魔道(大罪)

ドロスとベイル-1

ドロスとベイル-1




一人の男が、戦火で焼かれた町の中を歩いている。デカい男だ。大柄な男よりも頭二つ分はデカい。その背中にこれまたデカい剣を背負っている。服装も派手で、デカい羽根のついた帽子を被って、派手な厚手の更衣を着て、だぶついた服の部分を紐でぐるぐる巻きに縛っている。その顔は狼のように鋭い。


男は傭兵団の隊長だった。名をドロスと言う。彼は戦場から戦場へと飛び回り、戦果を上げつつづける猛者だった。

竜王が亡くなり、帝国が崩壊してから、既に100年ほどが過ぎている。強者が君臨していたがゆえに、まとまっていた帝国が消滅したことで、内乱が勃発していた。それゆえに、彼が飛び回る戦場には事欠かない。


彼が歩いていたのは、そんな戦争で戦火に見舞われた町の一つであった。あちらこちらに死体が転がっており、略奪が行われている。火事の煙が立ち上り、人々の悲鳴が聞こえる。彼自身は略奪を行っていない。町に集約されていた財産は既に抑えており、後はそれを分配するだけだったからだ。


略奪をしないのに、なぜ町の中を歩いているのかと言うと、特に理由はない。散歩のようなものだ。彼にとって戦火に見舞われた町とは日常であり、特殊なものではない。時折、彼に向けて憎悪を向ける目線がある。中には、残兵や、家族を失った者が憎悪の伴った殺意を持って、彼に向かってくることもある。ドロスは、そういった者たちを、特に問題なく対処する。ある意味では、そういった者たちを待っている節すらある。彼の派手な恰好は、そういった者たちを引き付けるため、という理由も一つにはある。

ドロスは別に彼らを馬鹿にしているのではない。何となく、やるべきだと思ってやっている。自分の感覚を研ぎ澄ませたいのかもしれない。何もかも失った者たちに、最後の可能性を与えている気なのかもしれない。彼自身も、理由は分からない。


ドロスが歩いていると、廃墟となり、壁の崩壊した家が目に入った。なんてことのない光景だが、その崩壊した壁の向こうにある光景は、興味深いものだった。

そこには一人の少年が、息を切らしながら、立っていた。周りにあるのは、死体。まだ死んだばかりの、兵士の死体。その死体に付いた傷口は、まるで獣の爪に裂かれたような跡が残っていた。


このガキは、ドラゴン族の末裔か?


ドラゴン族。かつて君臨していた、竜王の眷属。彼らは感情が高ぶると、ドラゴンにその姿を変える。かつてはドラゴンになれるものも多かったが、今ではドラゴン族の混血が進み、変身できない者も多い。戦場では感情が高ぶるような状況が多いので、時折、こうやって先祖返りするように変身する者が出る。ドロスもドラゴン族の末裔であり、少年のように戦場で変身したので、良く分かっている。ドロスは、少年のいる廃墟に入っていった。


少年は、突如として現れた大男を見て、驚いた。そして暫くしてから、大男を憎悪に満ちた目で睨みつけた。派手な恰好をしたこの男が、この町を焼き払った者たちの棟梁であることを知っているのだ。大男は、大きな声で、少年に声を掛ける。

「オメーが、これをやったのか?」

少年は答えない。口で答える気など、ない。少年は再びドラゴンに変身した。熊ほどの大きさの、飛竜。が、変身が完了する前に、大男の蹴りが、少年の鳩尾を直撃した。少年は変身をし切れず、その場で呻きながら倒れた。

大男は、少年を見下ろしながら、大きな声で言う。

「いい根性したガキだな。気に入った。オメーは、俺が、持って帰る」

そう言うと、大男は少年をつまむように拾い上げて、肩に背負うと、廃墟から出て行った。あまりの傍若無人に、少年は抗議をしたかったが、声を出せる状況ではない。動かせるだけの力で、大男を殴るつもりで叩いた。大男は、特に気にする素振りもなく、そのまま自分の陣地に、少年を持って帰った。


ドロスは陣地にある自分のテントに戻ると、そこに居た馴染みの娼婦に、少年を投げるように渡した。女は驚いて、ドロスに尋ねた。

「どうしたの?この子」

「拾ってきた。面倒を見ておいてくれ」

ドロスはそれだけを言うと、再びテントから出て行った。女は、呆れたように出て行くドロスを見送った。

「・・・拾ったって・・・犬や猫でもあるまいし・・・」

女はそう呟くと、少年を見つめた。青い顔をして、ぐったりしている。鳩尾に思いっきり入ったので、呼吸が上手くいかず、酸素が足りていないようだ。女は少年をベットに寝かせると、優しく頭を撫でた。

少年はぐったりしたままだった。だが、手だけは握りしめていた。何も出来なかったのが、悔しかったのだろう。

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