第4話 黒ギャルとエンドレストーク

 その後も二人は食事をしながらいろいろなことを話した。

 大抵はクロミが一方的に喋って、勇馬ゆうまがそれに答える形だったが、彼女はやけに楽しそうだった。


縞田しまだっちは放課後いつも何してんの?」

「うーんと、基本は部活終わったらそのまま家に帰るだけだけど……たまに本屋とか寄り道して買い物していくこともあるかな」

「へー! 本買うとか頭良さそー!」

「頭良いのハードル低すぎじゃない……?」


 勇馬は呆れ顔でツッコミつつ、


「本って言ってもほとんどラノベか漫画だから、そんな高尚なものじゃないと思うよ。今日も集めてる漫画の最新刊買ってたんだ」

「え! なになに、何買ったん?」


 クロミは興味津々といった様子で訊いてくる。

 勇馬は通学鞄の中から、先ほど購入した漫画を取り出した。


「これだよ。『ばっど・ざ・くらしっく』って言う漫画で、最近アニメもやってたんだけど……」

「うっそ! 『ばどくら』じゃん!」

「え……知ってるの?」

「うん! だってあーしアニメ全話視たし! ちょー面白かった!」


 あっけらかんと言い放つクロミに、勇馬は衝撃を受ける。

『ばどくら』は言ってしまえば萌え系漫画だ。作中の登場人物は女の子ばかりとは言え、女性をメインターゲットにした作品ではない。


「? 縞田っち、なんか固まってね?」

「あ……ごめん。豹堂ひょうどうさんがアニメ見るなんて意外で……」

「はぁ~? 今時のJKなんてみんなアニメ見てっから! 縞田っち価値観古すぎな!」

「そう……なのかな……?」

「そうだよ! あーしめっちゃアニメ見るし! 特に『ばどくら』のアニメは最高でさ~。……って、わ~! 漫画の絵ってこんな感じなんだ!」


 言って、クロミは勇馬から受け取った漫画本をパラパラと捲って目を輝かせている。

 まさかこんなところに、好きなものを語り合える仲間がいたとは思わなかった。


「豹堂さんは他に、どんな作品が好きなの?」

「んっとね~」


 そうしてクロミが挙げたいくつかの作品は、全てがラブコメや日常系の漫画だった。

 勇馬はどれも読んだことがある――むしろお気に入りの作品たちだ。

 そのことを告げると、クロミは嬉しそうに漫画から顔を上げた。


「マ⁉ あーしと縞田っち、くっそ気ぃ合うじゃん! うぇーい!」


 そう言ってハイタッチを求められ、勇馬もぎこちなくそれに応じる。


「あーし、あんまバトル系とかって好きじゃないんだよね~。グロいのとか無理だし、なんか話もむずしーし。だから、ばどくらみたいな、ゆるーい話が好き!」

「うんうん、わかるよ。たとえ漫画の登場人物でも、人が死ぬところを見ると気分が落ち込むよね」

「マジそれ~! この前お兄ちゃんの持ってた漫画読んだんだけどさ、何も悪くないキャラが急に殺されちゃうシーンがあって、うわかわいそ~って思って、そこで読むの止めちった」


 クロミも勇馬と同じで感受性が高いタイプなのだろう。

 感情移入しすぎて、その登場人物がひどい目に遭っているところは見ていられないのだ。


「けど、ばどくらはそーゆーのないから安心して見れんのがいいよね~! 怖いとこ無いって知ってたら、テキトーに流し見もできるし!」

「そういうところが日常系の良さでもあるよね」


 言うと、クロミは「日常系……?」と首をかしげていた。

 アニメはたしなむようだが、その手の用語の知識はないらしい。勇馬は噛み砕いて説明してあげる。


「へー、日常系ってゆうんだ! いいこと教えてもらっちった~! 帰って早速日常系アニメ漁ろっと!」


 そうしてスマホに手をかけたところで、クロミは思い出したように言った。


「あ、てか縞田っち、あーしとLIMEライム交換したっけ?」

「ううん、してないけど……」

「マジか! じゃあ今交換しよーよ!」


 勢いに押されて、勇馬はクロミとメッセージアプリのアカウントを教え合う。


「これで家いる時でもトークできんね! 縞田っち、おもしれー作品あったら必ずあーしに報告するんだぞ!」


 そう言われ、勇馬は苦笑しながら「わかったよ」と告げる。

 やがて外が暗くなっていることに気付き、二人は店を出た。

 帰りの電車は別々の路線なので、二人はコンコースで別れを告げる。


「縞田っち、今日はマジありがとね!」

「ううん。ご馳走になっちゃったし、こちらこそありがとう」

「へっへ。どういたしまして! てかまたご飯行こーよ! 縞田っちと話すのめっちゃ楽しかったし!」

「そ、そんなに楽しかったかな……?」


 こちらとしては、言われるほど楽しませられたという手応えがあったわけではないのだが。


「うん! あーしめちゃ喋るじゃん? だから割とウザがられることも多いんだわ。仲良い玲音れおんとかえなちからも雑に流されることあるくらいだし」


 でも……と、クロミは晴れ晴れした笑顔を向けて、


「縞田っちはあーしの話ちゃんと聞いてくれるから好き!」

「……っ」


 好き。

 こんな美少女から面と向かってそう言われて、ドキドキしない男子はいない。


(い、いや、これは友達としての好きって意味だ。下手に舞い上がるのはよくない……)


 勇馬は頭を振って、自惚れた妄想を消し去ろうとする。


「そんじゃ縞田っち! また明日ね!」

「うん、また明日」


 そうして二人は背を向けて別々のホームへと向かう。

 電車に乗ると、ふと寂しさがこみ上げてきた。


 いつも勇馬は一人で帰っている。

 学校に友達がいないというわけではない。むしろ多い方だ。人当たりが良く親切心を備えている勇馬は、出会った人に大抵は好印象を持たれていた。


 だが、放課後一緒に帰ったり、プライベートで遊んだりするような深い付き合いの親友はいない。

 だからこそ、一人には慣れているつもりだったのだが……。


「……もう少しくらい、豹堂さんと話していたかったな」


 なんて呟いたその時。

 スマホがピコンピコンピコン! と連続で鳴った。LIMEの通知欄を見ると、先ほど交換したばかりのアカウントからだ。


『縞田っち~!』

『てか今更初LIMEとかウケるwww』

『さっきの話の続きだけどさ――』


 メッセージの中でも騒がしいクロミの文面に、勇馬は噴き出してしまう。

 そうしてその日、勇馬は帰ってからもクロミと延々とトークをした。


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