムルを励ました。

「・・・そうだね。謝りに戻ろう。そうして、もう一度頼み込もう。きっと、分かってくれるさ」

レギウスがレムルの手を取って、一緒に立とうとした、その時だった。


「お!?すげえいい女が居るぞ!」

明らかに、タチの悪そうな言葉が聞こえた。そちらを見ると、どう考えてもタチの悪そうな野盗と思しき集団が居た。国中が内乱状態であり、こういった野盗が各地に出没している。

レムルはフローラから魔術の手ほどきを受けているので、普段であれば、この程度であれば対処できる。だが、現在の彼女は、メンタルがガタついており、そういったことが出来る状況ではない。レギウスも今は丸腰だ。

ジリジリと近寄ってくる野盗たちに向かい合って、レギウスはレムルを庇うように立つ。

相手は武装しており、10人ほど居る。2、3人なら何とか出来たかもしれないが、レムルを庇いつつ、この人数を相手にするのは難しい。

レムルを抱えて逃げるか?何とかレムルを逃がして、自分がここで足止めするか?レギウスが逡巡していた、その時だった。


一匹の赤い飛竜が飛んできた。普通のドラゴンより、大きい。そのドラゴンは着地と同時に変身を解いた。フローラだ。凄まじい殺気を感じる。レギウスは鳥肌が立った。


野盗は一瞬だけ、もう一人の美女が登場したことに喜んだ。だが、一瞬だけだった。

フローラが、凄まじい魔力を練り上げ、巨大な火球を見せつけるように作り出したのだ。フローラが轟くような声で、警告する。

「一歩でも足を進めてみろ!灰燼に帰すと知れ!私の娘に、手を出すな!」

野盗は、その言葉を試す気にはならなかった。その場から、走って逃げて行った。

野盗は幸運だった。レムルの前でなければ、警告もなしに灰になっていただろう。


野盗が逃げ去ったあとで、フローラはレムルを振り返った。レムルは、涙目でフローラに言った。

「ごめんなさい。馬鹿、なんて言っちゃって・・・」

フローラは目を逸らした。流石に、大人げなく罵倒しすぎたと反省したのだ。フローラは、何も言わずに、気まずそうに笑った。




・・・・




あれから三人は話し合った。フローラは、さんざん渋ったが、二人の熱意が動かせないと分かると、とうとう、諦めた。


数日後に、レギウスを迎えに来た馬車に、レムルも乗った。さんざんフローラが馬の骨となじったレギウスだったが、実は高名な貴族の出身だったことが判明した。フローラにしてみれば、馬の骨判定にそれほど変化はないが、とりあえずレムルが不自由するようなことは無さそうだ。


フローラは、相変わらず嫌そうな目でレギウスを睨んで言う。

「レギウス!アンタ、レムルを泣かせたら、承知しないからね!なんかあったら、いつでも灰にしてやるから!」

「フローラ様!絶対にそんなことはなりません。レムルは絶対に幸せにします!」

レギウスは心からそう誓った。レムルには完全に惚れていたし、フローラは脅しでなく、本当にやると確信していたからだ。


フローラは、悲しそうな顔をして、レムルを見つめて言った。

「・・・レムル、帰って来たかったら、いつでも帰ってきていいからね。レギウスが何かやったら、いつでも言いなさい。灰にしてやるから」

レムルも、涙を浮かべて、フローラに、礼を言う。

「子供のころ・・・助けてくれて、育ててくれて、本当に、本当にありがとうございました」

レムルはフローラに抱きついて、続ける。

「助けに来てくれた時に、娘、って言ってくれて、本当に嬉しかった。ありがとう・・・お母さん」

フローラは、黙ってレムルの頭を優しく撫でた。


フローラは、二人の乗る馬車を見送っている。

「お母さん・・・か」

フローラは、ぼそりと呟くと、再び一人になった屋敷に戻っていった。




これを機に、フローラの性格が変わった。などという事は無かった。相変わらず高慢で、高飛車で、プライドが高く、冷酷だった。

だが、これ以降、黒髪の美女を漁ることだけは、一切無くなった。

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