魔道(叡智)

フローラとレムル-1

フローラとレムル-1




フローラが、屋敷から出て、外にある森の中を散歩している。この屋敷は、人里からやや離れた火山の麓にあり、人の声はない。太陽の日差しが、木の葉で遮られ、地面にまだら模様を描いている。

フローラが、ため息を付きながら、ぼんやりとした表情をしていた。彼女は研究中の魔術のために、わざわざこんな場所に屋敷を建てた。だが、最近は、研究が上手くいっていない。彼女には、原因は分かっていた。


フローラはミオリアとの関係が忘れられなかった。ミオリアはフローラにハマっていたが、フローラもまた、ミオリアを弄ぶのにハマっていた。あの光悦と背徳の日々が、常に頭に浮かぶ。


その快感が忘れられないフローラは、再びそれを得るために、時折屋敷から出て、黒髪の美女を漁っていた。しかし、満足できない。何かが、違う。

何故なら、ミオリアほどの、高潔で高慢な美女など、そんなに居ないからだ。フローラは満たされない。こんなことなら、ミオリアの魂を全部貪らずに、少しだけ残しておけばよかったと、後悔していた。


そんな感じで、彼女は悶々としていた。研究が捗らないのは、このためであった。


そんなことを考えながら散歩をしていると、どこからともなく、子供の泣き声が聞こえてきた。普段の彼女であれば絶対に無視するのだが、その日は、何となく泣き声の方に歩いて行った。

歩いて行った先に、その子供は居た。小さな幼い少女だ。泣きじゃくっている。フローラは腰に手を当てて少女を見下ろしながら、少女に聞いた。

「アンタ、どうしたの?迷子?」

少女は、泣いたまま、フローラを見上げた。フローラは少女を見つめる。栄養状態が悪いのか、やせ細っている。フローラは少しイライラしながら、少女に言う。

「泣いていたら、分からないでしょうが!どうしたのよ?親はどこに居るの?」

少女は泣きじゃくりながら、少しづつ説明をした。

説明をまとめると、余りの貧困に耐えられなかった両親が、少女を森の中に置き去りにしていった、という事らしい。昨今では、国中が内乱状態であり、こういった事はよくあった。

「ふーん」

そう言いながら、フローラは少女の顔を見つめる。これまで見てきた通り、フローラは博愛主義みたいなものからは、とても遠い女だ。いつもなら、ここでそのまま帰ってしまっても、おかしくはない。

しかし、フローラは考えていた。なぜなら少女は黒髪で、成長したら美しくなりそうな顔立ちをしていた。彼女は閃いた。


高潔で高慢な美女など、そんなに居ない。だったら、自分の手で作り出せばいいのだ!


フローラは、この時ほど自分を天才だと思ったことはなかった。・・・まあ、常日頃から、自分を天才だとは思っている女ではあるが。

フローラは少女に言う。

「アンタの名前はなんていうの?」

少女は、少し俯いて、自分の名前を呟く。

「・・・レムル・・・」

フローラは高飛車に言う。

「よし、分かった!レムル!アンタは私に付いてきなさい!」




レムルを屋敷に連れてきたフローラは、とりあえずレムルに食事を与えた。ここまでやせ細っていては、高潔も何もない。

レムルは、テーブルについて、夢中になって食事にがっついている。しばらく何も食べていなかったので、止まらなくなっている。

フローラは、テーブルの反対側に座って、そんなレムルを見ながら、ため息を付いた。これではマナーもクソもない。フローラは、レムルに言う。

「もう少し、ゆっくり食べなさい。お腹が減っている時に詰め込むと、後から大変なんだから」

レムルがフローラを見上げる。どこか、顔色が悪い。青い顔をしたかと思うと、口を抑え始めた。突然の暴食に、胃が受け付けなかったのだ。フローラが慌てて立ち上がった。

「だーから、言わんこっちゃない。ちょっとだけ、我慢しなさい!」

近くにあったバケツを取ると、レムルの前に置いた。床に吐かれてはたまらない。レムルは、その中に、食べたものを吐いてしまった。フローラは冷や汗をかいた。

吐き終えたレムルが、涙目で、涙声で呟く。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

フローラは、呆れたようにレムルに言う。

「・・・もういいから。さっさと口と顔を洗ってきなさい」

レムルが、フローラを悲しそうな顔をして見上げる。フローラは気が付いた。

「・・・ああ、場所が分からないのか。教えるから、付いてきなさい」

フローラは立ち上がると、レムルを連れて洗い場まで連れて行く。フローラは、顔を洗って、口をゆすいでいるレムルを見て、少し後悔し始めた。


これ、もしかして、滅茶苦茶大変なのでは・・・


しかし、フローラという女はプライドが高い。自分の建てた計画を実行できない、などという事は認められない。

フローラの新たなる計画は、こうして開始された。


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