ミオリアとフローラ-2
ミオリアとフローラ-2
フローラは華やかで、頭が良く、魔術にも精通した女性だった。能力的には、何も申し分ない。ただ、墓守の巫女に仕える女としては、少々華やかに過ぎるきらいがあった。
ミオリアの鼻に、フローラの香水の香りが漂ってきた。
「香水の匂いが、少しきついかもしれませんね。神殿には、少々そぐわないかもしれません。使うのであれば、もう少し、柔らかなものを使用してみて下さい」
ミオリアが、やんわりと遠回しに注意した。フローラが少しきょとんとした顔をすると、すぐに不敵な顔になった。そしてミオリアの方に足を進めると、自らの顔を、ミオリアの顔の横に近づけて、囁いた。
「ミオリア様の使われている、この香油のような香り、ですね。分かりました」
ミオリアは驚いた、が、表情には出さない。
(なんていう、大胆で、無礼な女なんだろうか・・・)
・・・・
フローラは神殿で働くことになった。彼女が優秀であることは確かだった。ミオリアとしては一抹の不安はあるのだが、人手が足りないので、採用を決めた。
彼女は特に魔術に長けており、その能力は、部分的においては、ミオリアをも凌いだ。会話も上手いこともあり、ミオリアが行っていた、対外的な魔術関係の仕事であった、騎士団への知識の伝達は、彼女に任せても問題なかった。
騎士団とのやり取りを、フローラに丸投げできるのは助かった。彼らの中には、本来の業務よりも、ミオリアに会う目的で来る連中が混じっていたからだ。ミオリアは忙しいので、そういうのは本当に迷惑だった。
そういった連中としても、ミオリアとはタイプの違う美人であるフローラと、会話できるのは楽しいらしい。フローラは噓八百で、そういった連中を煙に巻くのが上手かったので、適材適所ではあった。
そう、フローラは、嘘をつくのが上手かった。ミオリアは、相手を籠絡するときであっても、嘘自体はあまりつかない。アドニスを籠絡する時に言った「まじめな人が好き」のような言葉自体は、嘘ではない。嘘は、楽そうに見えて、つき続けるための維持コストが高いからだ。ミオリアは、ずっとこの都市に居続けるつもりなので、維持コストが上がるような振る舞いは避けている。
だが、フローラはそうではない。これはつまり、あまり長いこと、ここに居るつもりが無い、という事を意味していた。
(彼女には、何か別の目的があるのでは・・・)
ミオリアは、フローラをやんわりと、警戒することにした。
・・・・
ある日、ミオリアが竜王の墓の前の祭壇で祈りを捧げていると、後ろから視線を感じた。祈りを中断して振り返ると、そこにはフローラが居た。振り返ったミオリアに、フローラが言う。
「あ、お邪魔でしたでしょうか?失礼いたしました」
ミオリアは彼女の顔を見つめて、言う。
「別に、決まった時間以外に祭壇に祈りを捧げるのは個人の自由ですので、私が居る時であっても、祭壇に祈りを捧げること自体に問題はありませんよ」
ただ、ミオリアには、フローラが祈りを捧げるような人には、どうしても見えなかった。何の目的でここに来たのだろうか?
フローラが、祭壇の奥にある墓所の方を、眺めるように見つめながら言う。
「ここに、竜王様と、それよりも以前にお亡くなりになった方が、眠っていらっしゃるのですね」
ミオリアが答える。
「ええ、その通りです。この墓所自体は1000年以上前から存在しています。そこに竜王様も、あとから埋葬されました」
フローラがそこ、とばかりに質問を投げかけた。
「確か、竜王様には、最愛の、寵姫様がいらしたはずです。その方は、ここには埋葬されては居ないのでしょうか?」
ミオリアは、表情を変えずに、言う。
「寵姫様は、こちらには埋葬されておりません。外の、別の墳墓に埋葬されております」
それを聞いたフローラが、疑問を口にする。
「最愛の、寵姫様なのに、別の場所なんですね?」
ミオリアは、引き続き表情を変えずに、言う。
「ええ、彼女は正室ではありませんでしたので、場所は変えるべきではないか?という意見があったのです」
フローラが、少し嘲るような表情をしながら言う。
「ふーん。でも、可哀そうですね。最愛の、寵姫様なのに、ずっと一緒に居た寵姫様なのに、死んだら別々だなんて」
ミオリアは黙っている。表情は変えていないが、内心ではイライラしていた。
フローラは、黙っているミオリアを見つめて言う。
「お祈りのお邪魔して申し訳ございませんでした。私は、別に、お祈りをするつもりは、ありませんでしたので・・・」
そう言うと、フローラはその場から立ち去った。
祭壇から立ち去ったフローラを見送ったミオリアは、一言だけ呟いた。
「・・・嫌な女」
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