ドロスとベイル-2

ドロスとベイル-2




少年の名前は、ベイルというらしい。ドロスに心を開くことは無かったが、看病していた娼婦にはその名を名乗った。

町が戦争の余波で略奪の対象になったときに、家に押し入ってきた兵士に、母、妹が連れていかれた末に殺され、目の前に居た父親が殺されたときに、ドラゴンになったらしい。

「そっか・・・」

話と聞いていた娼婦は、それだけを答えた。よくある話だし、それを行った当事者たちにくっ付いている手前、同情するのも偽善だろう。

少年は、怒っていた。家族を失って悲しむよりも、無力であった自分に怒っていた。

娼婦はそれを見て、思った。

多分この子は、こっちの世界に向いているだろう。ドロスの目利きは、恐らく正しい、と。


彼女の思ったことは、正しかったようだ。彼は悲しむよりもまず、怒り狂ってドロスに挑んだ。当然だが、勝てるわけなどない。ドロスは手加減しつつも、遠慮なくボコボコにした。ボコボコにされて帰ってきたベイルは、娼婦たちに看病された。可愛い顔立ちをしており、悲壮感を漂わせる彼は、彼女たちの母性を刺激したのだ。

これを何回か繰り返したのちに、勝つためには力が必要だと悟り、力を渇望するようになった。

ベイルは強くなるために、傭兵団の男たちのやっていることを観察した。とりあえずドロスを一対一で倒したかったので、剣の修練場で見よう見まねで、模擬剣を振ってみた。普通のサイズの模擬剣であるが、ベイルの体格では少し大きい。それでも彼は、それを振った。


傭兵団にも、多少は世代の近い少年たちが居る。それは入ったばかりの新兵だったり、娼婦の子供だったりした。そんな彼らは、身に合わない剣を振るベイルを馬鹿にした。ベイルは無視していたが、石を投げられた辺りで、彼らを睨みつけた。

ベイルは別に体格に優れているわけではない。ドラゴンに変身できはしたが、それとは別に、同世代の少年たちに比べて、圧倒的に違う点があった。

それは殺気。日常の生活にある中で、人を殺しうる精神状態に遷移する速度が、異常に早かった。

石を投げてきた少年に、一気に襲い掛かった。模擬剣を叩き込んで体勢を崩すと、鳩尾に蹴りを入れた。唸っている少年に追撃を入れようとした辺りで、少年の他の仲間が、ベイルを止めるために掴みかかってきた。

ベイルはそれでも止まらない。ドラゴンに変身しようとした辺りで、周りの大人が慌てて止めに入った。子供の喧嘩で、死人を出すわけにはいかない。

ベイルがそんな感じだったので、同世代の少年たちは近寄らなくなった。アイツはヤバすぎる、と。




ある日、ベイルが一人で剣を振っているところを、彼よりも少し年長の少年が眺めていた。彼の名前はアドニス。ずっと眺めてくるので、ベイルとしても、うっとおしくなり、剣を止めて睨み返した。

そんなベイルを見て、アドニスが謝る。

「あー、すまんすまん。本当にただ見てただけだよ。そんなすぐにキレるなよ」

ベイルが異議をとなえる。

「まだキレてない」

アドニスがおどけて返す。

「まだ、ってことは、やっぱりキレる予定があったのか?」

ベイルは嫌な顔をした。ここで相手をしたら負けた気がするので、無視して剣を振ることにする。アドニスは、そんなベイルに勝手に喋っていく。

「ドラゴン族はすぐにキレる、って言われているらしいけど、お前は別格だな。俺もドラゴンだけど、お前ほどキレないや」

ベイルはチラリとだけアドニスを見る。コイツもドラゴンだったのか。

アドニスは続ける。

「とはいっても、そうやたらキレると、キレる方も困るぞ。傭兵だって、なんだかんだで集団で動くからな。仲間とすぐに揉めるヤツは、一人でどれだけ強くても、結局は弱い」

弱い、と言う単語にカチンときたベイルは、再び剣を止めて、アドニスを睨み返す。

「だーから、そういうところだって。もう少し、自分を抑えろ」

アドニスは呆れたように言うと、ベイルから離れて行った。ベイルはイライラしてアドニスを後ろから睨みつけた。


なんだんだ・・・アイツは・・・


その日以降も、アドニスはちょくちょくベイルにちょっかいを掛けてきた。ベイルはその都度睨みつけて、アドニスが引く。これを繰り返すうちに、ベイルも気にしなくなってきた。他の連中と違い、悪意が無いという事が分かったからだ。

ベイルが剣を振り終わって休憩していると、アドニスが水筒を持って、こっちに渡してきた。ベイルは無言で受け取る。アドニスが、それを見て、たしなめる。

「礼くらい言えよな」

「・・・ありがとう」

ベイルは、少し言葉に詰まりながらも、ここは素直に礼を言った。

これを境に、ベイルとアドニスは徐々に話すようになった。

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