ベイルとアドニス-5

ベイルとアドニス-5




ベイル傭兵団は規模を拡大しつつ、戦闘を続けた。ベイルの勇猛さと、アドニスの冷静さの組み合わせは、順調に戦果を上げていく。戦果を上げることで、傭兵団の拡大を可能とし、それがさらに戦果を上げることに繋がる、好循環に入りつつあった。

その一方で、ベイルの獰猛さも加速しつつあった。敵にドラゴンが居たら積極的に交戦し、倒した相手を喰らった。アドニスと6人のメンバーは、何とかして隠ぺいを図ったが、人の口に戸は立てられない。それにベイルの体躯が徐々に大きくなっているのは、隠しようがない。人々は噂した。


ベイルは、共食いをしているのでは?彼は、竜王の再来なのでは?と




・・・・




アドニスが、ミオリアと神殿の一画で会話をしている。ミオリアの都市は魔術開発で有名であり、ミオリア自身も、指折りの魔術師であった。戦闘における魔術の活用や、魔術師や魔術道具の手配のために、ミオリアに相談する、という事は度々あった。他のメンバーも、時折、相談しているようだ。

相談を終えた後で、書類を確認してるミオリアをアドニスが見つめた。この女は、ベイルが共食いをしていることを知っているのだろうか?知っていても止めないのだろうか?

アドニスは、ミオリアに探りを入れるために、聞く。

「かつて、1000年ほど前に、ドラゴンがドラゴンを喰う、と言う風習があったそうです。ミオリア様は、そういった風習をご存知でしょうか?」

ミオリアは、書類から目を話して、アドニスを見た。そして、思い出すように語り始めた。

「・・・私は、かつて竜王様にお会いしたことがあります。そして、貴方と同じようなことを、竜王様に、お聞きしたことがありました」

アドニスは驚くと同時に、納得した。ミオリアは300年を生きているという。100年前に死んだ竜王と面識がある可能性は十分にあるのだ。ミオリアが続ける。

「その時には竜王様はおっしゃいました。あった。そして、私も、喰った。師も親友も、喰った、と。私は竜王様を見つめましたが、それを語る竜王様は、決して、私と目を合わせようとはしませんでした・・・」

ミオリアは、懐かしそうに、悲しそうに、語った。その表情からは、それ以上の感情が秘められていることが、なんとなく伝わってきた。これは、恐らく、本心から出ている感情であることが分かる。

アドニスは、イライラした。そして、そんな自分を諫めた。・・・100年前に死んだ竜王に嫉妬するなんて、どうかしている、と。

そんなアドニスを、ミオリアが見つめる。そして、微笑んで言った。

「・・・貴方は、まじめですね。私は、そのような方は、好きですよ」

アドニスは、これが先ほどとは違い、これが浅い感情から発せられていることを、理解している。それでも、心が激しく揺さぶられることが止められなかった。

駄目だ。ミオリアは、ベイルが焦がれている相手なのだ。俺が手を出すのは、獲物を横取りするのと同じだ。ベイルは、決して許しはしない。

揺れる心を、理性と恐怖で抑え込んだアドニスは、何とかして言葉を絞り出した。

「・・・お教え頂き、ありがとうございました。これにて、失礼いたします」

アドニスは、足早に部屋から立ち去った。

ミオリアは特に止めない。ミオリアは、不要な言葉を、重ねない。不要な行動は、しない。

そんなもの、必要ないということを、理解しているからだ。


アドニスは、頭を冷やしながら、神殿から出て行く。そして、ミオリアの言葉を反芻した。

「竜王は、師も親友も、喰った」

ミオリアは、ベイルが共食いをしていることを、承知しているのだろう。その上で、特に止める気はない。何もしないだけだ。

ベイルにおける師とは誰だろう?ドロスがそれにあたるのだろうか?本人は絶対に認めないだろうが・・・

親友は、恐らく、自分がそれに当たるだろう・・・だとすれば・・・


俺も、ベイルに、喰われるのだろうか?


ベイルに喰われる・・・今までベイルに喰われてきた、あの敵たちのように・・・

アドニスは、悪寒がした。そして、考えないように、思考を閉ざした。




・・・・




ある戦闘で、ベイル傭兵団は、激戦となった。激戦の中でも、ベイルは敵のドラゴンと死闘を繰り広げた。倒したドラゴンは、死に際に、ベイルを狙って最後の力を振り絞る。そのドラゴンに対して、かつての砦で新兵が行ったように、味方がベイルを守るために、矢を放った。

ベイルは、その時と同様に、獲物を横取りされたと勘違いして、ブチ切れた。

味方に対して、再び、ベイルの翼爪が振り下ろされる。そして、この時もまた、アドニスが味方を庇った。

しかし、以前とは結果が異なった。共食いを続けて、体躯の大きくなったベイルの一撃は、岩竜であるアドニスの鱗を貫通し、その下の皮膚と皮下脂肪すら深くえぐり、内臓に達した。アドニスが、うめき声と共に、倒れた。

ベイルは、一瞬で興奮から覚めて、後悔して叫んだ。

「アドニス!アドニス!ごめん!済まない!俺は、そんなつもりはなかった!許してくれ!誰か、助けてくれ!」

ベイルが、その巨体に関わらず、子供のように泣き叫んだ。

アドニスは、かろうじて、命を取り留めた。




神殿のベットで寝ているアドニスを、ベイルが見舞いに来た。何度も、何度も謝罪した。他のメンバーも同席していたが、皆、こんなベイルを見るのは初めてだった。

アドニスは、ベットに横になったまま、ベイルを優しく見つめながら、言った。

「・・・もう謝るなよ。でも、もうキレるなよ。もしキレるとしても、次はせめて、もっと優しくやってくれ」

アドニスとは、こういう男だった。もしもこの時死んで、それでベイルが弔い替わりに喰らうと考えても、彼はそれを受けれられたかもしれない。


だが、それは、肉体の痛みに限った場合の話だろう。残念ながら、そうはならなかった・・・

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