彼女、できちゃった

 なぁ、皆んな。ちょっと聞いてほしいんだけど、いいかな。完全犯罪ってどうやるか知ってるか。実は俺、知ってるぜ。

 みんなは何だと思う?見た人や証拠を全部を隠滅する?それとも、警察とかを味方にしてそもそも裁けないようにするとか?いいや違うね。

 証拠は隠滅したところから新しく生まれるから隠滅しきれないし、警察を味方にしても、結局誰かに裁かれるのがオチだ。(大体の刑事作品だったりも、そうだろ?)

 そう、そこで俺の考える完全犯罪。それは…誰にも興味を持たせないことだ。

 だってそうだろ。例えば、『狂気!大量殺人事件!証拠はいずこへ!』なんてなったら警察だけじゃなくて、たくさんの人が興味を持つだろ?俺だって気になる。

 大量の人の関心が集まった事件となれば警察だって本腰を入れて捜査するだろうし、犯人からしても証拠を残さないように犯行するなんて、まぁ無理な話だ。

 ところがどっこい、『どっかの誰かが、ショートカットのために私有地を通りぬけました』なんてことになったらどうなる。気になるか?俺は気にならないね。それに、土地の所有者だって通り抜け程度でいちいち怒ったりもしないだろうし、結局すぐ忘れるだろう。そうなれば、通報されることもない。例えされたとして、警察も適当にあしらって終わり…って、そんなところかな。

 つまるところ、興味のないことを追求しようと思うやつは居ないってこと。もっと言えば、無駄に注目を集めるような余程の悪いことは出来ないってことだね。


 ふぅ、さてと。あ、さっき言ったことは今から話すことと何も関係無いから忘れてもらっていいよ。

 それで本題に入ると、今日何故か彼女ができたんだ。

 こう書くと割りかし淡々と言ってるように聞こえるだろうけど内心結構穏やかじゃないんだよ。

 まぁ、喜び半分、怒り四分の一、焦り四分の一ってところかな。

 っていうのも、相手の女子。名前は大森陽子おおもりようこっていうんだけど。あの野郎、何故か告白する場所に大量に人を呼びやがったんだよ。

 いや驚いたね。だって約束の時間に体育館裏行ったら、クラスどころかほぼ全校生徒来てるんだもん。逃げようとしたら女子に見つかって肩掴まれてさ、挙句にひきずられて陽子の前に放り投げられるし。

 それで、陽子が「好きです!付き合ってください!」って、天にも届きそうなくらいの大声で。

 なぁ。大量の視線、山より大きな期待、どんなプレス機でもかけられないような圧力…そんな状況で、どうして断れると思うよ。

 「いいよ」ってたった一言を、蚊が泣くような声で言ったよ。

 言った瞬間の会場はすごかったね。鼓膜が破れそうなくらいの声援、歓喜、叫び声はまだ序の口で、俺を胴上げする男子の奴らにキャーキャー言いながら陽子を弄り倒す女子たち。そして向けられるスマホ、一眼レフ、映画撮影用デジタルシネマカメラ…。言っておくがシネマカメラも嘘じゃない。映画撮影部の奴らが持ってるマジの本物だ。全く親の権力ってのは恐ろしいもんだね。

 閑話休題、ここから分かることはたった一つさ。俺と陽子の関係は全国レベルで周知の事実となったってことだ。

 いやはや参ったね。さっきツイッターを見たらくだんの映像のいいねが百万を超えていやがる上にトレンド一位に告白が躍り出てるじゃねえか。もう俺は頭を抱えるしか無いって訳さ。

 …まぁ、こんな風にボロクソに言ってはいるけど、俺自身陽子の事を嫌いな訳じゃないんだ。と言うか寧ろ、気になる人物の一人だった。

 アイツとは、面識だけで言えば中学の時から関係があった。とは言っても、1回だけ同じクラスになった事があるってそれだけ。本当に、ただそれだけだ。良く会話するような仲でも無かったし、なんなら挨拶すらしたことも無い様な関係だった。元々、俺もアイツもフレンドリーな人柄でもないしな。

 だけど、俺は陽子の事を忘れられないでいたんだ。理由は勿論ある。挨拶する事は無かったけど、何故だか目が合う事は良くあったんだ。帰る時、体育の時、登校する時、授業中のふとした瞬間にも。主に、彼女の視線に俺が気づく形でね。

 思えば、あの頃から陽子は俺の事を好きだったのかもしれないな。真相の程は分からないけど。

 でも、俺もそれを楽しみにしていた節がある。

 彼女の吸い込まれそうな黒い瞳、意外とぱっちりとした目、ゆったりとした印象を与えられる童顔。黒い髪はショートカットに切り揃えられていて、美人とも言えなくもない容姿だった。思い起こせば、あのクラスに居た時の記憶ばかりが蘇って来る。それも、あの顔ばかりが。

 「なんだ、ゾッコンじゃないか。こいつめ」と、思うかもしれんが。仕方が無いじゃないか。だって好みドストライクなんだから。理想の女性を相手にしたら誰だって舞い上がるほど嬉しいに決まってるだろ。馬鹿め。

 はぁ。まぁそんなわけで、俺、吉野拡には無事、彼女が出来たということで。この話を終わりにしようと思う。

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