アドニスとミオリア-3

アドニスとミオリア-3




ベイルの暗殺の事実は、一躍として、人々に知られた。皆が噂し合った。一体、誰によって殺されたのか?と。

敵対勢力だろうか?内部の抗争だろうか?それとも、それ以外の何者だろうか?

ベイルは、その抑えられない暴力性によって、敵が多かった。あまりにも容疑者が多く、皆はそれを絞り込むことが出来なかった。

アドニスの行った暗殺は周到だった。実行犯は処分されたし、アシの着くものなど、何も残っていない。アドニスらの行ったベイルの暗殺は、誰にも突き止められなかった。


ベイルの葬儀は、ミオリアによって執り行われた。この都市の影響力拡大に尽力した英雄として、竜王の墓の近くに、それよりは小規模だが立派な墓がつくられ、彼はそこに埋葬された。

生前の彼の暴力性の伴った振る舞いは、多くの人に知られていたが、亡くなってからは、そういった欠点は忘れ去られ、その功績を称える声が大きくなった。彼は「黒竜の覇者」として、語り継がれることとなる。

彼の死後の傭兵団は、アドニスを筆頭に、あの6人の大隊長を軸にして、その名声と共に引き継がれた。

もはや傭兵団ではない。ミオリアに仕える騎士団となり、アドニスと6人の大隊長は貴族に列せられることになった。




・・・・




アドニスが、ベイルの墓の前にある、石椅子の前で座って、その墓をぼうっとした目で眺めている。保身から親友を殺したという意識は、アドニスに暗い影を落としていた。まだ若いのに、その頭髪には白いものが多くなり、毛の量も急速に減りつつある。

それとは裏腹に、騎士団は順調だった。元々はアドニスがまとめていたようなものだし、ベイルの凶暴性を伴った攻勢は、そろそろ限界に来ていた時期でもあった。現在の領域の基盤を固める、と言う意味であれば、アドニスを筆頭とした形の方が理想的なのだ。ミオリアの言った「そろそろ引退して欲しい」という言葉自体は、正しい状況認識であった。


アドニスの背後に、人の気配がする。アドニスは振り向かない。漂う香油の匂いで、誰だか分かっているからだ。

「ここに居たのですが。そろそろ、次の会議が始まりますよ」

ミオリアが、アドニスの後ろから声を掛けた。ミオリアとアドニスの私的な関係は、一瞬で終わった。だからと言って、アドニスがミオリアに逆らうことはない。もはや、心が折れきっており、ミオリアに立ち向かう気など全くない。ミオリアも、それを理解している。

アドニスは、振り向かずに、ミオリアに尋ねる。

「・・・アンタは、いつからこうするつもりだったんだ?」

ミオリアは、周りを見渡して、誰も居ないことを確認してから、それに答える。

「別に、最初からそうするつもりは無かったわよ。ただ、いつそうなっても良いように、常に準備は怠らなかった。それだけね」

アドニスは、ミオリアと初めて会った時からのことを思い返した。ベイルもアドニスも、最初から緩やかに、だが確実に、ミオリアの糸が繋がれていたのだ。アドニスが続ける。

「ベイルであれば、竜王の再来になるとか、考えはしなかったのか?生きていれば、もっと大きなことが出来たかもしれない、と」

それを聞いて、ミオリアは、笑った。声を抑えつつも、心の底から笑った。そして笑い終えてから、笑いを滲ませながら、アドニスに語った。

「彼が、ベイルが竜王の再来!?それはあり得ない。私は、生前の竜王様を知っている。あの方の周到さと、その比類なき力を知っている。それに比べたら、ベイルなど、蝙蝠と変わらない!」

アドニスが、流石にイラついて、抗議しようとミオリアの方を向いた。その瞬間に、ミオリアは言い放った。

「だって、ベイルは、彼は、負けたじゃない。負けたから、そこに、その墓の中に入っている。その立派な墓に。黒竜の覇者と刻まれた、その墓に。敗者には、充分過ぎる」

ミオリアは、それ以上は時間の無駄だとばかりに、その場から立ち去った。

アドニスは、何も言い返せなかった。


負けた・・・誰に?ミオリアだ。ベイルは、俺は、俺たちは、あの女に、完敗したのだ・・・


アドニスは、再びベイルの墓を見つめる。分かたれた半身が、かつての半身の墓を、見つめる。幼いことからの、彼との記憶が、懐かしさと、後悔と、罪悪感と共に流れ出てきた。

アドニスの目から、涙が流れた。自分で殺しておいて、悲しむのは偽善だ、と言い聞かせても、流れるのが止まらなかった。アドニスの記憶の中の、ベイルが、こう言い放つ。


「教えろ!俺はお前に勝つ!殺せなくても、殺して!勝つ!」

死ぬ間際のドロスに言い放った、ベイルの叫び声。

ベイルは、ミオリアに勝てなかったかもしれない。でもきっと、ドロスには勝てたのだろう。ベイルの功績の前には、ドロスの名声は無いも同じなのだから。


アドニスは涙を拭いて、椅子から立ち上がる。自分も、次の会議の部屋に向かって、歩み始めた。

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