第3話 黒ギャルとハンバーガー

「あははっ! 楽しかった~!」

「僕は全然楽しくなかったけどね……」


 狩野かのからなんとか逃げおおせた二人は、まったく逆の感想を漏らす。


 まさか帰り道であんな修羅場に出くわすとは思わなかった。

 狩野と対峙した時のヒリついた感覚が未だに肌に残っていて、勇馬ゆうまはげんなりとうなだれる。


「でも、助けてくれてありがとね、縞田しまだっち。マジ助かった!」

「ああ、うん……気にしないで。僕の自己満足みたいなものだから」

「そんな謙遜すんなし! あの時の縞田っち、ガチでカッコよかったから!」

「それはどうも……。ていうか豹堂ひょうどうさん、そんなくっつくと……」


 クロミはまたもや抱き着いてきて、勇馬の背中にはぽよぽよと立派なお胸の感触が伝わる。

 ようやく離れてくれた彼女は、こんな提案をしてきた。


「縞田っち、よかったらさっきのお礼にご飯奢らせてよ!」

「え⁉ いいっていいって! さっきも言ったけど、あれは自分がしたくてやったことだから」

「遠慮なんかしないで、素直に奢られとけ? あ、それともこの後なんか予定ある?」

「いや、特にはないけど……」

「じゃー決まり! あーしが行きつけのお店連れてってあげっから!」


 そこまで言うならと、勇馬はお言葉に甘えることにした。

 クロミに連れられてやって来たのは、駅前にあるチェーンのハンバーガーショップだった。


 二人はレジにて注文を済ませ、やがて商品を受け取って席に着く。

 夕飯時で店内は混みあっていたため、勇馬たちは窓際のカウンター席に横並びになって座った。


「てか縞田っちのチョイス、マジうけるんだけどw」


 勇馬のトレーに乗っているのは、大量のレタスやトマトを挟み込んだベジタブルバーガーだ。肉に見えるのはソイパティで、主要な原材料には動物性食材を一切使用していないらしい。

 サイドメニューもポテトではなくサラダをチョイスした。


「そんな緑色ばっかでほんとにいいん? もしかしてダイエットしてるとか? 縞田っち、ぜんっぜん太ってるようには見えないけど」


 ケラケラと笑いながら、クロミはためらいなく勇馬の二の腕やお腹をつついてくる。

 不意打ちすぎるボディタッチで勇馬は悲鳴を上げそうになった。


「ダイエットじゃないよ。単に野菜が好きなだけなんだ」

「マ? 野菜好きな人間とかこの世にいるの?」

「君の目の前にいるよ……」


 勇馬は生粋のベジタリアンだった。

 レタスもトマトもナスもカボチャも、みんなみんな大好きだ。

 夏は特に最高だ。夏野菜、超美味い。


 完全菜食主義者ヴィーガンというわけではないので肉や魚を食べることもあるけれど、基本的にはこういったヘルシーな食事の方が好みだった。


「そう言う豹堂さんは……なんか、凄いね……」

「へへ! 美味そうっしょ!」


 一方、クロミのトレーに乗っているのは極厚ビーフパティが三段重ねになっているカロリーの塊みたいなハンバーガーだった。サイドにはフライドポテトとオニオンリング。ドリンクもどでかいXLサイズだ。


「そんな食べて大丈夫なの?」

「あ! もしかして縞田っち、こんなに食べたら太るとか思ってるんでしょ? 脂肪は全部おっぱいに行くからへーきだって!」


 言って、クロミは自慢の巨乳を手のひらで支え、たゆんと揺らしてみせた。

 そういうものなのだろうか……? モデルってもっと、食事制限とかしているイメージだったが。


「ん~めちゃウマ! マジ幸せ噛みしめてるって感じ~♪」


 クロミは満面の笑みを浮かべてハンバーガーにかぶりついている。

 ……まあ、本人があれだけ幸せそうにしていたら、それを止める権利は勇馬にはない。


(本当によく食べるなぁ……)


 なんていう風にクロミの食事風景をまじまじ見ていると、


「ん? どしたん? ……あ、さては縞田っち、あーしのバーガー食いたくなった? やっぱそんだけじゃ足んないんでしょ?」

「え? い、いや、そういうわけじゃ……」

「だーかーらー、縞田っちは遠慮しすぎなんだって! ほらほら、あーしの食べていいよ!」


 そう言って、クロミは自分の食べ掛けのバーガーをずい、と差し出してくる。

 ぎっちぎちに詰まった茶色いパティは改めて見ると迫力抜群だ。


 だがそれ以上に、


(これって間接キスになるんじゃ……?)


 という懸念が勇馬の頭を支配した。


 意識すると、視線は自然とクロミのぷるんとした唇に向かってしまい、気恥ずかしさを覚える。

 しかし当の彼女は一切気にしていない様子で、「一気にガブっといっちゃえ!」と勇馬に一齧りを催促していた。


(僕がここで断ったら、豹堂さんとの間接キスを嫌がってるみたいだし……)


 ぐるぐると無駄にいろいろ考えて、結局勇馬は思い切ってそのハンバーガーにかぶりつく。


「……あむっ」

「良い食べっぷりじゃーん! どう、縞田っち?」

「す、すごい……お肉と油の味が口に広がって……」

「でっしょー⁉ それが最高に美味いんだよねー!」


 勇馬としてはそこまで好きな味ではない……というよりむしろ、間接キスが気になってバーガー自体にはあまり意識が向かなかったのだが。


 とりあえずクロミは満足してくれたようなので、勇馬はホッと胸を撫でおろした。


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