序章「かぜのおはなし」

 むかし むかし ちいさな おかが ありました

 そこに ちいさな おんなのこが いました

 おんなのこは まいにち ぴやのを ひいていました

 ぽろん ぽろん きれいな おと

 まどを あけると おとが そとへ でていきました

 わたしは かぜ

 さらさらさら おかのうえを はしった

 あるひ おとが きこえて かぜは とまりました

 わあ すてきな おと

 かぜは そのおとを きいて うれしく なりました

 おんなのこは まどの そとを みて わらいました

 かぜさん きたの?

 わたしは うれしくて くるりと まわった

 おんなのこの ほっぺを やさしく さわった

 くすぐったい!

 おんなのこは もっと たくさん ぴあのを ひきました

 かぜも いっしょに うたいました

 ひゅうう ひゅうう ぽろん ぽろん

 ぴあのの おとと かぜのうたが いっしょに きこえました

 よるに なると そらに ほしが でてきました

 ひとつ ふたつ みっつ

 いちばん あかるい ほしが いいました

 ふたりとも なかよしだね

 ずっと いっしょだよ

 かぜが いうと おんなのこも わらいました

 まいにち かぜは おんなのこの そばに いました

 あさも ひるも よるも

 ぴやのの おとと かぜと ほしと

 みんな ともだちに なりました

 いつか もっと ながい おはなしに なるよ

 ほしは まってるよ きらきら

 おしまい


 さやちゃんへ かえでより


 2007年11月16日


(「風の物語集」より第一話、篠原楓、五歳の作品)


編集者付記:

 日付は当時篠原夫人が追記したもの。原文は平仮名のみ、句読点も不安定で、幼い鉛筆の筆跡で綴られていた。「ぴやの」という表記の揺れもそのまま残されている。最後は「きらきら」という擬態語で唐突に終わっているが、五歳の集中力の限界を示すように、そこに「おしまい」と大きく書かれていた。本書では読みやすさを考慮し最小限の体裁を整えたが、楓の言葉はそのまま残した。

――水瀬千尋

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