アドニスとミオリア-2

アドニスとミオリア-2




アドニスは、惚けた顔をして、机に座っていた。あの経験が、至福過ぎたのだ。アドニスが何かをしたと言うよりは、ミオリアに貪られた、という感じであった。

そして、ベイルよりも先に、やってやったぞ、という嘲笑。

快感と優越感が胸を占めていた。


ぼっとしてるアドニスに、部下が連絡に来た。

「アドニス様に、お手紙です」

我に返ったアドニスが、手紙を受け取る。部下が立ち去った後で、手紙を見る。封蝋はされているが、刻印は無い。封を開けて手紙を読んだ。

ミオリアからの手紙だった。日時と場所の指定だけされている。そして、一人で来て欲しい、と書いてあった。

アドニスは、舞い上がった。当然、行くつもりだ。




・・・・




指定された日時に、その場所に向かう。場所は神殿の一画で、会議などに使われる部屋だった。

(合瀬に使うには、随分と味気ない場所だな)

そんなこと考えながら、歩いていた。どこか、足取りが軽い。その部屋に着くと、ゆっくりと扉を開いた。


しかし、そこにミオリアは居なかった。そこにいたのは、最初期の、ベイルとアドニスと共にあった、6人の小隊長。今はもう大隊長だが。

アドニスは、部屋を間違えたかと思って、後ろを向いて手紙を確認したが、間違いなく、この部屋だった。

もう一度部屋の方を向いて、6人を見る。皆、同じような目をしている。どうして、お前らが、ここに居るんだ?という目。

アドニスは、席に着いた。席について考えた。そして、嫌な可能性に気が付いた。

アドニスは再び、全員を見つめる。彼らもまた、同じような目で見つめる。皆が、嫌な汗をかき始めた。その時だった。

ドアが開いて、ミオリアが入ってきた。全員が、同じような目で、ミオリアを見つめる。


何故、俺だけでないのだ?

そして、全員が確信した。俺だけじゃない、お前らもなのか・・・と


ミオリアが長机の上座に座った。だが、何も言わない。彼らに考える時間を与えている。


彼らは、考えている。

自分一人であれば、色々な意味で覚悟が決まっている。ベイルに隠し通せる自信はあるし、たとえベイルにバレたとしても諦めがつく。

だが、ここに来た瞬間に、自分一人でないことを確信してしまった。これが不味い。

仮に誰が一人がバレた場合、ベイルへの言い訳のために、他のメンバーのことを口に出さない保証が無いからだ。バレる確率が、一気に7倍に跳ね上がった。

それに、自分のミスでバレて殺されるのでなく、他人からの芋づる式にバレて、ベイルに殺される。こんなことには耐えらない。

全員が、目に見えない糸に絡めとられたようだった。糸が、ミオリアの糸が、互いを互いに縛りつける。


どうすればいい。俺は、どうすればいい。


皆が考え込んでいる。ミオリアが、口を開いた。

「・・・ベイルには、困りましたね。彼は、あまりにも自己制御が効かない。これ以上、好き勝手をされては困ります。彼には、そろそろ引退していただいた方が、良いかもしれませんね・・・」


全員がこれを耳にして、更に考えた。

ベイルが引退?するわけなどない。まだまだ、やれるし、まだミオリアも手に入れていない。そんなベイルが引退するなんて、それこそ死んだときでもなければ・・・


皆が、同じ結論に達した時に、ミオリアは席を立った。

ミオリアは、不要な言葉を、重ねない。不要な行動は、しない。


糸とは、短い繊維の塊である。それが解けないのは、繊維同士が絡み合い、互いを縛りあっているからだ。

彼らは、互いを、完全に縛りあっている。もはや、ミオリアが操演する必要などない。あとは人形同士が、勝手に踊る。


ミオリアは部屋から出て行った。




ミオリアが出て行った部屋の中に、アドニスと6人の隊長が残された。6人が、アドニスを見る。こういった時に取りまとめるのは、常にアドニスだったからだ。

アドニスは、何かを喋ったはずだ。だが彼は、何も覚えていない。

ベイルとミオリアという強者に挟まれ、保身のために、親友を裏切る惨めな自分。そんなものを記憶に残したくなかった。あまりにも、惨めだった。

アドニスは、喋り続けたはずだ。そして、何かを決めた。そして、それは、完璧に実行された。




・・・・




数日後、ベイルは凶刃に倒れた。複数の刺客が、猛毒の塗られた短剣を手にして、女と一緒にベットで寝ていたベイルを襲った。掠っただけで致命傷になりうる短剣を、何度も深々と突き刺され、ベイルは女ともども、変身する間もなく殺されたのだ。

女は、かつてアドニスが懇意にしていた、その女だった。

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