第十一話 日の始まり
朝の温泉街は、まだ輪郭が柔らかい。
湯気が路地に溜まり、声は遠回りして届く。
観光地として動き出す前の、短い時間だ。
まずは、探索になる。
生徒たちが集まるのを待ち、告げる。
「己の歩みに合わせるのは困難だろう。
進路は、君達で決めるといい」
一瞬の間。
「……じゃあ、あっちから行くか?」
「人少なそうだしな」
「でも、報告あったのは反対側じゃなかった?」
小さな声でやり取りが始まる。
地図を見て、視線を走らせ、意見が割れる。
己は口を挟まない。
「着いていこう」
そう言って、一歩引く。
先頭に立つのは、生徒だ。
男子の一人が歩き出し、他の二人が続く。
己は、その後ろについた。
歩調は、彼らに合わせる。
速くも、遅くもない。
路地を曲がる。
湯気が濃くなる。
「……なんか、こっち静かじゃない?」
「朝だからだろ」
「でも、音が変じゃない?」
会話は続く。
だが、結論は出ない。
その背中を追いながら、袷羽織の衿に触れる。
波の位置を、わずかにずらす。
主張しない程度に。
均衡を崩さない範囲で。
空気が、落ち着く。
彼らが気付いているかは、分からない。
橋の手前で、生徒が立ち止まる。
「……こっち、行く?」
「遠回りだけどな」
迷った末、回り道を選ぶ。
己は何も言わない。
ただ、同じ方向へ進む。
羽織を、また少し整える。
場が、正されていく。
派手な変化はない。
何も起きない、という状態が続くだけだ。
「……結局、何もないな」
「逆に怖くない?」
「考えすぎだろ」
声は軽い。
だが、足取りは慎重になっている。
観光客の気配が増え始める。
朝が、完全に始まりつつある。
探索は続く。
己は、黙って着いていった。
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陰陽は柄に宿る──術の使えない、最も厄介な存在 濃紅 @a22041
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