序章-2
序章-2
その夜、凄まじい暴風が、帝都を襲った。
二体の、とてもない生き物が、凄まじい戦いを繰り広げている。一人は、千年君臨している竜王であることは分かる。もう一人は、翼を持つ角の生えた巨大な獣人のようにも見える。巨大な悪魔だった。
竜王は、帝都の外に出ようとするが、悪魔がそうさせないように誘導する。「夜中の帝都の上で戦い」という契約内容なので、そうしている。
災害のような二人が、夜中の帝都の上で、死闘を演じるのだ。その余波は、夢の中にある住民達を、実際の災害という形で襲う。多くの住民が、そのまま夢から目覚めることなく、亡くなった。
竜王と悪魔の戦いは、一晩中続いた。一進一退の戦いが続いたが、悪魔の方が紙一重だけ強かった。竜王の顎を左手で抑えつつ放った、悪魔の抉るような右手の一撃が、竜王の腹部に致命的な傷を負わせた。竜王は、帝都の中央にある宮殿に落ちていった。
悪魔は追撃をしない。「苦しんで死ぬように」という契約内容なので、そうしている。
宮殿に墜落した竜王の近くに、一人の女が走ってきた。竜王の寵姫だ。竜王は、声を振り絞って、寵姫に言う。
「・・・逃げろ」
だが、女は、呑気そうに答えた。
「逃げて来たから、ここに居るのよ。貴方が居るところ以外の、どこに逃げればいいの?」
寵姫は、竜王に寄り添う。竜王は、それ以上は何も言わなかった。自分だって、離れて欲しくなかったからだ。
寵姫は、呟くように、竜王と会った時からの話を始めた。
初めて会った時に、口説かれた話
宮中に上がって暫くしたら、放置された話
放置されていて、少しだけイラっとしていた話
一気に宮中の寵姫が増えたかと思ったら、一瞬で自分一人だけになった話
そのあと竜王と、再び話すようになった話
いつも一緒に居た時の話
危ないと言われても、無理矢理付いて行って、怒られた時の話
・・・
・・・
・・・
寵姫は、竜王と、千年一緒に居た。何となく、一緒に居た。なので彼女の語る話は、竜王の千年の話でもあった。
竜王の目から、涙が零れ落ちた。
寵姫の話は、ずっと続いた。恐らく、竜王は途中で息を引き取っている。それでも構わず、寵姫は話し続けた。
宮殿が、災害の余波で崩壊していく。それでも寵姫は、竜王の傍らで語り続けた。彼女は竜王と共に、崩れていく宮殿に埋もれてしまったが、きっとそれでも、語り続けていただろう。
悪魔は、竜王が死ぬのを確認した。悪魔に感情はない。あの竜王が、涙を流すほどに苦しんだのだから、「苦しんで死ぬように」という契約内容は、満たされたと考えてよいだろう。
「竜王と、夜中の帝都の上で戦い、苦しんで死ぬように、殺せ!」
全ての条件は満たされた。契約の対価の回収が行われる。
その夜、一夜にして帝都が災害にあい、帝国の中枢部に居た人達を含め、大多数の人が亡くなった。また、帝国の大貴族の一団が亡くなり、その領土の住民も、全て例外なく亡くなった。
何が起きたかを、まとめるとこうなる。
「帝国は、突如として、一夜にして、崩壊した」
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