第18話12年目の導火線



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### 第18話 12年目の導火線


取調室の空気が、張り詰めた糸のように震えていた。

「……お兄ちゃんは……元気…だった…?」

12年分の想いが凝縮されたそのか細い問いに、多重寺は静かに頷いた。

「ああ。元気に働いてた。お前のことを…ずっと心配してたぞ」


その言葉が、最後の引き金だった。

「心配」という、兄の優しさ。それこそが、絹代の心を最も深く抉る刃だった。

彼女の顔から、一瞬見えた妹としての弱さがすっと消え失せる。俯いた顔を再び上げた時、その瞳には、先程までの脆さは微塵もなく、凍てつくような光が宿っていた。


「…へえ。それで?」

挑発的な笑みが、その唇に浮かぶ。

「お涙頂戴の話はもういいわ。用件を聞きましょうか、刑事さん。うちが、あの爆破事件の犯人だって言うんでしょ?」


あまりの変貌ぶりに、井上は言葉を失う。

絹代はテーブルに身を乗り出し、刑事二人を睨みつけた。その姿は、再び硬い殻に閉じこもった、傷ついた獣そのものだった。

「金の流れがどうとか、そんな証拠でしょ? 知らないわよ、そんなの。男に騙されて、口座を使われただけかもしれないじゃない」


「ふざけるな!」

井上が激昂する。

「お前が主犯格の一人だということは分かってるんだ!」


「証拠は?」

絹代は冷ややかに言い放つ。

「憶測だけじゃ人は裁けないのよ」


その時、それまで黙って二人を見ていた多重寺が、静かに口を開いた。彼の声は、熱くなった井上とは対照的に、氷のように冷たかった。


「俺たちが知りたいのは、爆破事件のことだけじゃない」


多重寺は、射抜くような目で絹代を見つめた。

「12年前、お前の兄貴が罪を被った、あの事件の真相だ」


その言葉に、絹代の表情が初めて固まった。

「…昔の話を蒸し返して、何になるって言うのよ」


「なるさ」

多重寺は、確信に満ちた声で、二つの事件を結びつける、大胆極まりない仮説を突きつけた。

「12年前のあの事件こそが、今回の爆破の、全ての始まりなんじゃないのか?」


「……!」


「お前はただのテロリストじゃない。12年越しの復讐に、加担しているだけだ。違うか?」


その、あまりにも核心を突いた指摘に、絹代は激しく動揺した。

彼女は思わず立ち上がり、机を叩きつけて叫んだ。


「**なにを! 爆破テロと12年も前の事件となんの関係があるって言うのよ!**」


それは、渾身の否定だった。

だが、その激情こそが、彼女が二つの事件の関係性を知る、まさに当事者であることを、何よりも雄弁に物語っていた。

自ら墓穴を掘ったことに気づき、絹代はハッと息を呑んで口をつぐむ。


多重寺は、静かに言い放った。

「関係があるから、お前は今、ここにいるんだろうが」


ガシャン、と音を立てて、彼女の中で何かが砕け散った。

強固な虚勢が、跡形もなく崩壊する。

絹代は、糸が切れた人形のように、椅子に崩れ落ちた。


長い、長い沈黙が、取調室を支配した。

やがて、全ての抵抗を諦めたように、彼女は深く、深く息を吐き出した。

その目は、取調室の壁のシミを見つめ、まるで遠い過去の光景を映しているかのようだった。


そして、**絹代は静かに、語り始めた。**


「…すべては…12年前の、あの夏の日から始まったんです」


その声は、もう鈴木君代のものでも、虚勢を張る容疑者のものでもなかった。

12年という長い時を経て、ようやく動き出した、巨大な事件の歯車。その最初のひと回しを告げる、壊れそうなほどか細い、本物の声だった。


「あの人を…殺してしまった、あの日から…」

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